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正しく理解したいフッ素のこと 【vol.4】知識アップデート!フッ化物の歯磨剤における応用方法

フッ化物の応用方法
1.フッ化物配合歯磨剤の潮流について
Marinhoらによるコクランレビューによるとフッ化物配合歯磨剤のう蝕予防率は24%であり、フッ化物配合歯磨剤による恩恵は50年にわたる質の高い介入研究によって明確に根拠が示され確立しているとされています。その上で、フッ化物配合歯磨剤におけるフッ化物濃度や使用する量や回数については、日本保存学会や日本口腔衛生学会など4学会から発表された提言書を基準にすることが近年のう蝕予防効果を示した論文の歯磨剤のフッ化物濃度は1,000ppm以上のものに限られている傾向をふまえても、今後の潮流になっていくと考えています。
従来の指針と比べて最も変化したのは幼児期においても450ppではなく950ppmの濃度のものを使用するよう推奨されていることであり、より効果の期待できる高濃度のフッ化物を量には配慮しつつ積極的に活用しようという意図が感じ取れます。その一方で1日3回以上の歯磨きを行う場合において歯磨剤の量をどうするのか、この推奨においては年齢に着目してフッ化物濃度を変更するタイミングを決めていますが成長の差による体重の軽重と濃度の高低のギャップをどう捉えるかのかなど、実際の臨床の場においては提言書に従うだけでは不充分で医療従事者としての判断も求められるため正しい知識を基により具体的な基準を持っておくべきだと思います。
2.使用における注意点
1899年にBaldwinが自分自身に対してフッ化ナトリウムを濃度を変えて食物に混ぜたものを摂取することで体調の変化がどの濃度で生じるかどうかを試した結果、1Kgあたり2mgFというものが中毒量とされていますが、いわゆるn数が1であり信頼に欠ける面があります。ただそれ以降に生じてしまった欧米におけるフッ化物錠剤の誤飲による急性中毒の事例からもほぼ同等の数字が推定されています。
前回までに述べさせていただいたように日本においてはフロリデーションもフッ化物錠剤も一般的で無いため急性中毒や斑状歯において過剰に心配する必要はありませんが、過剰なフッ化物の摂取は身体にとって害であり、子供がチューブを直接吸って多量の歯磨剤を服用してしまった際などに初期症状が現れた場合は速やかに牛乳を服用させ病院を受診させる対応を指示して下さい。もちろん誤って吸ってしまわないように子供の手に届かないように歯磨剤を保管するよう指示しましょう。
歯磨き後のうがいは水の量を少なめに1回のみ行う方が口腔内のフッ化物濃度をより高く維持することができます。石塚先生の研究によると歯磨剤の量が半分にうがいの水の量が倍になるとフッ化物の残留濃度がほぼ半減するという衝撃的なデータがあります。うがいは手で水をすくって1回のみするよう指示していますが、水の量が分かりにくいと質問された場合はペットボトルの蓋に1~2杯目安と伝えるようにしています。
また、フロスの使用の有無によってう蝕の発生率に差がないとの論文もありますが、近年は発育空隙のない小児や叢生傾向の方が増えてきておりフロスを用いてプラークコントロールを行うことが求められてきているように感じられます。フロスを用いる場合はフロスを先に行ってからフッ化物配合歯磨剤を用いた方がコンタクト部におけるフッ化物の残留量が増加するという報告もありますので、フロスを行う習慣のある方に対しては歯ブラシの前にフロスという流れを説明してみてください。
歯磨剤の味が苦手な方も増えてきたように感じます。個人的にはシンプルに1450ppmのフッ化物配合の歯磨剤においてノンフレバーも含めて異なる香味の系統の歯磨剤のサンプルを渡して試してもらうようにしていますが、いくつか試しても難しい場合はブラッシング後にすっきりした香味のフッ化物洗口を積極的に活用するよう指示しています。
3.インプラント等へのフッ化物使用について
チタンなど金属の腐食を気にされる方もいらっしゃると思います。個人的な見解を含みますが、歯科医院で用いる高濃度のフッ化物では酸性のものを塗布することは避けるべきですが、セルフケアとして用いる中性もしくは弱酸性の低濃度のフッ化物にはチタンの腐食能はほぼないため気にすることなく積極的に用いるべきです。
4.高齢者の口腔内におけるフッ化物の使用について
歯周病の進行とともに露出した歯根における根面う蝕の発生も増加してきており、フッ化物による歯質の強化はエナメル質だけではなく象牙質においても生じるためフッ化物の積極的な活用が求められます。フッ化物濃度が高いと効果も高まりますがフッ素症など慢性中毒のリスクも増大するため、将来的に高齢者に限局して3000~5000ppmの濃度のフッ化物配合歯磨剤を手の巧緻性が低下して歯磨きの質が著しく低下した場合にはフッ化物洗口を積極的に勧めるようにしています。
また、がん治療における放射線照射やシェーグレン症候群などによって唾液分泌量が非常に少ない場合はさらに注意が必要であり、そのような既往がある方が受診された場合は必ずフッ化物を積極的に活用しているか具体的に確認し、不足していると判断した際には適切な対応を指示しましょう。特に唾液分泌量が少ない方は緩衝能の効果をほぼ期待できないため、フッ化物の活用を食後すぐ行うように指示しています。
その上でこれらの場合も含めてう蝕リスクが高いと判断した際には、フッ化物の滞留性に優れたものやカルシウムイオンなどを同時配合しフッ化物の働きを高めたものを処方という形で強く勧めるようにしています。 同時に医院におけるプロフェッショナルケアにおいて、う蝕の進行を抑制できない場合には非常に濃度の高いフッ化物を含有するサホライドを審美的に許容できる場良いには積極的に塗布するようにしています。
まとめ
最後になりますが、う蝕は多因子疾患です。ここまで述べさせていただいたようにフッ化物を適切に積極的に活用することはもちろん、砂糖の摂取頻度や唾液の分泌量など多くの事柄に着目することが求められます。特に放射線治療やシェーグレン症候群などによって唾液分泌量が著しく減少している方は緩衝能に期待できないため、特にフッ化物による再石灰化が重要になります。
その上で、予防的な対策を長期間にわたって適切に行っとしてもう蝕の発症を全て防ぐことは不可能です。現実的な目標として「う蝕に罹患する歯を減少させる」「う蝕の進行を遅らせる」に行き着くと思います。理想的にはう蝕の進行を完全に停止させることですが、進行を遅らせることによって修復する時期を後ろにずらすことは小児期において特に大きな意味を持ちます。
幼若永久歯では接着能は低下してしまうため、結果として同じようなう窩への修復を行うとしても歯が成熟する時間を数年だけであっても「時間稼ぎ」することは無意味にはなりません。どうしてもミクロ的な1歯の状態に着目しがちになりますが、時間軸も含めて口腔内全体を診るマクロな視点も忘れないようにしましょう。
おわりに
わかりにくい点も多かったと思いますが、今回の連載にこれまでお付き合いいただきまして本当にありがとうございました。読者の皆様にとって患者さんへの対応において一つでも役に立つことがあれば幸いですし、一人でも多くの患者さんのう蝕が減少したり進行を遅らせられたりできれば嬉しいです。
参考文献
Marinho, VCC, Higgins, JPT, Logan, S, Sheiham, A ; Fluoride toothpastesfor preventing dental caries in children and adolescents. CochraneDatabase of Systematic Reviews 2003.
baldwin hb ; the toxic action of sodium fluoride. j.am.chem.soc., 21: 517-521, 1899.
相田潤,小林清吾,荒川浩久,八木稔,磯崎篤則,井下英二,晴佐久悟,川村和章,眞木吉信 ; フッ化物配合剤は チタン製インプラント利用者のインプラント周囲炎のリスクとなるか:文献レビュー.口腔衛生学会雑誌,66(3): 308-315,2016.
Dentwave(歯科衛生士のcoe)編集部より
今回で本連載は最終回を迎えました。皆様いかがでしたでしょうか?
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