第83回:歯質接着システムは進化している?

カテゴリー
記事提供

© Dentwave.com

コンポジットレジン(CR)の歯質接着システムは、3ステップ(エッチング、プライミング、ボンディング)システムから2ステップ・2ボトル(セルフエッチングプライマー、ボンディング材)システム、さらに1ステップ・1ボトル(エッチング・プライミング・ボンディング成分混合)システムへと簡略化が進み、ついに最近では0(ゼロ)ステップのセルフアドヒーシブ(自己接着性)・フロアブルCRも登場している。ここまで行くのかという思いとともに、これでよいのかというのが筆者の実感である。 ゼロステップ製品は我が国ではまだ上市されていないが、従来からの基本的にエッチング・プライミング・ボンディングのプロセスを含む接着操作なしに、これまで利用されているリン酸系やカルボン酸系の酸性接着性モノマーを含むレジンペーストを歯面に適用することにより接着、充填を同時に行うものである。米国のあるメーカーのカタログには"コンポジット技術の進化"と謳われているが、ステップ数を減らすだけで"進化"といわれると戸惑いを感じざるを得ない。接着性が従来品と同等以上であれば、それは進化といってもよいであろう。しかし、残念ながら、メーカーの技術資料が示すような歯質接着性は得られず、かなり劣るというのが現実であるらしい。このセルフアドヒーシブ・フロアブルCRは、2008年頃からわが国でも登場したセルフアドヒーシブ・ルーティングセメント(SALCと略)のいわばCR版である。 そのSALCについて第31回で取り上げたが、その締めくくりに次のようなことが記されている。"これまでに報告されているデータの傾向からすると、前処理不要なSALC はセラミックス、金属などにはかなりよい成績を示すようであるが、歯質に対しては前処理を含むレジンセメントと同じような結果を望むのはむずかしい現状となっている"。このことは、約4年経過後もあまり変わらず、最近の論文や学会報告でも追認されている。ガラスセラミックと象牙質を各種SALCおよび従来型レジンセメント(パナビア21)で合着して24,000回の熱サイクル試験(5⇔55℃)を行った結果、象牙質ではいずれの場合も界面破壊でせん断接着強さは1種を除いて5種はパナビアより劣っていたが、セラミックではその凝集破壊で接着強さに違いは認められなかった(Dent Mater 2012年11号)。 さらに、12月上旬東京で開催された接着歯学会学術大会でもセルフアドヒーシブシステムに関する発表が見られた。1件は、オールセラミッククラウン修復におけるSALCと比較対照の被着面処理を要するレジンセメントの辺縁封鎖性を調べたものである。支台歯にクラウンを接着後、繰り返し荷重(1.3 kg、98回/分、72時間)負荷後、接着界面の色素侵入を検討したところ、3種のSALCは3種の従来型レジンセメントにくらべ封鎖性が劣っていた。もう1件は、ゼロステップCRを半球状のエナメル質・象牙質窩洞に填塞、光重合硬化、1,000回の熱サイクル試験(5⇔60℃)後、色素浸透試験により辺縁封鎖性と窩洞適合性を評価したところ、ゼロステップCRは安定した接着性を示さず、また辺縁封鎖性、窩洞適合性は不十分であるという。 いずれにしても、セルフアドヒーシブシステムは信頼性に乏しいというのが筆者の見方である。本当のことをいえば、セルフアドヒーシブシステムのみならず、セルフエッチングシステム(SE)にも疑問を抱いているのである。4年ほど前の第35回(セルフエッチングシステムについて考える)において、エッチング不足になりやすいSEは象牙質にくらべエナメル質での接着性は劣る傾向にあることから、SEに疑問を呈している。さらにそれに遡る第17回では、歯科保存学会での多数の1ステップ接着システムの接着性に関する発表の大まかなまとめとして、"接着界面のSEM観察では良好な接着状態が認められたが、接着強さは1ステップの方が2ステップにくらべ低い傾向を示した報告が多く、微小漏洩、窩壁適合性、辺縁封鎖性も1ステップは2ステップにくらべやや劣った結果となっている"という記載がある。筆者としては、歯質接着の最重要点はエナメル質接着にあり、それにはエッチングによる機械的嵌合に優れた3ステップシステムが望ましいと思っている。 この機械的嵌合に関連して、接着ブリッジのこと記しておきたい。本年4月に、これまで前歯部に限定されていた接着ブリッジの保険適用が臼歯部に拡大されたことを受け、9月東京において日本接着歯学会緊急シンポジウム「保険導入された臼歯接着ブリッジの臨床」が開催されたが、それが接着歯学2012年4号に誌上シンポジウムとしてまとめられている。その中に総合討論の座長を務められた田上直美先生(長崎大)の「2012年の接着ブリッジ」という一文があり、接着ブリッジの脱離は、セメント/金属界面ではなく、セメント/歯質界面で多発することから、"歯質接着は既に成熟し臨床的に問題ないと言う人もいるが、接着ブリッジに関しては決して充分でないと思う"と書かれている。接着ブリッジも以前には接着システムを過信して機械的維持への配慮が不足し、その結果、脱離や破折といったトラブルが発生、臨床家から接着ブリッジが敬遠されてきたところがある。そうした過去があって、現在では、臼歯部接着ブリッジには機械的維持を配慮した支台歯形成法として比較的確実なD字型形成が主流となっているようである。 保険診療で苦労している臨床現場の実情を知らず、診療経験もない素人が呑気なことをいっているという声が聞こえてきそうであるが、歯質接着システムは本当に進化しているといえるだろうか?3ステップからゼロステップまで、メーカーはユーザーのニーズ・要望に沿って努力、進化させてきたということだろう。これは直接のユーザーにとっては歓迎すべきことかもしれないが、筆者のような患者としては必ずしもそうではない。接着性からながめるかぎり、進化というより退化という気がしてならないのである。せっかく保険導入された臼歯部接着ブリッジが今後不評を買わないためにも、適切な合着材を選択し、間違ってもセルフエッチやセルフアドヒーシブの接着システムは利用しないでほしいと思う。 (2012年12月27日)
記事提供

© Dentwave.com

新着ピックアップ


閉じる