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2013/10/24

第5回「次世代のための輝かしい日本の歯科界4:チタンの生物学的エイジングの発見、そのインビボの詳細

前回は、通常の内容から離れて、本年3月に我々の研究チームが受賞した学術科学賞の背景と意義についてインタビューを受け、その内容を掲載した。 第5回となる今回は再び本題に戻って、昨年に発表・公開されたチタンの生物学的エイジングに関して、そのインビボ(in vivo:生体内で、の意)での意味・意義についてお話ししたい。チタンの生物学的エイジングについては、複数の著名な科学誌がこぞって、歯科および整形外科領域のインプラント治療史上きわめて重要な発見であるとして取り上げたが、それはとりもなおさず、インビトロ(in vitro:試験管内などの人為的設定条件下で、の意)のデータ(第3回コラム参照)のみならず、インビボでの生物学的反応や現象に関するデータが示されていたからである。

まず、インプラント治療成功において最も重要な指標である骨内におけるインプラントの植立強度について述べることにする。植立強度は、骨とインプラントの結合強度と言いかえることもできる。

我々は、酸処理を施してからすぐのチタンインプラント、つまり新鮮インプラントと、酸処理後に3日間暗所に放置したもの、2週間放置したもの、4週間放置したものをそれぞれ用意した。インプラントの臨床あるいは研究に携わる読者の方々は周知であろうが、チタンの酸処理は、表面にミクロレベルの荒さをつくり出すために用いられる一般的な表面修飾法で、多くの歯科インプラントの製品に採用されているものである。我々は、これら新鮮度の異なるインプラントをラットの大腿骨に埋入し、埋入後2週、4週において、骨インプラントの結合強度を計測した。

その結果、強度の違いが明確に現れた。インプラントの年齢(ここでは便宜的にそう呼ぶこととするが、実際は、日齢あるいは週齢が高くなればなるほど、つまり酸処理後の時間が経過すればするほど)に反比例して、インプラント骨間の結合強度は落ちたのである。しかも、その落ち幅は、我々の予想よりもはるかに劇的であった。

たとえば、治癒2週において、4週経過インプラントは、新鮮インプラントの半分以下の強度しかなかった。さらに治癒4週においても、その差は縮まらず、4週経過インプラントは新鮮インプラントよりも強度は40%も下回った。一般に、ラットにおける代謝のスピードはヒトの約4倍といわれており、治癒2週は、骨の治癒段階の早期に相当し、治癒4週はそれがほぼ完了しかかる時期に相当する。ここから言えることは、4週経過インプラントは、新鮮インプラントと比較して、まず第1にオッセオインテグレーションの初期の過程が著しく遅延する、第2に、オッセオインテグレーションの最終的な達成レベルも低下してしまう、ということである。

以上のようなインプラントの加齢に伴うオッセオインテグレーション強度の低下がなぜ起こるのかを明らかにするために、我々はさらに実験を進めた。同じラットモデルを用いた組織学的解析である。

まず、図1に示した代表的な組織像に見られるように、4週経過インプラント周囲の新生骨は非常に断片的である。骨形成が行われていない部位、そして骨形成が認められてもインプラントと骨の間に軟組織が介在する部位も見られる。この組織像は、理想的とされる連続的で広範囲にわたる骨形成のイメージからは程遠い。しかし、これがまぎれもなく、従来から認識されてきた通常のインプラント周囲の骨形成像なのである。

ラットモデルにおける治癒2週のインプラント周囲の骨形成組織像

【図1】

 

一方、新鮮インプラント周囲には、かつて我々が目にしたことのないすぐれた骨形成の過程が観察された。明らかに高い連続性のある、しかも軟組織の介在がほぼ認められない広範囲の骨形成が見られたのである。

そこで我々は、これらの組織像をもとに数値的な定量を行った。治癒2週において、新鮮面のインプラント骨接触率が72%に達したのに対し、4週経過インプラントは半分以下の32%であった。治癒4週においては、新鮮インプラントの骨接触率は90%以上に達したのに対して、4週経過インプラントのそれは58%に滞まった。つまり、インプラントが4週経過しているというだけで、治癒初期における骨接触率は半減ししたのである。さらに不利なことには、その後いくら治癒を待っても、その差は埋まることなく、約4割の差が残ることが明らかになった。このことは、上述のインプラントの力学的強度に関する実験データと合致した。

次なる重要な疑問は、この酸処理チタン面で起こったインビボの生物学的エイジングが、他のサーフェスでも起こるか否かということである。

我々は、酸処理面と同様に歯科および整形の双方の領域で頻繁に使われているサンドブラスト面を用いて同様の実験を行った。結果は、酸処理インプラントの実験結果をそのまま再現するものであった。治癒2週において、4週経過したサンドブラストインプラントは、新鮮なものと比較して、約半分の骨結合強度しか示さなかったのである。

今回紹介したデータから導かれる結論をまとめると、以下のようになる。

1.チタン表面が加齢(時間経過)すればするほど、オッセオインテグレーションの強度の獲得、並び 
に周囲骨形成のスピードは大きく遅れる。
2.また、その遅延した強度並びに骨形成量の差は、さらに治癒期間を重ねたとしても、取り戻すこと 
ができない。つまり、永久的な差となる確率が極めて高い。
3.このようなチタンの生物学的エイジングがもたらすインビボの負の効果は、様々な表面形状をもつ 
チタン、つまりチタンインプラント全般に当てはまる現象である可能性が極めて高い。

今後のインプラント臨床を考えるうえで、以上に示したチタンの生物学エイジングのインビボでの実証は無視できないであろう。繰り返すまでもなく、新鮮表面と老化表面の間で生じた生物学的能力の差が、あまりにも大きいからである。また、チタン表面の年齢にきれいに反比例した生物学的データには疑う余地がなく、けっして偶然に生じたデータではないことを表している。

第2回の本欄でも述べたように、インプラントの流通的背景を考えると、我々は日常、明らかに、製造後4週以上経過したインプラント、いやそれをはるかに上回るインプラントを使用している。これまで人類はチタンの生物学的エイジングについて知る由がなかったからであり、当然、エイジングに対する予防策も対処法も存在しなかった。

そうして、いまようやく世界のインプラント施術者は、生物学的エイジングについて知り、問題意識を持ち始めている。しかし、その効果的な予防策あるいは対処法はいまだになく、目の前の患者に最良の治療を施したいという気持ちとのあいだにジレンマを抱えているのである。

けれども、その解決法はすぐそこにある、我々の手の届くところにまで来ているということをつけ加えて、今回のコラムの結びとしたい。チタンのエイジングの問題をいかにして克服するのかが、今後のインプラント治療のさらなる改善、いや、あえて言えば進化につながるのである。そして、それがひいては日本の歯科が必要としている成長戦略のための、有力な手段のひとつとなることを、私は信じて疑わない。詳しくは、次回以降に続けたい。

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