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小児期の不正咬合や口呼吸は、成長発育や口腔健康に大きく影響します。近年、マイオブレース(Myobrace®)を用いた口腔筋機能矯正が注目されており、従来の歯列矯正と異なり、口腔筋の正しい使い方を自然に身につけさせることが可能です。歯科医師や歯科衛生士は、装置の知識だけでなく、生活習慣や口腔機能の指導、家庭での継続支援を含めた包括的な対応が求められます。本稿では、マイオブレースの基本概念、臨床効果、実践方法、そして歯科スタッフが理解すべきポイントを整理します。

マイオブレースで始める小児の口腔筋機能矯正―歯科衛生士・歯科医師が知るべきポイント

著:nishiyama /

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1.マイオブレースとは

マイオブレースは、歯列矯正と口腔筋機能矯正を同時に行うことを目的とした小児用の装置です。装置自体の構造や使用方法を理解し、臨床で適切に導入することが、治療成功の第一歩となります。

1-1.装置の特徴
マイオブレースは、取り外し可能で柔らかい素材を用いた装置で、上顎や下顎の歯列に装着することで、舌や唇、頬の筋肉を正しい位置に誘導します。装置の使用によって、無意識にお口が開く習慣や舌の低位、口呼吸といった口腔機能異常を改善することが可能です。従来の固定式矯正装置と異なり、装着時の違和感や侵襲が少なく、子どもが自然に生活の中で使用できる点が特徴です。

1-2.対象年齢と適応
対象は主に4歳から15歳までの成長期です。口呼吸や舌の位置異常、軽度から中等度の不正咬合がある子どもに効果が期待できます。重度の顎骨変形や高度な不正咬合の場合は、マイオブレース単独では改善が難しく、他の矯正治療との併用が必要です。

2.マイオブレースの臨床効果

マイオブレースは、単なる歯列矯正装置ではなく、口腔筋機能の改善を通じて子どもの自然な成長と生活習慣の改善を促す装置です。

2-1.口腔筋機能の改善
装置使用により、舌の正しい位置の保持、唇の閉鎖、頬筋の安定などが促されます。結果として、口呼吸が減少し、お口ポカンの習慣も改善されます。さらに、正しい嚥下パターンの習得につながり、歯列形成に必要な筋機能が整います。

2-2.歯列と咬合への影響
口腔筋機能が整うことで、軽度から中等度の不正咬合の改善が期待できます。歯列の自然な整列だけでなく、顔貌の健全な発育にも寄与し、顎顔面の成長異常の予防にも役立ちます。

2-3.呼吸機能や姿勢への影響
口呼吸が改善されることで鼻呼吸が促され、酸素摂取効率や睡眠の質が向上します。また、口腔筋が正しく機能することで頭頸部の姿勢改善にもつながります。診療時には、呼吸パターンや姿勢の変化も観察して評価します。

3.マイオブレースの導入と実践方法

マイオブレースを効果的に導入するには、初診時の評価、装置選定、装着指導、口腔筋機能訓練(MFT)の併用、定期的なフォローアップが不可欠です。

3-1.初診時の評価
診療では、口唇閉鎖や舌の位置、嚥下様式、鼻呼吸の有無、上顎・下顎の発育状況を観察します。加えて、生活習慣や食事、姿勢、呼吸パターンについて保護者に問診することで、装置の適応や使用方法の計画を立てます。

3-2.装置選定と装着指導
装置は年齢や歯列に応じて複数サイズがあり、適切なサイズを選ぶことが重要です。日中1〜2時間と就寝時の使用を基本とし、舌の位置や唇の閉鎖を意識する方法を保護者と子どもに丁寧に説明します。加えて、装置の清掃や保管方法もあわせて指導します。

3-3.MFTとの併用
マイオブレース単独でも効果はありますが、MFTを併用することでより確実な改善が得られます。舌を上顎に押し当てる練習、唇閉鎖を強化する運動、正しい嚥下や咀嚼の訓練を組み合わせることで、口腔筋機能の習得を促進します。

3-4.フォローアップと評価
定期フォローは1〜2か月ごとに行い、装置の適合状況や口腔筋の発達状況、生活習慣の改善度を確認します。必要に応じて装置サイズの変更や訓練内容の調整を行うことで、子どもが無理なく継続できる環境を整えます。

4.歯科医師・歯科衛生士の役割

マイオブレース治療の成功には、歯科医師と歯科衛生士の連携が不可欠です。それぞれの役割を理解し、チームで子どもを支援する体制を作ることが重要です。

4-1.歯科医師の役割
歯科医師は、適応症例の診断や装置選定、顎骨や歯列の評価、治療計画の立案を担います。必要に応じて耳鼻科や小児科と連携し、鼻閉や睡眠障害などの全身的リスクにも対応します。

4-2.歯科衛生士の役割
歯科衛生士は、装置の清掃や装着状況の確認、MFT指導、家庭での生活習慣改善サポートを行います。診療中に観察した口腔筋の状態や装置使用状況を歯科医師にフィードバックし、治療計画の調整に役立てます。

まとめ

マイオブレースは、歯列矯正と口腔筋機能矯正を同時に行う小児向け装置として、成長期の子どもに大きな可能性を提供します。

早期導入と定期的なフォロー、生活習慣改善の継続支援を通じて、口呼吸や不正咬合、顔貌の成長異常などのリスクを最小限に抑え、子どもが自然に正しい口腔筋機能を身につけることが可能です。歯科現場は単なる治療の場ではなく、子どもの健全な成長と生活習慣改善を支える教育の場であることを意識し、治療を進めることが求められます。

Introduction

著者紹介

nishiyama

歯科大学歯科衛生士学科卒業後、小児患者や障害者の歯科診療体制や、歯科恐怖症患者について学ぶため歯科大学付属の専攻科へ進学し口腔保健学学士を取得。その後は小児歯科専門歯科医院にて勤務。歯科衛生士ライターは「歯科に苦手意識を持っている人が媒体を通して理解し、歯科を身近に感じることで歯医者に行ってみよう」という気持ちになることを後押ししたいという思いから学生時代に始めた。