【<会員限定>医歯薬出版:歯界展望 Vol. 139 No. 3 2022-3 歯周病と咬合のドグマを再考する(最新号)】

 
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歯周病と咬合のドグマ

 「歯周病の治療において、咬合のコントロールは非常に重要である」、「楔(くさび)状骨欠損の存在は、咬合性外傷を疑うべきである」。これらの意見、考えは、臨床現場で耳にする機会も多い。このような議論は日本においていまだに決着のつかない話題であるが、はたしてこれらはすべて真実なのだろうか。歯周病と咬合の関係については、1900年代初頭からおよそ一世紀にわたり、世界中でも熾烈な議論が続けられてきた(図1)。しかし、現代ではさまざまな研究が行われてきた結果、欧米ともにこのテーマに関する議論はおおよそ収束している(意見が一致している)といわれている。
 本企画ではまず、歯周病と咬合に関する過去の論文を紐解き、その変遷をたどっていきたい。そのうえで、現在発表されているコンセンサスといえる考え方を整理したい。歯周病と咬合の歴史を追い、そして日常臨床で浮かぶ疑問を細分化することで、「現代において、何がわかっていて、何がいまだはっきりとわかっていないか」に対する、客観的な視点をもつことができるだろう。本企画が、ドグマティックになりがちな歯周病と咬合についての、理解の一助になれば幸いである。

歯周病と咬合の“現在の”コンセンサス

1.“現在の”コンセンサス
 『広辞苑 第7版』で「コンセンサス」という言葉を調べると、「意見の一致・合意」と ある。歯科の領域でこれを広義的に解釈すると、「今現在、根拠に基づいた最も確からしい考えとしては、こういうことで意見を統一しましょう」という(主に学会が発表した)共通見解と捉えることができる。その一方で、個人の誰もが容易に発信者となれる現代においては、 事実と意見が混同した情報が流布する可能性をはらんでいる。特に、 強いエビデンスが存在しない咬合の領域において、その傾向は顕著であるといわざるをえない。

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 本稿前半では「歯周病と咬合の歴史的変遷」を、後半では日常臨床で浮かび上がる「クリニカルクエスチョン」を、さまざまな文献を元にして客観的に記述し、最後にそれらに対する筆者らの考えをまとめている。「論文の結果」と「筆者らの意見や解釈」という混同しやすい両者を、可能な限り区別して述べることに注力したつもりである。また、 科学とは過去の否定を繰り返しながら前進するものであり、現時点では正しいと思われている考えも、10年後、20年後には大きく覆っているかもしれない。よって、ここではあえて“現在の”という点を強調したい。


2.動揺歯の捉え方 〜 Increasing mobility,Increased mobility 〜
 日常臨床の場で、歯の動揺に遭遇する機会は多い。その原因としては、歯周病や咬合の問題だけではなく、歯内療法領域の問題や、顎骨に生じた腫瘍性疾患である可能性もある。また、「動揺=病的」と捉え、安易な連結固定や咬合調整が日常臨床で行われていることも事実である。ここではまず初めに、歯の動揺について考えていきたい。
 歯の動揺は、Increasing mobilityとIncreased mobilityの2つに大別することができる。Increasing mobilityは、時間経過とともに増大するような動揺のことを指す。この動揺は病的状態と捉え、咬合に対するアプローチが必要となる。一方で Increased mobilityは、進行性ではない動揺のことを指す。詳細は後述するが、後者のIncreased mobilityは生理的な状態であると捉えることができるため、基本的には咬合治療は不要となる(図2)1,2)

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 ただし、初診時には、その歯の動揺がどちらに該当するのか判断することはできない。 過去と現在とを比較することで初めて、どちらの動揺であるのかを判断することが可能となる3)。また、2017年のAAP/EFPによるWorld Workshopでは、初めて「健康な歯周組織」について定義され、そのなかでは「減少した健康歯周組織」という状態に言及されており2、 4)、安易に「動揺=病的」と捉えないように注意すべきであろう。


3.動揺度の測定
続きは本誌をご覧ください  歯の動揺度として最も有名なものにMillerの分類があげられるが、これについては誤った認識が広まっているようである。検査方法について記述された原著では、「2つのリジッドなインスツルメントで頬舌的に歯冠を挟み込み、揺さぶりをかけ動揺を測定する」と述べられている5)。また、動揺度の分類は、図3のように定義されている。
 日本においては、「頬舌+近遠心方向に動くと2度」、「垂直方向に動くと3度」という定義や、「2mm以上の動揺なら3度」という定義も耳にするが、これはMillerが提唱している動揺度とは異なるものである。

参考文献はこちら
※原則として著者の所属は雑誌掲載当時のものです。
<掲載号はこちら>
歯界展望 139巻3号 歯周病と咬合のドグマを再考する/医歯薬出版株式会社 (ishiyaku.co.jp)
https://www.ishiyaku.co.jp/search/details.aspx?bookcode=021393


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