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「噛む力が強い」、数字で示せていますか—300症例が語る表面筋電計MYONYXの臨床応用

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「噛む力が強い」を、どう患者さんに伝えるか

補綴装置の欠けや脱離、歯の破折、顎関節症状、肩こり、頭痛、ブラキシズム、骨隆起—日常臨床で繰り返し目にするこうしたトラブルには、過剰な咬合力が関わっていることがあります。
しかし、患者さんに「噛む力が強いですね」と伝えるだけでは、その状態を具体的にイメージしてもらうことは容易ではありません。
そこで、表面筋電計「MYONYX」を用いて咬筋の筋活動を数値化し、300症例の実績を積み上げてきたのが、黒田敏樹先生です。
今回のウェビナーでは、咀嚼筋痛障害の診断における触診から、筋電図検査の保険算定、ナイトガード・スプリントへの展開、さらにボツリヌス療法における数値の活用まで、実際の臨床データを交えながら解説されました。
この記事では、その内容の一部をご紹介します。

この記事のポイント

  • ・咀嚼筋痛障害・顎関節症の診断で、筋電図検査と神経・筋検査判断料を算定できる
  • ・導入前後で、ナイトガード・スプリントの算定回数が1.65倍に増加
  • ・300症例のEMT値は200以下に集中する一方、最大925、最小20と大きな個人差がみられた
  • ・ボツリヌス療法では、EMT値を施術後の経過確認にも活用

日常臨床のトラブル、その背景をどう捉えるか

黒田先生は、日常臨床で見られるさまざまなトラブルの背景に、咬合力や歯ぎしり・食いしばりが潜んでいる可能性を指摘します。
今回フォーカスするのは、顎関節症の1型にあたる「咀嚼筋痛障害」です。
顎関節や咀嚼筋に異常が生じることで、顎の痛み、開口障害、顎関節雑音、咀嚼困難といった症状が現れます。原因としては、過度の開口や咀嚼、歯ぎしりや食いしばり、過度な咬合力が挙げられることが多いといいます。
関与する筋肉は、咬筋、側頭筋、内側翼突筋、外側翼突筋の4筋。頸部や肩の筋群が関連することもあります。
こうした状態を、診察・触診・問診、そして筋電計検査を用いて診断していきます。

診断の出発点は「触診」

では、実際の診断ではどのように筋肉の状態を確認するのでしょうか。
黒田先生がまず紹介したのが、触診です。
小出馨先生の『新版・小出馨の臨床が楽しくなる咬合治療−改訂版−』(デンタルダイヤモンド、2025年)を引用し、臨床で有効な筋触診法の部位と順序を紹介しました。
触診は咬筋深部から始まり、咬筋浅部起始部、浅部停止部前縁、浅部停止部後縁、浅部中央へ。続いて側頭筋前部、中部、後部と進む8部位です。
触診には人差し指1本を用い、指の腹で加圧します。咬筋深部のみ指の先端を使用し、加圧の強さは1,000g程度が適切とされています。
また、患者さんへの問いかけ方にもポイントがあります。

「左右とも痛くないですか?」

このように返答を誘導する聞き方ではなく、患者さん自身の感覚を確認することが重要だといいます。
圧痛の評価も同書に基づき、5段階で行います。
「−:痛くない」
「±:異和感あり」
「+:痛い」
「++:かなり痛い」
「+++:激しく痛い」
このうち++は眼瞼反射の発現、+++は体動の併発が目安とされています。

筋電図検査は保険算定できる―導入費用はどう回収するか

咀嚼筋痛障害または顎関節症の病名がつけば、筋電計による検査は保険算定が可能です。
筋の触診で痛みがあれば咀嚼筋痛障害、顎関節に痛みがあれば顎関節症の病名で算定します。
黒田先生はMYONYXの導入にあたり、導入費用の回収シミュレーションを行ったといいます。
収録時点の点数をもとにした計算は、次のとおりです。

[算定できる点数]

  • ・筋電図検査:320点
  • ・神経・筋検査判断料:180点
  • ・合計:500点(3ヶ月に1回算定可)

[1回あたりの経費]

  • ・チェアタイム準備5分の人件費:167円
  • ・消耗品パッチ:左右で約500円
※本記事で紹介している筋電図検査(D239)の保険点数は、ウェビナー収録時点の内容です。2026年6月の診療報酬改定に伴い、筋電図検査(D239/1肢につき)は旧点数320点から新点数384点に変更となりました。神経・筋検査判断料(D241)は180点です。算定にあたっては、最新の診療報酬点数表をご確認ください。

1回あたりの収入5,000円からこれらの経費を差し引いた額で導入費用を割ると、104人の検査で回収できるという計算になりました。
「月15人算定できれば、8ヶ月後以降はすべて黒字」——。
この計算を行ったうえで、翌日に購入を決めたと黒田先生は振り返ります。
測定はチェアがなくても可能で、準備を含めて5分程度で終わるとのことです。
なお、インプラント補綴時の診査やボツリヌス療法に伴う測定は保険算定の対象外です。同院では自費として5,000円(税別)で対応しているとのことです。

300症例を測定。EMT値には大きな個人差

では、実際に測定すると、どのような数値が得られるのでしょうか。
同院では、令和6年3月1日から令和7年6月17日までの約15ヶ月間で、300名・342回の算定を行いました。月平均では20名・22.8回です。
測定対象は、骨隆起、咬合時の筋痛、顎関節症、ブラキシズム・クレンチング、補綴装置の破折・脱離、歯のクラックのある方、そしてインプラント補綴の患者さんです。
ただし、インプラント補綴の患者さんについて、黒田先生は「必ずしも噛む力が強いとは限らない」対象だと補足しています。
300名の内訳は男性107名、女性193名。
初回EMT値を散布図で見ると200以下に集中し、特に50〜100の範囲が最も多い結果となりました。
一方で、600、900を超える方も存在します。
最大値は925、最小値は20。
平均値は左187、右172で、男女ともに左側が高い傾向が見られたといいます。
黒田先生は患者さんへの説明にあたり、男性は100、女性は50〜100を標準値の目安としているとのことです。
同じ「噛む力」でも、測定値には大きな個人差があることが分かります。

ナイトガード・スプリントの算定は1.65倍に

MYONYXの導入前後で、ナイトガード・スプリントの算定件数にも変化が見られました。
導入前の15ヶ月(令和4年3月1日〜令和5年6月17日)と、導入後の15ヶ月(令和6年3月1日〜令和7年6月17日)を比較すると、

  • ・ナイトガード(950点):113回 → 177回
  • ・スプリント(830点):8回 → 23回

となりました。
合計では、121回・115名から200回・189名へ増加。増加率は1.65倍、増加点数は73,250点となりました。
また、測定した300名のうち124名(41.3%)が、ナイトガードやスプリントの使用に至っています。
黒田先生は、患者さんへの説明について次のように振り返ります。

「数字を見ることで、患者さんも『一般の普通の人と違うんだ』『歯を守るためにやらなきゃいけないんだ』という認識が芽生えてきた」

高い測定値が出た場合の対応としては、理学療法、薬物療法(NSAIDsによる鎮痛)、スプリント療法、ボツリヌス療法、心理的アプローチが挙げられました。

ボツリヌス療法、その「時期」も数値で追う

咬筋の過緊張に対しては、自費診療としてボツリヌス療法という選択肢もあります。
同院では、咬筋左右合計50単位を注射し、筋電計検査1回分を含めて30,000円(税別)で提供しています。
300名のうち24名(8%)がこの選択をしました。
同院では、患者さんごとにEMT値と施術内容を記録した用紙を用いて、経過を追っています。
注目されるのが、施術後の数値の推移です。
3ヶ月まではすべての症例で数値が低下。
4ヶ月目から上昇に転じる方が出はじめる一方、まだ下がり続ける方もおり、個人差が見られました。
5ヶ月目には上昇例が増加し、8ヶ月ではおおむね施術前の水準に戻る傾向が読み取れたといいます。
黒田先生は、

「この数値を計測することで、ボツリヌス療法を行うタイミングを見測ることができるのではないでしょうか」

と話します。
適応判断だけでなく、再施術の時期についても、数値をもとに検討できる点が、こうした数値化の一つの価値といえます。

数値にすることで、患者さんへの説明が変わる

今回紹介したのは、黒田先生が300症例の測定を通して実践してきたMYONYXの活用方法です。
講演の結論として黒田先生が挙げたのは、数値を明確にすることでナイトガードの必要性が患者さんに伝わりやすくなったこと、導入前後で作成回数が1.65倍に増えたこと、ボツリヌス療法の適応と施術時期の判断材料になったこと、そして算定件数が増えたことで医院経営の安定に寄与したことでした。
「噛む力が強い」という状態を、数値という具体的な情報に置き換える。
その数値を、診断や患者さんへの説明、治療後の経過確認に活用する。
本記事で紹介したのはウェビナーの一部です。触診の具体的な手技や、症例ごとの数値の読み方については、ぜひ本編をご視聴ください。

注記

  • ・本記事は2025年8月27日配信のウェビナーをもとに再構成したものです。
  • ・本文中の保険点数は、ウェビナー収録時点の内容です。算定にあたっては最新の診療報酬点数表をご確認ください。
  • ・ボツリヌス療法は自費診療です。
  • ・記載の症例数・数値は同院における実績であり、効果を保証するものではありません。

講師プロフィール

黒田 敏樹(くろだ としき)先生

医療法人社団輝樹会 理事長/黒田クリスタル歯科 吉祥寺 院長

2004年 日本歯科大学新潟歯学部卒業。2004〜2006年 東京医科歯科大学 摂食機能構築学講座に所属。2009年 黒田クリスタル歯科 吉祥寺を開院。2015年 医療法人社団輝樹会を設立。2021年 日本歯科審美学会 理事就任。2024年 日本歯科ボツリヌス協会 理事就任。
日本歯科審美学会 理事・代議員・認定医、日本歯科ボツリヌス協会 理事・指導医・認定医。

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