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記事

2013/10/24

第1回 なぜ歯周治療は難しいのか?

シリーズのはじめに

 我々が日常行っている歯周治療において、時として思うように治療効果が上がらなかったり、治療が成功したかに見えても再発する状況に直面することがある。
 この原因には歯周組織の環境や形態の問題、診査・診断からメインテナンスに至るまで、術者の判断を誤らせる様々な問題などが存在しているからに他ならない。それは病態が特殊であることや、部位の問題で治療が困難を極める場合もあれば、術者の診断が不十分だったり、単純なテクニックエラーの時もある。  
しかし様々な問題が生じた場合でも、その原因に気づくか否か、または対処法を知っているかどうかで、その後の結果が大きく左右される。本項では、これから何回かに渡ってシリーズとして、それらの歯周治療を難しくする因子を取りあげ、解説して行きたい。

1.バイオフイルムは手強い

 はじめに
バイオフィルム(Biofilm)。これは我々歯科医にとって一生立ち向かうべき最強の敵である。  
バイオフィルムとは微生物などがコロニー(集落)状に凝集し、固形の物質などに付着した状態を言う。たとえて言うならば、浴槽の内側や台所の配管の内面に付着する水垢のような存在で、硬組織と水とが接する環境下に存在するものである。


(図1)画像クリックで拡大表示

 
口腔内では、唾液(液体)の存在下で、歯面(固体表面)に対して微生物などがコロニー(集落)状に付着、凝集して形成される細菌性プラークは、歯周疾患という感染症を引き起こすバイオフィルムの典型例であり、歯周疾患の原因の中で主因(主要因子)と位置づけられる(図1)。  
言うまでもなく、このバイオフィルムを歯や歯周組織の環境から取り除くことが、う蝕や歯周治療の基本である。そしてバイオフイルムと戦うためには、敵を知る必要があり、特にその構造の特性に留意する必要がある。

1)細菌性プラークとバイオフィルム

 齲蝕や歯周疾患の原因である細菌性プラークは、様々な種類の細菌の共棲と凝集によって成り立っている。微生物は、唾液の中の糖タンパクが歯面に吸着してできた皮膜であるペリクルを介して歯面に付着し、増殖する。初期のプラークは球菌が多く、すなわち形成約1日後の歯肉縁上プラークは、グラム陽性球菌、桿菌が90%を占める。この際に、コロニー形成に関与するのはStreptococci、 Actinomyces等のフィブリルや線毛である。さらに、共凝集(Co-aggregation)という、異種の細菌が相互に作用するトウモロコシ状構造(Corn-cobs)が見られる。これは、Fusobacterium nucreatum などの線状菌に、Streptococcus Sanguisなどの連鎖球菌が付着した構造である。そして、バイオフィルムとしての細菌性プラークの発達には、細菌由来のglycocalyxなどの菌体外多糖が関与し、この存在により、細菌同士がくっつき合って、同一環境中に共存することができる。


(図2)画像クリックで拡大表示

 
この蓄積したプラーク内の環境は均一でなく、付着したプラーク表層から深層に向かうに従い、酸素分圧、PH、栄養状態などが変化し、細菌叢の構成に影響を与えている。すなわち、プラークは2日から5日時間程度で成熟するが、プラーク形成に従い、グラム陰性の偏性嫌気性菌の構成比率が増加することが知られている。このようにバイオフィルムとしてのプラークは、成熟した共同体 (climax community)として成立する(図2)。  
そして、これが歯周疾患を発症または進行させる微生物の巣となるわけである。

2)疾患とバイオフィルム

 
近年、感染症を論じる場合に、バイオフィルム感染症という病態概念が導入され、難治性または慢性感染症との関連が強調されている。なぜならば、完成したバイオフィルムは、微生物達の病原性共同作用(pathogenic synergism)により力を併せて病変の進行に関与すると考えられるからである。またバイオフィルムは、免疫作用、抗菌剤、界面活性物質などに対し抵抗性を持つことも知られている。このことは、後に述べる薬物を用いた化学的プラークコントロールの効果を減弱させる原因となる。
 
バイオフィルムが関与する細菌性心内膜炎、慢性気道感染症、慢性骨髄炎、複雑性尿路感染症などは、通常、生体と細菌との共棲関係が成り立ち、比較的穏やかな慢性的な感染状態である。しかし、宿主(生体)側の抵抗力の低下で急性化し、増悪する場合もある。同様に、バイオフィルムであるデンタルプラークも、歯周組織の抵抗性が減弱すると、歯周疾患の発症や進行に関与することになる。

 
先に述べたように、歯周疾患の直接的な原因(主因)は、このバイオフィルム(細菌性プラーク)であることから、我々歯科医師、歯科衛生士はそれらをどのようにして歯周組織から排除するかを考え、それをまず治療計画の中心におく。

 
歯周疾患患者に対してまず行う治療に歯周基本治療がある。その項目は多岐に渡るが、特に重要な項目は、プラークコントロールとスケーリング、ルートプレーニングである(図3、4)。


(図3)画像クリックで拡大表示


(図4)画像クリックで拡大表示

 プラークコントロールは、バイオフィルムである細菌性プラークを歯面や歯周組織の環境から排除することであり、物理的または化学的方法がある(図5)。


(図5)画像クリックで拡大表示

物理的プラークコントロールの代表例は歯ブラシや歯間ブラシ、デンタルフロス使用によるプラークコントロールであるが、歯石と共にプラークの除去も可能であることから、スケーリング・ルートプレーニングもプラークコントロールの一手段と考える。 これらのブラッシングやスケーリングは機械的にバイオフィルムを破壊することができ、プラークの除去手段として最も有効な方法であることは疑いない。


(図6)画像クリックで拡大表示

 
しかし、臨床の現場では、歯間部やポケット内など、除去用の器具が到達できない所にプラークが残存する場合があり、これが歯周治療において対処が難しい一面である。また、歯肉の腫脹、炎症が強度であると、物理的プラークコントロールが出血や疼痛のために不可能なこともある。それらの、物理的かつ機械的プラークコントロールが達成できない部位に関しては、化学的プラークコントロールが適用される(図6)。

 化学的プラークコントロールとしては、歯周治療に用いられる薬物療法があり、その中の殺菌薬、消毒薬による含嗽や、歯周ポケットイリゲーションがそれに該当する。その他、薬物療法には、抗菌剤、酵素製剤、消炎鎮痛薬などの経口投与や局所薬物配送システム(LDDS)がある(図6)。
 
歯周治療の中で、この殺菌薬・消毒薬を使用した薬物療法をどのように考えるべきなのだろうか?結論から先に述べると、歯周治療における薬物療法は、それぞれの薬物単独でプラークを除去できる原因除去療法ではないと考えられる。つまり歯面に付着したりポケット深部に入り込んでいるプラークに含嗽やイリゲーションなどにより殺菌薬が到達したとしても、先に述べたバイオフィルムの構造が薬物に対する抵抗性を作り出しているので、バイオフィルムであるプラーク内の微生物を完全に死滅させたり、その構造を完全に破壊する効果は望めない。また歯石を除去する能力もなく、汚染セメント質の殺菌効果も得られない。


(図7)画像クリックで拡大表示

 
これらにより得られる効果はおそらく、細菌感染による惹起されている炎症を抑制または緩解させることであり、おそらく炎症の生じている部位の環境改善の役割を担うものである。すなわち、化学的プラークコントロールや薬物療法は、歯周組織の環境をより良い状態にし、ブラッシングやスケーリングをはじめとする、それに続く各種の歯周治療の効果を高めるための補完的な方法と考えるのが適切であろう(図7)。
 
これのことを知っておかないと、歯周疾患の再発に直面することになる。よって、機械的方法によりプラークを完全に除去できない部位に関しては、出来る限りバイオフィルムが形成できないように歯や組織の形態を変えて環境作りに努力し、その後の経過を常に注意深く観察する必要がある。

参考文献

1) 
伊藤 中訳:Thomas M. Hassell、 デンタルプラークをバイオフィルムとして理解する Part I. バイオフィルムとは何か?なぜ重要なのか?歯界展望 93:135-144、1999.

2) 
Costerton J.、 Lewandowski Z.、 Caldwell D.、 Korber D.、 Lappin-Scott H.: Microbial biofilms. Ann. Rev.Microbiol.、 49: 711-745、 1995.

3) 
花田信弘編:ペリオ・カリエスの予防に活かす抗菌薬・殺菌薬とフッ化物.16-21、68-93、医歯薬出版株式会社、2005、東京.

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