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2013/10/24

第73回:インプラント義歯の保険導入

この4月から、かなりの限定つきではあるが、インプラントが保険導入されることとなった。1985年にインプラント義歯として高度先進医療(2006年からは先進医療に改編)に指定されていたが、今回の保険導入では従来のインプラント義歯という文言はなくなり、インプラントに相当するのは”広範囲顎骨支持型装置”、すなわち”広範囲な顎骨欠損等の特殊な症例に対して応用する人工的構造物”である。適応は基本的に以前と同様である。広範囲顎骨支持型装置の埋入手術・補綴・補綴物管理・補綴診断・補綴物修理の項目からなり、それぞれに対して点数が与えられている。本保険医療の実施対象は、個人開業歯科診療所にはなく、病院歯科であり、多くの歯科医療関係者にはあまり興味はないかもしれないが、保険の概略とそれの関連した筆者のコメントを記す。

・埋入手術(1顎一連につき)  1回法による手術14,500 点、2回法による手術:1次手術11,500 点、2次手術 4,500 点。(2/3顎以上の範囲にわたる場合は所定点数に4,000点を加算)。手術の保険医療材料は別に算定。(今回の保険に収載されているのは、ノーベル・バイオケア・ジャパン、石福金属興業、デンツプライ三金の製品であり、それらの保険償還価格は49,300〜113,400円となっている)
算定要件: 以下のいずれかに該当し、従来のブリッジや有床義歯(顎堤形成後の有床義歯を含む)では咀嚼機能の回復が困難な患者に対して実施した場合。

1.腫瘍、顎骨骨髄炎、外傷等により、広範囲な顎骨欠損又は歯槽骨欠損症例(歯周疾患および加齢による歯槽骨吸収は除く。)若しくはこれらが骨移植等により再建された症例。なお、欠損範囲については、上顎にあっては、連続した1/3顎程度以上の顎骨欠損症例若しくは上顎洞又は鼻腔への交通が認められる顎骨欠損症例であり、下顎にあっては、連続した1/3顎程度以上の歯槽骨欠損(歯周疾患および加齢による歯槽骨吸収は除く)又は下顎区域切除以上の顎骨欠損症例。

2.医科の保険医療機関(医科歯科併設の保険医療機関にあっては医科診療科)の主治の医師の診断に基づく外胚葉異形成症等の先天性疾患で、連続した1/3顎程度以上の多数歯欠損又は顎堤形成不全症例。
施設基準: (1)歯科又は歯科口腔外科を標榜している保険医療機関である。(2)当該診療科に係る5年以上の経験および当該療養に係る3年以上の経験を有する常勤の歯科医師が2名以上配置されている。(3)病院である。(4)当直体制が整備されている。(5)医療機器保守管理及び医薬品に係る安全確保のための体制が整備されている。

・補綴  ブリッジ形態のもの18,000 点(3分の1顎につき)、床義歯形態のもの13,000 点(1顎につき)。保険医療材料料は所定点数に含まれる。
算定要件: (1)埋入手術に係る施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関において、当該補綴に係る補綴物の印象採得から装着までの一連の行為を行った場合に、補綴治療を着手した日において算定。

・その他  補綴物管理料(1口腔につき) 480点、補綴診断料(1口腔につき) 1,800点、補綴物修理(1装置につき) 1,200点

今回の保険適用は”歯周疾患および加齢による歯槽骨吸収は除く”ことから、恩恵を受けられる患者数はかなり限られているであろう。世界的にみると、これまでインプラントを健康保険に導入している国には、スウェ−デン、オランダ、それと近年導入のベルギーがあり、我が国もその仲間入りを果たすこととなった。 Int J Prosthodont 2012年1号に2006〜2007年の欧州14か国の義歯装着率(50〜102歳、平均67歳)が掲載されている。それによると、スウェーデン13%、オランダ46%、ベルギー55%となっている。この数字を見ると、オランダあるいはとくにベルギーで2本インプラントオーバーデンチャー(ODと略)を保険導入したことが何となく理解できるような気がした。(ちなみに、日本の2005年50歳以上の総義歯装着率は32%)。それら諸国にくらべると、我が国での保険適用がかなり限定的であるように思われ、将来的にはもう少し拡大が検討されてもよいのではないかという気がする。

下顎無歯顎治療には成功率や患者の満足度も高いとされている2本インプラントODを第一選択にすべきである、というレビューが最近のJ Dent 2012年1号に掲載されている。また、2009年に日本補綴歯科学会が公表した”歯の欠損の補綴歯科診療ガイドライン2008″でも、従来の全部床義歯治療で満足が得られない場合、インプラント固定性義歯は”推奨を考えてもよい”が、2本のインプラントを支台としたODは”推奨してよい”となっている。このように下顎ODでは2本インプラントが標準となりつつあるようであるが、1本インプラントでも十分な患者満足が得られるという論文が1997、2001、2007、2008、2009年にそれぞれ21、9、28、2、85症例で報告され、いずれでも1本インプラントODの有用性が認められている。

2009年の論文(Int J Prosthodont 4号)は、1本(正中線部)と2本(両側犬歯部)のインプラントODの無作為化比較臨床試験結果を報告している。平均年齢67歳の従来型総義歯装着患者を対象として1本、2本インプラントそれぞれ42、43症例に関して1年追跡調査した。その結果として、2本とくらべ1本インプラントは、費用が安い、治療時間が短い、患者の満足度は同等などの特徴があることから、1本インプラントは2本インプラントに代わり得る選択肢になるとしている。(なお、同じ患者群について義歯の破折について1.4〜4.8年(平均3.2年)追跡した結果が2010年に発表されている(J Prosthet Dent 103巻3号)。それによると、1本、2本群のそれぞれでの破折症例は21%と9%、生存率は81%と93%であり、統計的有意差はなかった。)

世界的に高齢化が進むなかで、増加する無歯顎者、総義歯装着者にどのように対処するのか問われるようになっていると思う。そうした患者のQOLの向上や健康寿命の延伸を考えたとき、1本インプラントODはかなりの福音ではないかと思われ、今後その臨床評価が一段と加速されることを期待したい。2008年の論文は2症例報告にとどまっていたが、ドイツの歯科大学病院でさらに臨床研究中との記載もあり、いずれその結果も公表されるであろう。我が国の場合、8020運動をさらに推進して義歯装着者数の減少を図りつつ、少なくとも下顎総義歯”超”難症例には1本インプラントODくらいは保険適用するような方向があってもよいのではないかと思う。さらに、従来型総義歯の満足度を高めるため、とくに材料を中心にして義歯床の改良研究を強く進める必要があると思っている。

(2012年2月28日)

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