第26回 歯根膜組織由来および歯肉組織由来の間葉系幹細胞

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今回と次回のコラムで2011年9月30日に長良川国際会議場にて開かれた第53回歯科基礎医学会のサテライトシンポジウムおける筆者の発表内容について書かせていただきたい。 この発表に至る背景は歯根膜組織と歯肉組織の基礎的なことでした。歯学部の2年生あたりの口腔組織の講義と重なりますが,思い起こしていただくために説明させていただきたい。

この発表に至る背景は歯根膜組織と歯肉組織の基礎的なことでした。歯学部の2年生あたりの口腔組織の講義と重なりますが,思い起こしていただくために説明させていただきたい。

まず,歯周組織とはなんでしょうか。歯周組織の役目は,歯を顎の骨に結合する役目とその栄養供給と,外界からの異物の進入を防ぐ働きが大きな役目でしょう。名前の事になり,突然ですが,歯周組織という組織はありません,歯周組織は,セメント質,歯根膜,歯槽骨および歯肉の一部で構成されているからです(写真1)。学生からどれが歯周組織ですかと聞かれると,答えるのに困るので,講義では,車の会社の話を例に出す。トヨタの車はあるけれど,トヨタという名前が付けられた車は無い。と。でも,なかなか理解してもらえない。

次に,歯周組織の由来に移る。歯周組織はどの細胞からできるのでしょうか?現在では,歯胚の歯小嚢組織の未分化な細胞が歯根膜,セメント質,固有歯槽骨そして歯肉靭帯組織の一部を形成すると考えられている(写真2)。つまり,歯小嚢組織内の未分化な細胞は歯根膜の線維芽細胞,セメント芽細胞,骨芽細胞そして,歯肉の線維芽細胞に分化できることになる。

歯肉組織について考えてみる。歯肉は上皮と結合組織で構成され,口を開けると歯肉の上皮組織が観察される。結合組織は上皮組織の下部にあり,粘膜固有層とも呼ぶ。歯肉は粘膜下組織が存在しないので,粘膜固有層のコラーゲンで作られている線維束が直接セメント質や歯槽骨の骨膜に結合している。粘膜固有層のコラーゲン線維束からできる線維群を歯肉線維群とも名付けられている。つまり,歯肉も立派に歯を歯槽骨に固定している役目を持つ。

歯肉組織についてもうひとつ追加のお話しです。上述したのは歯周組織に含まれる歯肉のことです。あえて,"歯周組織に含まれる"と記述する理由に,歯槽骨の外層にある歯肉は口腔粘膜としての歯肉と考えることができる。解剖学的にな用語で言えば,歯肉歯槽粘膜境から歯槽骨頂までの歯肉の広さになる。私が伝えたいのは,歯を支える役目を持つ歯肉組織も歯槽骨の外側にある歯肉組織は,おそらく,その役割は大きく異なると思うので,特別な名称があっても良いと思うが,歯肉組織として名づけられている。しかし,このコラムでは,分けて考えたい。歯周組織の一部の歯肉は,歯肉靭帯組織と呼び,歯槽骨の外層の歯肉を粘膜歯肉組織と分かりやすくするために名称を付けさせて頂く。実際の名称では無いことをご了解いただきたい。

歯肉の由来に話を戻す。歯肉靭帯組織を構成する線維芽細胞の由来は歯小嚢組織内にいる間葉系の未分化な細胞と歯胚組織以外の間葉系の未分化な細胞の両方から分化した細胞が混じっていると考えられている。歯胚以外の間葉系細胞とは,口腔粘膜歯肉組織の粘膜固有層をも形成する細胞である。歯周組織の由来はかなり複雑であると思いませんか?私は,日本大学で学生にこれらの内容を講義する立場にあるが,私の説明も良くないのでしょうね,なかなか理解してもらえないです。

観察する方向を変えてみたいと思います。線維芽細胞から考えるてみると,歯の周りには3種類の線維芽細胞が存在することは理解して頂けると思います。第一は,歯根膜組織内に存在する線維芽細胞,第二は,歯周組織の一部の歯肉組織の線維芽細胞,第三は歯周組織以外の歯肉組織の線維芽細胞ですよね。これらの線維芽細胞によって出来る結合組織の由来も異なり,働きも異なることから,3種類の結合組織を構成する線維芽細胞に何らかの違いがあることは推測できるとおもいます。

過去の論文において,歯根膜の線維芽細胞と歯肉の線維芽細胞を比較した研究が数多く発表されています。

このコラムは歯周組織と歯肉組織の復習となってしまいましたが,幹細胞の話を理解して頂くために必要と考えました。次回は本題に移れればと思っています。

写真1 マウスの歯と歯周組織

G: 歯周組織の一部の歯肉(歯肉靭帯) A: 歯槽骨 J: 歯肉の上皮 k: 歯肉の粘膜固有層(歯周組織以外) *: 歯根膜組織

マウスの歯と歯周組織

写真2 マウスの帽状期の歯胚

歯小嚢は歯胚の外周に存在している(白い矢印)。 歯小嚢組織が将来歯周組織を形成する。

マウスの帽状期の歯胚

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