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2013/10/24

第4回 米国補綴歯科専門医プログラム

 

今回は補綴専門医プログラム全般と著者が受けたハーバード大学での補綴歯科専門医教育について書かせていただきます。

歯学部学生補綴教育と卒後専門医プログラム補綴教育の違い

多くの場合、歯学部学生教育(Predoctoral, Predoc)をどこまでやって、どこから卒後専門医プログラム(Postgraduate, PG)で教えるのかという教育レベルの基準は、大まかに定義付けられています。補綴の場合は、欠損部歯槽骨の顕著な吸収が認められる義歯、一顎連続6歯以上の補綴、既存の咬合高径を変える必要性があるような全顎補綴など、難易度の高い症例は補綴PGクリニックでの治療対象になります。また咬合や顎関節などの診査診断レベルにも違いがあります。さらに総義歯の症例においては、PredocとPGの両方のクリニックで診療が行われますが、Predocには講義では教えるチェックバイトによる下顎顆路角の調整、ゴシックアーチ、両側性平衡咬合の付与などは臨床治療では要求しません。さらに技工作業も基礎床や咬合床作成、人工歯配列まではPredocでも必須ですが、埋没・重合などの義歯作成最終工程はPGのみが必須です。補綴は他のPGに比べると、PredocとPGの境界線は不明瞭で、大学によっても細かい違いがあります。

補綴PGを選択する利点

『補綴治療における補綴専門医と一般歯科医との違いは何か?補綴PGに行く利点は何か?』という歯学部学生からよく受ける質問があります。補綴PGを修了することによって下記のような様々な利点があると思われます。

・歯内・歯周・矯正・口外などの他専門医との連携を考慮した広い視野で、高いレベルの全顎  的治療計画を客観的に考えられるようになる。
・通常Predocでの義歯症例経験が十分ではないため(多くの大学では総義歯2〜4顎、部分  床義歯4顎)、補綴PGにてそれらの難易度の高いものを含む何倍も多くの症例を経験する  ことにより、一般歯科医の義歯治療レベルとは格段に違いが生じる。
・インプラント(埋入・補綴を含むPredocより高いレベル)を始めとする複雑で高度な先端治療  を経験・勉強することができる。
・補綴PGでは徹底的にEBD (Evidence based Dentistry − 科学的基礎・臨床研究結果に基  づいた歯科医療)に即した治療体系・方針を学ぶことができる(膨大な量の研究論文を読ま  なくてはならない)。
・診断用ワックスアップ、義歯人工歯配列・重合、ポーセレン・オールセラミック冠などの技工  作業も補綴PGでは行うことが多いので、技工に関する知識が豊富になる(将来自分自身で  は技工をやらないとしても、技工士さんとコミュニケーションをとる上において非常に重要)
・治療計画セミナーを始めとする臨床セミナーで、自分の症例や考察を発表する機会が頻繁  にあり、プレゼンテーションの経験・勉強になる。

上記にあげた利点は、生涯研修セミナーやコースなどに参加することにより、個人レベルでも知識・経験の修得は可能ですが、補綴PGではそれらを非常に密度の濃い短期間で、さらに経験と知識の豊富な補綴専門医教官の指導下で、教育を受けることができるという点を強調したいと思います。

ハーバード大学大学院

ハーバード大学歯学部正面玄関
【図1】ハーバード大学歯学部正面玄関

次に著者が受けたハーバード大学での補綴歯科専門医教育について紹介したいと思います。ハーバード大学歯学部は1867年に全米最古の大学歯学部として設立され、大学院は9つ全ての専門医プログラムに加え、一般歯科医研修、生物材料、高齢者歯科、口腔顔面疼痛・顎関節症、Oral Medicine、Dental Informaticsといったプログラムも設置されています。学生数は歯学部では1学年35人と全米でも最少人数で、大学院も各プログラム3〜5人で1学年30人前後とかなり小規模です。またハーバード大学の特徴の一つとして、他大学と比べて最もと言っていいほど研究に重点をおいた教育が行われており、大学院生のみならず歯学部生も研究課題が必須となっています。ハーバード大学での卒後教育は一般歯科、小児歯科以外の全てのプログラムが通常の選択性ではなく、大学院生として修士もしくは博士の学位を取得しなければなりません(口腔外科は研修医2〜3年目の間に医学部3、4年生に編入しDoctor of Medicine, MD 医師の学位を取得します)。他大学での PG は通常学位取得は必須ではなく選択性で、PG プログラム修了書授与のみです。

ハーバード大学歯学部学生診療クリニック受付

【図2】ハーバード大学歯学部学生診療クリニック受付

ハーバード大学歯学部教育研究棟

【図3】ハーバード大学歯学部教育研究棟

授業・講義

学位取得には歯学部大学院での授業と医学部、公衆衛生学部などの他学部大学院の授業を受けなくてはなりません。7月に入学すると早速歯学部大学院の授業が始まりますが、それはなんと頭頸部解剖です。全科の大学院生はこの授業が必須とされており、2週間毎日頭頸部だけを集中して学生4人で1体の解剖をやります。もちろん最終日には遺体を使っての解剖実習試験もありました。解剖は著者にとって19年ぶりでしたが(現役の大学院生は4年ぶり)、臨床医として再度勉強するのはとても大切な事だと強く感じました。解剖以外の必須授業には統計、免疫、微生物、結合・石灰化組織、病理、薬理、インプラント歯科などがあります。授業によっては毎週試験がある教科もありますが、多くは中間・期末試験で合否が判定されます。

サマーコース・臨床・技工

米国のほとんどの補綴 PG では、7月に入学するとサマーコースといって約2〜3ヶ月間、歯形彫刻、全顎ワックスアップ、顎歯模型による支台歯形成からテンポラリー作成・印象・作業模型作成・金属冠もしくはポーセレン焼付鋳造冠作成といった一連の作業工程を全て自分で行うトレーニングコースがあります。このコースでほぼ全ての技工作業を習得し、秋から始まるクリニックで患者さんの治療へと移行していきます。

サマーコースが終了すると約30人前後の患者さんがそれぞれに配当されます。学年によって取得している授業やセミナーの時間が様々なため、クリニックの時間はまちまちです。基本的には朝8時〜11時、12時〜3時、3時〜6時の3セッションがあります。歯学部教育と同じように曜日によって異なる担当教官が指導を行います。ほとんどの教官は個人開業医で週に1日非常勤教官として学生クリニックで教えています(しかも彼らはボランティア−無給)。症例としては、歯学部生が治療困難と思われるものが補綴大学院生に配当されるので、多くの場合全顎補綴治療かそれに近い症例を担当しています。前述しましたが、それらの治療計画や診断用ワックスアップなどに多くの時間を割くことも補綴PG教育の特徴の一つです。

米国の多くの補綴 PG は、基本的に部分床義歯の金属床の鋳造以外は全て自分で出来るようにトレーニングされており、ポーセレン焼成も自分で行うのが特徴で、日本と最も違うところではないかと思われます。やはり自分で行うと形態・彩色などの勉強になると同時に技工士さんの大変さが身にしみて理解できるようになりました。

論文抄読会・研究セミナー

米国での専門医プログラムではそれぞれの協会が(補綴の場合American College of Prosthodontists)が教育の一環として、必読の論文を古典的なものから最新のものまで幅広くピックアップしており、それらに基づいての論文抄読会を行っています。つまりどの補綴のプログラムを終えても同じようなコンセプトに則った専門医を養成するという目的があります。日本にも論文抄読会というものはありましたが、独自で選んだ比較的最近の論文を抄読するという違いがあります。

また自分の研究テーマ・結果を発表する研究セミナーというのも毎週1時間あります。これは大学院生全員参加で修士課程大学院生は3年生時1回、博士課程大学院生は3年生時1回と4年生時1回の計2回発表しなくてはなりません。これらには研究担当の教官達も参加するので、念入りな準備と発表内容の検討も強いられます。これらはハーバード大学独自の特徴であり、研究を非常に重視した教育の一環であると思われます。

治療計画検討会・マルチディスプレナリーセミナー

前述のように私達が担当している症例はかなり困難で、全顎治療が必要な場合が多いので、この治療計画検討会は最も重要なセミナーの一つとして毎週3時間かけて担当者1人が1つの症例の治療計画について発表し、それを皆で教官を交えて検討・討論を行います。困難であればあるほど、治療計画はいく通りも考えられ、それぞれについて色々な利点・欠点について考察しながら、自分の選んだ治療計画の正当性を主張しなければなりません。また治療の進展具合についてもコンピュータのPowerPointを用いて症例写真を示しながら、様々な指示・解説を受けることになります。人それぞれ考え方も多様ですので、それらからかなり白熱した議論になることもしばしばです。

米国の歯科専門医制度の特徴の一つとして、マルチディスプレナリー・アプローチというのがあります。分かりやすくいうと、一人の患者さんを各専門医がそれぞれの立場から診断・治療を行い助け合って、最終的に一つの口腔組織として治療を完成させるという方針です。毎週1時間1つの症例について、歯内・歯周・補綴・矯正が合同で行う検討会をマルチディスプレナリーセミナーと呼びます。各科の大学院生と教官たちも全員参加し、大講堂にて行われます。補綴だけのセミナーとは違い、かなり大勢の前での発表の練習にもなりますし、各科の違った考え方・アプローチの仕方など、このセミナーから学ぶことは少なくありません。

ハーバード補綴 PG を修了して

以上のように大学院の授業・テスト・患者さんの治療・技工・論文抄読・種々のセミナー・研究実験などめまぐるしい毎日を過ごし、時にはあまりに忙しすぎて、自分が今何をしようとしていたのか分からなくなることが多々ありました。しかしながら、現在著者が自信を持って学生教育や臨床を行えるのも補綴 PG での非常に重要な経験・教育に基づいたものであることを強く確信しています。

次回は米国での生命科学研究について書かせていただく予定です。

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