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保険診療の枠を超えた治療を提供することは、患者のQOL向上と医院の経営基盤の安定という両面で重要なことです。しかし「自費診療の提案は押し売りのようで気が引ける」「説明を尽くしても最終的に金額で断られる」といった悩みを抱える歯科医師は少なくありません。

自費診療の契約率は、患者が自らの「健康への投資」に納得し、決断するための心理的プロセスを設計できるかどうかが鍵となります。本記事では、明日から実践できる歯科医師のための問診・カウンセリング術を解説します。

【歯科医院経営を変える】自費診療の契約率を最大化する問診・カウンセリング術

著:ミホ /

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カウンセリングの大前提

患者は「自身が望まないもの・高価なものを売りつけられるのではないか」という警戒心を抱いて来院することも多いです。この警戒心を解くのが、チェアサイドでの最初の数分間です。

まず徹底すべきは、患者の話を傾聴する姿勢です。主訴の確認だけで終わらず、その症状によって患者がどのような不利益を被っているか、どのようなつらい思いをしているかに共感を示します。

例えば「噛めなくて困っている」という訴えに対して、返すべきなのは「それは大変でしたね」だけでなく、「お食事の楽しみが減ってしまっているのは本当におつらいですよね」と、感情に寄り添う一言を添えるだけで、信頼の土台が築かれます。

問診で「真のニーズ」を掘り起こす

契約率が高い歯科医師は、問診の段階で「患者の潜在的な価値観」を引き出しています。この「患者の潜在的な価値観」を引き出すには、以下の3つの視点で質問を投げかけると良いでしょう。

1.過去の歯科治療に対する不満やトラウマはないか
2.患者の長期的な健康観はどうか
3.ライフスタイルはどうか

1.は、例えば「これまでに入れた被せ物で気になったことはありますか?」という質問で、患者が見た目・審美性を重視しているのか、あるいは費用やトータルコストをもっとも重視しているのかが見えてきます。

もし患者が「とにかく見た目・審美性を重視したい」「以前の治療では、価格を優先した結果見た目に不満が残った」といったことがわかれば、こちらとしても次の提案に進みやすいでしょう。

2.は例えば、「今回治す部位を、今後10年、20年と持たせたいとお考えですか?」という問いで確認することができます。「長く持たせたくない」と答える患者はいないと思われますが、はっきりと「最低でも10年は持ってほしい」と答える患者と、「10年持ってくれたら嬉しい」「できればそれくらい持ってほしい」と答える患者では、目標として定める位置が大きく異なってきます。

またこういった問いかけは、予防や耐久性といった面で優れている自費診療のメリットを認識させるきっかけにもなります。

3.は、例えば仕事で人前で話す機会が多い、食事を何よりの楽しみにしている等、患者の普段の過ごし方、ひいては「患者が人生において、今何を優先しているか」を知ることで、提案の切り口が明確になります。

患者教育と情報提供を分離する

カウンセリングで失敗する典型的なパターンは、いきなり治療に関する説明を始めてしまうことです。患者がその治療の必要性を理解していない段階での説明は、単なるセールスに聞こえてしまいます。

まずは患者自身の現状を正しく理解してもらう、「教育」のステップが必要です。口腔内写真やレントゲン写真、CT画像等を駆使し、視覚的に「放置するとどうなるか」「保険診療の限界はどこにあるのか」を客観的に伝えます。ここで重要なのは、保険診療を否定するのではなく「保険制度のルール上、最善を尽くしても避けられないリスクがある」ということを説明することです。

これにより、患者が「今のままではいけない」と自覚して初めて、解決策としての自費診療に価値が生まれます。その上で自費診療に関する情報提供を始めていきましょう。

松竹梅の法則に沿って提案する

具体的な提案フェーズでは、1つではなく3つほどの選択肢を提示することが重要です。一般的に、人は選択肢が1つだと「やるかやらないか」で悩みますが、3つの選択肢があると「どれにするか」という思考に切り替わります。

この3つの選択肢は、以下の3段階に分けたものを用意するのが理想的です。

●保険の範囲内のもの:最低限の機能回復だけ目指せるもの
●スタンダードな自費診療:耐久性と審美性のバランスが取れたもの
●プレミアムな自費診療:将来のリスクを最大限考慮した最善の選択

ここで歯科医師が語るべきなのは、材料のスペックではなく、その材料によって患者が得られるベネフィットです。「とても硬い材料で〜」といったマニアックな説明は、歯科医療従事者にしか響きません。「これならステーキも思い切り噛み切れますし、割れる心配をせずに毎日を過ごせます」と伝えた方が、患者にとってはよほど魅力的に映ります。

費用提示のタイミングとクロージング

「セールス感が出ないように」と費用の提示を最後の一瞬までしないのは、実は逆効果となることもあります。それぞれの特徴を説明しながら概算の費用感も伝え、患者の反応をさりげなく確認しましょう。眉間にシワが寄ったり視線が泳いだりした場合は、金銭的な不安があるサインです。その場で「費用面で何か気になる点はございますか?」とあえて触れることで、不安を解消しながら進めることができます。

クロージングで重要なのは、歯科医師が決めるのではなく患者自身に決めてもらうことです。もし「先生ならどうしますか?」と聞かれた場合は、「自分の家族であれば、5年後、10年後の再治療リスクを考えてこのプランを勧めます」と、プロとしての個人的な見解を誠実に伝えると良いでしょう。

自費診療の契約を、ゴールではなく「長く続くメンテナンスと信頼関係のスタート」として位置づけることで、患者の決断を後押しします。

まとめ

自費診療の契約率を最大化する問診・カウンセリング術とは、患者の声を聴き、正しい教育を行い、選択肢を提示して、未来の価値を共有するプロセスそのものです。「患者にとっての真の利益は何か」を追求する姿勢が、結果として高い契約率へとつながるでしょう。

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著者紹介

ミホ

東京医科歯科大学卒業後、都内歯科大学病院に勤務。退職後はフリーランスの「歯科衛生士ライター」として活動し、ライターの指導や教育、ディレクションも行う。自身で制作・運営を行なっていた歯科メディアは販売を達成。大学の卒業研究では日本歯科衛生学会の学生研究賞(ライオン歯科衛生研究所賞)を受賞。現在はDentalMonitoringJapanに勤務し、2児の母でもある。 Instagram:@toothteethtokyo

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