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前回(第4回)は、既存の医院が“増え続ける紙カルテ”という課題を起点に、段階的にデジタル化を進めた「りお歯科クリニック」様の事例をお届けしました。今回のかしわじま歯科・小児歯科様は、その対となる、新規開業の段階、“最初から”デジタルを前提に医院を設計した事例です。

2024年に岡山県倉敷市で開業し、小児・ファミリー層のかかりつけを掲げる「かしわじま歯科・小児歯科」様。院長の浅野圭二先生が診療の根幹に据えるのは、「患者さんを、自分の家族だと思って診る」という考え方です。本記事では、この“家族のように寄り添う”医院像を実現するために、なぜ・どのように最初からデジタル化を進めたのか、その考え方と現場の実践を紐解いていきます。

”家族のように寄り添う”を開業初日から。かしわじま歯科・小児歯科が”最初からデジタル”にした理由

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「家族を診るように」――どんな医院をつくりたいか

まず、浅野院長先生が目指す医院像から伺いました。同院が診療方針の一番に掲げるのは、患者さん一人ひとりに「自分の家族だったらどう治療するか」という視点で向き合うことです。

「治療の技術はもちろん大事ですが、それ以上に、不安な気持ちに寄り添った説明や会話を大切にしています。『ここなら緊張せずに通える』と思ってもらえる環境をつくりたい。ほかの歯医者さんを探さなくてもいいように、“あなたにとって最後の歯科医院”でありたい、というのが最終的な目標です」(浅野院長先生)

かしわじま歯科・小児歯科の院長を務める浅野圭二先生

この想いの背景には、浅野院長先生ご自身の家庭があります。
「うちには子供が2人いて、もうすぐ3人目が生まれます。子供は走り回ってケガもしますが、僕は歯医者なのでいつでも診てあげられる。でも、普通のご家庭ではなかなかそうはいきません。だからこそ、みんなが困ったときにいつでも相談できる、地域のホームドクターになりたいと思って開業しました」(浅野院長先生)

小児・ファミリー層を大切にする理由も、この延長線上にあります。仕事をしながらの子育ての大変さに触れ、「同世代を応援したい」と語る浅野院長先生は、0~1歳という早い段階からの関わりが、その子の生涯の口腔環境を左右するといいます。
「小さいうちに虫歯菌をうつさないようにすることや、口呼吸、抱っこの姿勢など、早くアプローチするほど、歯並びも虫歯予防も良い方向に向かいます。そこがきちんとできていれば、その子が大人になっても、高齢になっても、自分の歯で一生楽しく食事ができる。だから小児・ファミリー層を大切にしたいんです」(浅野院長先生)

こうした姿勢は、診療そのもの以外の部分にも表れています。同院ではオープン当初から保育士が在籍し、無料の託児を行っています。「子供を預けられず歯医者に行けない」という保護者が通いやすいように、という配慮です。受付にも、保育士の資格を持つスタッフを配置しています。

医院の”顔”となる受付。保育士資格を持つスタッフが迎える

さらに、公式LINEを診察券として活用し、通院患者とは“24時間つながっている”状態をつくっています。可能な範囲で、という前提のもと、緊急時には浅野院長先生自身が対応することもあるといいます。

「以前、夜にお子さんが転んで歯が抜けてしまい、救急に運ばれたけれど処置ができなかった、という連絡がLINEで入ったことがあり、すぐに対応したことがあります。もちろん体力的に難しいときは翌朝一番にお願いすることもありますが、起きている時間なら、できるだけ早くお返事するようにしています。こうした緊急のご相談は年に数件ほどですが、家族だと思えば、当たり前のことなんです」(浅野院長先生)

診察券は公式LINEであり、通院患者とは24時間つながっている

「かかりつけ歯科」という言葉だけでは表現しきれない――浅野院長先生の患者さんへの向き合い方は、その一言に収まりきらないものでした。浅野院長先生はそれを、こう表現します。
「患者さんも、誰かにとっては家族です。その家族に向き合うのと同じように向き合える医院でありたい。医療人には、そういう“無償の愛”のようなものが必要だと思っています」(浅野院長先生)

その医院をつくるために、最初からデジタル化を進めた

“家族のように寄り添う”医院をつくる――その実現のために浅野院長先生が向き合ったのが、限られた時間をどう使うか、という課題でした。
「業務の無駄を最大限に削減して、そのぶんを患者さんとのコミュニケーションの時間に充てたい。効率化はあくまで手段で、削減した時間を“人と向き合う時間”に変えることが目的です」(浅野院長先生)

ここで特徴的なのが、「何をデジタルに任せ、何は人が担うのか」という線引きの明確さです。浅野院長先生は、受付業務については“人”であるべきだと言い切ります。

「受付は絶対に人であるべきです。初めての歯医者さんって、誰でも不安じゃないですか。どこに行けばいいのかもわからない。そこはやっぱり、人がしっかり対応すべきだと思っています。最近のAIはとても優秀ですが、どこか丁寧すぎて、患者さんにも“AIだな”と伝わってしまう。受付は医院の顔ですから、そこに温かみは欠かせません」(浅野院長先生)

一方で、人が関わらない事務作業などは、積極的にデジタルに任せるといいます。その基盤に据えたのが、デジタル診療ノート「Dental eNote」でした。浅野院長先生は前職の歯科医院でデジタル化を主導した経験を持ち、その知見が新規開業での判断を支えています。

「サブカルテはDental eNote一択だと思っていました。写真も動画も入れられて、情報を一元管理できる。予約ソフトとの連携も大事ですが、僕が一番重視したのはソフトの安定性です。前職で大人数が同時に同じ患者さんのカルテを開いても、動作が重くならなかった。ほかのソフトだと“1つのデバイスでしか編集できない”というものも多いんです。それに、万が一ネット回線が不安定になっても、スマホで情報が見られる。何かあってもリカバリーできるという安心感が、医院づくりのうえで大きかったです」(浅野院長先生)

iPadでの手書きにも対応するDental eNote

開業前の設計段階から、同院は“最初からすべてをデジタルで”という方針を描いていました。電子カルテやデジタル診療ノートにとどまらず、ウェブ予約・ウェブ問診票・LINE診察券・自動精算機・デジタルサイネージなどを、ひとつながりの流れとして設計したといいます。

では、“最初から”デジタルで始めることには、どんな良さがあるのでしょうか。浅野院長先生は、途中から切り替える難しさを引き合いに出します。

「開業直後は紙カルテでいって、慣れた頃にデジタル化しよう、という先生もいます。でも途中で切り替えると、システムの教育や運用に加えて、前のカルテのスキャンに時間がかかる。最初から導入すれば、スタッフ全員が同じスタート地点、同じ考え方でスタートできるんです。また、紙に慣れてしまうと、タブレットに入力することに抵抗を感じるスタッフが、必ず出てきます。最初からなら、そもそもその抵抗が生まれません」(浅野院長先生)

全員が無理なく使えるように、運用面でも工夫を凝らしています。前職では、ベテランのスタッフも含めて誰もが使える形で運用してきた経験があり、その知見が自院の立ち上げにも活きています。

「デジタルに慣れている人だけが使える、という状態にはしたくなかった。だからできる限り操作をシンプルにして、誰でも直感的に使えるようにしています。紙ではできない“ワンタップで日付や担当者名が入る”といった便利さがあると、『デジタルだからいいね』と思ってもらえる。Dental eNoteは機能が多いぶん、盛り込みすぎるとかえって混乱するので、うちはかなりシンプルに使っています」(浅野院長先生)

設定においては、もともとあるテンプレートをコピー&ペーストして、自分の使っていたカルテの様式に取り入れていき、スムーズに導入を進められたそうです。

浅野院長先生は、Dental eNoteを導入し運用が定着した今、同システムの存在について次のように語ります。
「もう、それがないとやっていけない“情報の中心”です。毎朝毎晩、その日の患者さんのカルテを全部確認するのですが、紙カルテだと『どこにいったかな』と探すことになる。それが、ワンタップ・数秒で一人ひとりのカルテを開ける。まさに仕事の中心になっています」(浅野院長先生)

その日の患者全員をDental eNoteで確認する

リアルタイムな情報共有で家族のように寄り添う

基盤としてのDental eNoteは、小児・ファミリーの現場で具体的にどう活きているのでしょうか。象徴的なのが、カウンセリングで得た情報を、スタッフ間でリアルタイムに共有する使い方です。

「カウンセリングルームでの会話は、診療室のスタッフもきちんと見ています。『この子はこのアニメが好き』といったことをその場でDental eNoteに書いておくと、それを見たスタッフが、お子さんが診療室に入る前に、正面や天井のモニターにその映像を流しておける。『あ、これやってる!』と喜んでもらえます。大人の患者さんでも、『韓国ドラマがお好きだと伺ったので流しておきましたよ』という具合です」(浅野院長先生)

カウンセリングでの会話がリアルタイムでスタッフに共有される

この情報共有は、患者さんへの気配りだけでなく、スタッフの診療準備の面でも効いています。

「感染症をお持ちの患者さんの場合、チェアをラッピングするなどの準備が必要になります。カウンセリング中に口頭で指示するわけにもいきませんが、ノートに情報があれば、それを見たスタッフが事前に準備を整えられる。必要な情報がすべてそこに集まっているんです」(浅野院長先生)

診療室の天井にモニターを設置するというアイデアも、開業前の設計段階から決めていたことのひとつです。現在、5台のチェアにあわせて計6台(合計30台)のモニターを備え、配線も自ら設計したといいます。

「治療のビフォーアフターや途中の写真を撮って、天井のモニターに映します。患者さんをいちいち起こして『今こういう状態だから、こういう治療が必要です』と説明していると、時間もかかる。寝たまま上のモニターを見てもらいながら説明できれば、効率的ですし、患者さんも状態を理解しやすい。配線も含めて、設計の段階から全部決めていました」(浅野院長先生)

設計段階から決めていたという天井モニターは、寝たまま説明を受けられる
保護者への説明や記録の共有には、Dental eNote以外のツールも組み合わせています。

「小児矯正も行っていて、矯正治療の画像管理には専用のツールを使っています。その画像をスクリーンショットして、LINEの診察券からビフォーアフターとしてお送りする。『こういう虫歯があったので、こう詰めましたよ』という治療前後の説明を必ずお送りするようにしています。保護者の方が忙しく、お子さんを預けて『治療だけお願いします』となることもありますが、だからこそ、記録をきちんとお渡しすることが大切だと考えています」(浅野院長先生)

また、紙カルテを持たないという選択は、院内の“空間”にも余白を生みました。同院では、紙カルテの保管庫をつくらないことで生まれたスペースを、大きめのキッズスペースに充てています。

「紙カルテの保管庫をつくると、それだけスペースが取られてしまう。うちは最初からつくらない設計にして、そのぶんをキッズスペースにあてました。お子さんが遊べる場所を広く取れますし、書類が散らかることもなく、デスクもきれいな状態を保てます」(浅野院長先生)

紙カルテの保管庫をつくらないことで実現した広いキッズスペース

そして、運用が進むなかで、次の課題も見えてきているといいます。

「たとえば歯周病検査のポケットの数値は、今は手で入力しています。これを音声で入力できたら、と考えていて、音声入力など、さらなる効率化に取り組んでいるところです。AIの進化もすごいので、活用できることはどんどん取り入れていきたい。課題はたくさんありますが、それも楽しみながら、一つずつ解決しています」(浅野院長先生)

これから始める先生へ──最初の一歩

最後に、これからデジタル化に取り組もうとする先生方へ向けたメッセージを伺いました。浅野院長先生がまず強調するのは、「何のためにデジタル化するのか」を最初に考えることの大切さです。

「まず考えてほしいのは、デジタル化そのものが目的ではない、ということです。何を効率化して、それによって生まれた時間をどう使うのか。そこを考えないまま『時代だから』と何も考えずにデジタル化すると、アナログにはアナログの良さもあるのに、それを見失ってしまう。ちゃんと考えてから進めるべきだと思います」(浅野院長先生)

そのうえで、これから開業される先生には、“最初から”という選択を勧めます。

「新規開業なら、絶対に最初からがおすすめです。全員が同じスタート地点に立てますし、紙に慣れてしまう前に始められる。紙カルテの保管庫をつくる前なら、そのスペースも別のことに活かせます」(浅野院長先生)

インタビューの締めくくりとして、最後にDental eNoteについてもコメントをいただきました。

「Dental eNoteは新規開業には特におすすめですが、医院の規模は関係ないと思っています。効率を上げながら診療の質を高めたい、患者さんと向き合う時間をもっと取りたい――そう考える医院なら、どこにでも合うはずです。まずはトライアルで一度試してみてはいかがでしょうか」(浅野院長先生)

当日はスタッフの誕生日で、仲の良い様子を伺えた

編集後記

“家族のように寄り添いたい”という想いを実現しようとするほど、「もっとこうしたい」「あんなこともやりたい」が生まれ、それを形にする手段が、結果としてデジタルだった――。

新規開業だからこそ、その手段を最初からひとつの流れとして設計でき、浮いた時間とスペースを、患者さんと向き合うことに振り向けられた。りお歯科クリニック様が“段階的に”たどり着いた地点へ、かしわじま歯科・小児歯科様は“最初から”設計して踏み出していました。

デジタル化を「目的」ではなく「向き合う時間を生む手段」と捉え、実現したい医院像から逆算して設計する。その順序こそが、これから医院づくりに臨む先生方にとって、確かな指針になるのではないでしょうか。

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