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車椅子使用患者の診療に関しては、診察前の準備も含め、ユニットへの移乗やコミュニケーションなど意識したいポイントと注意点があります。今回は、車椅子患者に対する適切な診療方法についてみていきましょう。
車椅子の患者の診療開始時や診療中にすべきポイントを詳しく解説していきます。
車椅子で来院された患者をユニットへ移乗させる方法を説明します。
- 移乗に必要なスペースを確保します。
- 車椅子をユニットの近くに移動させます。
- バランスを崩したときにすぐに支えられるよう患者の前方で見守ります。
- 車椅子をユニットのステップにできる限り近付けます。
- 車椅子のブレーキをかけて、フットペダルを上げ患者の足を床に着けます。
- 介助者は患者と向かい合い、両脇から腕を差し入れて背中や肩甲骨を支えます。
- 足をできるだけ引いてもらうのと同時に、お辞儀をしてもらうつもりで体幹を前方に傾けてもらいます。
- 前屈の体勢をとったまま、患者の足を中心に診療用チェアの方向に体幹を回転させ、ゆっくりと着座させます。
- 着座が完了してから、診療用チェアの向きに合わせて姿勢を整えます。
移乗のサポートは、慣れていないスタッフではなく介助経験のあるスタッフが行なった方が安心です。歯科医院のスタッフが不慣れな場合は、遠慮なく付き添いの方にお願いしましょう。いずれの場合も、あらかじめ患者や介助者と移乗の流れ・介助方法について打ち合わせを行い、スムーズに移乗できるようにしましょう。
なお車椅子からユニットへの移乗が困難な場合は、車椅子に座ったまま治療を行います。車椅子上では頭部が安定しにくいため、車椅子に取り付けられるヘッドレストを利用したり、術者や介助者が頭部を後方から支えたりしながら治療を行います。
車椅子を使用していると目線が低いため、立った姿勢で話しかけると見下されているように感じることがあります。そのため腰をかがめて、低い姿勢で目線を合わせて話すようにしましょう。
車椅子使用患者の診療の際に、注意すべきポイントを詳しく解説していきます。
麻痺のある患者では、体が麻痺側に傾きやすくなります。円背の強い患者では、背板を倒したときに背中を支点にして頭が挙上し、ヘッドレストに頭を乗せられないこともあります。拘縮のある患者では、水平位にしたときに膝が浮いてしまうことも。いずれの場合にもクッションやバスタオルをユニットと体の間に挟んで隙間を埋め、患者自身が楽で安定した姿勢がとれるよう工夫しましょう。
口腔機能・摂食嚥下機能が低下した高齢者や障がい者では、口腔内に水を溜められず、咽頭に流れ込みむせてしまうことがあります。 そのため水平位は避け、バキュームでの吸引操作をしっかり行なって咽頭に水が流れ込まないように注意しましょう。それでもむせやすい場合はラバーダム防湿を行なったり、座位で治療を行ったりします。
根管治療時や補綴物の除去・試適時の誤飲・誤嚥の防止には、ラバーダム防湿が有効です。ラバーダム防湿が難しい場合は、リーマーやブリッジにデンタルフロスを結紮して、口腔内に落下してもすぐに引き上げられるようにしておきます。また印象採得時には、咽頭に印象材が流れ込まないよう印象材の硬さに注意し、トレーから溢れ出た印象材はミラーなどで取り除きましょう。
基本的に座位に近い状態での治療が可能であれば、誤飲・誤嚥のリスクを下げることができます。万が一器具や補綴物が口腔内に落下した場合は、上体を起こすと落下物が咽頭に落ちる可能性があるため、静かに顔を横に向かせて口腔内を確認します。落下物が口腔内に残留していればピンセットやバキュームで摘出しますが、口腔内に落下物を確認できない場合は医療機関への搬送の準備をしながらユニットのバキュームタンクの確認をします。バキュームタンク内に落下物がない場合は、誤飲・誤嚥により体内に入っている可能性が高いため、医療機関に搬送し胸部・腹部のX線撮影など医師の指示に従います。
高齢者や障がい者で開口保持が難しい場合は、開口器やバイトブロックなどを用います。ただ使用する前には必ず本人と付き添いの方に目的・必要性を説明し、同意を得た上で使用しましょう。
開口器を挿入するときは口唇や頰粘膜を巻き込まないよう注意し、動揺歯を避けて臼歯部で咬ませるようにします。開口の大きさは部位や患者の様子から判断します。開口した状態では嚥下しにくくなり水や唾液を誤嚥する可能性があるため、こまめに吸引を行いましょう。
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