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2013/10/24

第92回:歯耗(Tooth Wear)の発生状況とそのリスク因子

歯耗は第三の歯科疾患といわれながら、その実態はあまり明らかでなかったが、8月18日公開のJ Dentの電子版に“欧州若年者における頬舌面の歯耗の発生状況とリスク因子”と題する興味ある論文が掲載されているので紹介する。これは、欧州7か国の若年成人(18〜35歳)3,187名を被験者として、頬/唇側面、舌/口蓋側面での歯耗をBasic Erosive Wear Examination (BEWE、基本歯耗診査)によりスコアをつけて歯耗の発生状況を調べ、さらにアンケートによりリスク因子の影響を調べたものである。各個人は記録したBEWEスコアの最高値で特定した。BEWEスコア0〜3の人数割合は、それぞれ42.9%、27.7%、26.1%、3.3%であった。この調査では29%に歯耗の兆候が認められた。

まずBEWEについての説明が必要である。その詳細はClin Oral Invest 12巻増刊1、 S65-8(2008)に発表されている。これは、上記6共著者による論文中のBartlett、Lussi、そのほかにGanssを加えた英国、スイス、ドイツの教授が中心となって案をまとめ、米国、英国、アイスランド、オーストラリア、アイルランド、ドイツ、ノルウェーの大学および英国の保健衛生機関の8名とも協議し、全員の合意でまとめられたものである。BEWEは、歯列を上下顎の左右の第二大臼歯〜第一小臼歯(4歯)および左犬歯〜右犬歯(6歯)に6区分し、各歯の頬/唇側、舌/口蓋側を診査して(咬合面は診査しない)、各区分の中で最も重症の歯のみのスコアをつける。歯耗の評価基準、スコアのつけ方は表1のようである。このように部分採点して得られるスコアの累計をもとにリスクレベルに分類、それに歯耗の管理指針が対応している(表2)。

被験者の国別人数は、英国とフランスとも700、イタリー675、フィンランド344、ラトビア342/ヱストニア122(まとめて集計)、スペイン304人であったが、スコア2、3の被験者の割合は、国による差が大きかった、フィンランドとラトビア/エストニア18%、イタリー22%、フランスとスペイン26%、英国54%であり、英国での歯耗が顕著であった。英国ではスコア0〜1にくらべスコア2〜3の歯耗が多い傾向を示したが、これには、著者らの考察からすると、歯耗のリスク因子である、フルーツ摂取が他国にくらべかなり多く、また電動歯ブラシ使用が相当多いことが影響しているらしい(筆者)。

歯耗の重要なリスク因子は、顕著なのは睡眠薬あるいは抗うつ薬の頻繁な服用、ついで胸焼けあるいは胃酸の逆流であり、ほかの重要な因子は、繰り返しの嘔吐、地方での居住、電動歯ブラシみがき、いびきであり、さらに、酸性の飲食物、とくに生のフルーツやジュース、スポーツ飲料であった。性別、教育レベル、喫煙あるいはチューインガム、BMI、定期的な運動、フッ化物利用、矯正装置の装着などは歯耗にほとんど影響しなかった。朝食後の歯みがきまでの時間が歯耗の程度に影響するようなエビデンスはなかった。

抗うつ薬使用の被験者は少ないとはいえ、高度の歯耗との関連性は強かった。正確なことは不明ではあるが、唾液の量と質の低下が関連している可能性がある。炭酸飲料あるいは清涼飲料の摂取はリスク因子とされてきているが、今回の結果では高度の歯耗に強くは関係していなかった。これは、これら飲料中の歯耗に影響する酸の量が少なかったためかもしれないとしている。

歯みがきが電動歯ブラシか手用歯ブラシかにより歯耗に驚くほどの差があった。この説明はかなり難しいが、電動歯ブラシ使用者は手用ブラシの人にくらべ、意欲的なことがあるかもしれない。ほかの要因として、電動歯ブラシ使用者が英国とフィンランドで35%以上(他の主要な欧州諸国では18〜24%)であることも影響しているかもしれないという。我が国でも電動歯ブラシ使用者が増えているようであるが、筆者は使用経験はないが、何となく磨き過ぎるような気がしている。英国での歯耗状況を考えると、電動歯ブラシ使用者はそれなりの注意が必要なように思われる。

歯耗に関係した歯みがきのタイミングについては依然として議論がある。スコア2〜3の歯耗には、朝食後歯みがきまで時間を空けても影響するようなエビデンスはなかった(P=0.088)。朝食後歯みがきまでの時間が0〜17分で歯耗に差はなかったが、逆に25〜45分になると歯耗が増える傾向があった。この結果によれば、食後の歯みがきは”遅らせた方がよいとしない”のがよいということになる。しかし、酸性食品と歯みがきについてはさらなる検討が必要かもしれないという。我が国では、”食後すぐの歯みがきは、唾液の酸緩衝能や再石灰化による効果を妨げるので、酸性の食品を摂ったすぐ後の歯みがきは避け、30分ほど経過してからの歯みがきを勧める”ということになっているらしい。しかし、下線部のエビデンスは必ずしも十分ではなく、今回紹介した論文からすると、時間はあまり拘らなくてもよさそうな感じである。

欧州での歯耗の発生状況は国によりかなりの違いのあることがわかったが、我が国ではどうであろうか?第三の歯科疾患とされる割には、我が国での歯科界の取り組みは乏しいように思われるが、その中心となるべき日本歯科保存学会にはBEWEを参考にして調査を進めることを期待したい。さらに、用語について歯科保存学会に望みたいことがある。4年ほど前の43回で歯耗の話題を取り上げた。そして、当時は専ら英語のTooth Wearが日本語の横書き、縦書きを問わずに使われることが多く、”どうもこの英語が気になっている。普通であれば、少なくともカタカナ言葉のトゥース・ウェアになると思うのだが、そうもならないのも不思議である。”と書き、”歯耗”なる言葉を提案した。近頃はカタカナのトゥースウェアが主流となっているようである。しかし、英語が少しわかると”どんなウェア(衣服)?”、”つま先の衣類?”などと言われかねず、多くの人にはすぐにピンと来ないであろう。トゥースウェアが第三の歯科疾患であれば、むし歯、歯周病と並び、普通の人がわかりやすい日本語にするのが望ましいと思う。

(2013年10月1日)

追記
BEWEは、もともと臨床家、開業歯科医の便宜のために開発されたものである。表1、2を参考にしながら、患者がスコア3に至らず低リスクに留まれるよう、助言、診療してもらえるとしたら、それは患者にとってありがたいことである。

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