第44回 イモリの再生 ―第二話 イモリの網膜再生―

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6月13日からフィンランドは、ヘルシンキからバスで40分程離れたPorvooに行ってきました。この地のホテルで開かれた第12回 歯の形態形成と分化に関する国際学会(International conference on tooth morphogenesis and differentiation、http://www.tmd2016.org/)に参加してきました。この学会は3年に一度、欧州にて行われています。参加人数は100名強です。今回の会場となったホテルの敷地はバルト海に面しており(写真1)、とても静かで、朝の散歩が気持ちよく、学問に集中するには最適な場所でした(写真2)。ここでの最新の発表については、このコラムでも紹介したいと思います。今月のコラムは、先月の続きとなります千葉先生のご研究のお話で、イモリの網膜再生がどうやっておきるのか?となります。

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最初に、網膜について簡単に説明させていただきます(図1)。

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図1.眼球の構造(出典:カラー図解人体の正常構造と機能)

網膜は脳の続きであり、種々の神経細胞や支持細胞が規則正しく配列した層構造を示し、視細胞や神経細胞から構成される神経層と色素細胞からなる色素上皮層に分けられます。(図2)。

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図2.網膜の細胞構築(出典:カラー図解人体の正常構造と機能)

眼球をカメラにたとえると、網膜はフィルムにあたり、眼底一面に広がる薄い膜状の組織で、光の明暗、色、形、動きを捉えることができます。眼に入った光は、角膜、前房、水晶体および硝子体を通り抜け、網膜の深部に位置する視細胞によって感受されて、電気信号に変換され、網膜に繋がっている神経線維に電気信号が伝わり、視神経から脳に伝わります。色素上皮細胞は網膜の最外層に位置し、視細胞に栄養を送ることや代謝を維持する役割をしています。網膜剥離とは、網膜神経層が色素上皮細胞から分離した状態で、両層の間には接着装置がないため、網膜の萎縮や外力によって離れてしまうことがあるようです。色素上皮細胞から栄養を受けられなくなった視細胞は感受性を失い、この部の視野が欠損することになります。(出典:日本医事新報社 カラー図解 人体の正常組織と機能 神経系(2))

イモリの眼からレンズ(水晶体)を取り除いても、レンズが再生することは良く知られています。千葉先生らのグループは、先月のこのコラムでお話ししたように、体細胞の脱分化/リプログラミングが成体イモリの肢の再生において重要であることを示しておりますが、網膜再生においても同様な体細胞の脱分化による再生様式であることを明らかにしました。
また、本講演の中でのお話の一つとして、イモリの外傷に対する細胞の応答性がヒトの外傷性網膜疾患の際の発症機序と共通しているとも言われておりました。したがって、イモリを使った研究が、ヒトの疾患の治療法の開発に活かすことができることになります。
先月お話しした成体イモリが示す体細胞の脱分化/リプログラミングの能力は、細胞の外傷応答や細胞死の分子経路を修飾する時に起きることが考えられます。千葉先生らは、成体のイモリの網膜が傷つくと、網膜色素上皮細胞が様々な細胞に分化できる能力を持つ多能性細胞に脱分化して、この脱分化した細胞から正常な構造を持つ網膜が再生することを実験的に示されました。
では、どのような実験で示されたかについて簡単に説明します。初めに、麻酔したイモリの目から神経性網膜を取り除いてみると、網膜に残っている網膜色素上皮細胞の細胞がばらばらになった後に塊になったようです。この塊となった細胞は5日から10日の間に、未分化な細胞に発現する遺伝子の働きが活発になり、様々な細胞に分化する能力を持つ多能性細胞に脱分化したようです。この多能性細胞は10日から14日で2つの細胞集団に分かれて、神経性網膜と網膜色素上皮細胞に分化して、新たに正常な構造を持つ網膜が再生されたことを観察しました。

では、ヒトの場合にはどうなるのかというお話がありました。ヒトの場合には、交通事故などで網膜が傷つくと外傷性網膜疾患となりますが、この時にも、様々な細胞に分化する能力を持つ多能性細胞が現れるようなのですが、残念なことに、ヒトの場合には、神経性網膜は再生しなくて、筋の繊維芽細胞などに分化してしまうようです。ここで、ある考えが浮かびます。このイモリとヒトの再生能力の違いを調べて、どうして、このような違いが起きるのかを明らかにできれば、ヒトの場合の外傷性網膜疾患の網膜の再生を促す薬剤の開発につながることになると考えているようです。

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