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【3つの滅菌方法まとめ】基本から運用コストまで解説vol.1

著:ミホ /

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歯科医療現場では、器具の滅菌は院内感染を防ぐために欠かせません。中でも歯科衛生士は、日々さまざまな器具の滅菌作業に携わっています。「この数で滅菌1回かけて良いかな(もったいなくないかな)?」「この器具はオートクレーブにかけて良いんだっけ?」等と迷ったことはありませんか?

本記事では、歯科医院でよく使用される3つの滅菌方法の基本について簡単に触れながら、それぞれのコスト、注意点まで2記事にわたって解説します。日々の業務にお役立てください。

消毒と滅菌の違い

歯科で使用する器具は、患者さんごとに完全に滅菌された状態で使用することが求められます。かと言って、使用する物すべてを滅菌していると相当な労力とコストがかかります。

そこで使い分けるべきなのが「滅菌」と「消毒」です。これらの違いをあらためて確認しておきましょう。

● 消毒:すべての微生物を除去するわけではない。病原性微生物の数を減らす処理
● 滅菌:すべての微生物(細菌・ウイルス・芽胞など)を完全に死滅させる処理

つまり必ず滅菌すべきなのは、患者さんの口腔内に直接触れる物です。具体的にはミラーやピンセット、タービン等です。

グローブやコップといった衛生用品も、患者の口腔内に直接触れるものです。これらは滅菌ではなく、ディスポーザブル(使い捨て)とし、患者さんごとに交換・廃棄します。

もっと細かく見ていくと、例えば患者の口腔内に触れたグローブでパソコンに触れてしまったとします。上記の流れでいけば「パソコンも滅菌すべき」となります。しかし電化製品のため不可能です。そのため消毒(清拭)で対応します。

同様に、ユニットのアーム部分やライトの取っ手部分等も、患者の唾液や血液が付着していることがあります。しかし滅菌できなかったり現実的でなかったりすることもあるため、消毒で対応します。

滅菌の不備によるリスク

手間やコストがかかるからと滅菌をおろそかにしたり、正しい方法で滅菌を行わないと、以下のようなリスクが伴います。

院内感染の拡大

例えば以下に罹患している患者に使用した器具を、しっかり滅菌せずに別の患者に使用することで、ウイルスを媒介し院内で二次感染・交差感染が発生することがあります。

病原体 感染経路 リスク・特徴
B型肝炎ウイルス(HBV) 血液・体液 慢性肝炎・肝硬変・肝がん
C型肝炎ウイルス(HCV) 血液 慢性化しやすい・治療困難
HIV(エイズウイルス) 血液・体液 免疫低下により日常感染症が重症化
結核菌 飛沫・空気 高齢患者や医療従事者に多い
インフルエンザ・コロナウイルス 飛沫・接触 短期間で院内クラスターとなる可能性あり

患者からの信頼を失う

SNSや口コミで、「〇〇クリニックにかかった後インフルエンザになった」「〇〇医院は清潔でなかった」等と広まると、一度失った信頼の回復は難しく、医院全体の経営にダメージを与える可能性が高いです。それが事実でなかったとしてもです。

器具の損傷・機能低下

滅菌機には入れていても、滅菌方法が適切でないと器具を傷めてしまうことがあります。例えばプラスチック製品が変形・破損したり、ハンドピース内部の潤滑剤が消失し故障につながったり等が挙げられます。

これは長期的に見ると、患者のケガや治療の遅れにもつながります。

歯科で使用される主な滅菌機の種類と特徴

歯科医院で使用される滅菌機は、主に以下の3つです。

オートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)

歯科現場でもっともよく使われているのは、オートクレーブです。密閉した空間内で、水蒸気を高温・高圧にすることで滅菌効果を発揮します。121℃で15〜20分、または134℃で3〜5分間の処理が基本です。
メリット・デメリット
● メリット:短時間で広範囲の微生物を滅菌できる
● デメリット:高温であるため熱に弱い器具には使用できない
滅菌可能なもの・不可能なもの
● 滅菌可能なもの:金属製のもの、耐熱性のプラスチック製品など
● 滅菌不可能なもの:ゴム製品、熱に弱いプラスチック製品など
滅菌にかかるコスト
例えばユニットが3台あり、1ユニットあたり毎日30分〜1時間の予約が10〜18時まで入っている歯科医院があるとします。この場合のオートクレーブ1回あたりのコストは以下の通りです。

項目 条件・想定 概算コスト
電気代 滅菌1回あたり 約1.5〜2.0kWh 約50〜70円
水(蒸留水) 滅菌1回あたり 約500ml〜1L使用 約10〜20円
滅菌パック・インジケーター 10〜20個を使用する想定 約50〜100円
オートクレーブの償却費 例:150万円 ÷ 7年 ÷ 年300日 × 1日5回の稼働 約140〜150円
滅菌1回あたり合計 約250〜350円

先述の条件で、1ユニットあたり1日6〜8人ほどの患者を治療・処置し、オートクレーブの対象器具は1人あたり約2〜3セット使用と想定すると、1日あたりの滅菌回数の合計は4〜6回となります。つまりオートクレーブ1回あたりのコストを300円とすると、1日あたり1,200〜1,800円、1ヶ月あたり36,000〜54,000円の滅菌コストがかかっているということです。

なおここには、滅菌を担当する歯科衛生士や歯科助手の人件費は含まれていません。
使用方法
器具を洗浄・乾燥させた後、専用パックに封入し、規定の温度・時間で滅菌を行います。
使用時の注意点
● 器具の材質を確認し、適切な温度・時間設定を守ること
● 滅菌したい器具を機械に詰めすぎないこと

まとめ

まずは前編である本記事で、一般的に使用されているオートクレーブについて解説しました。後編では、オートクレーブの中でもより感染対策レベルが向上するクラスBオートクレーブと、乾熱滅菌器、ケミクレーブについて解説します。

Introduction

著者紹介

ミホ

東京医科歯科大学卒業後、都内歯科大学病院に勤務。退職後はフリーランスの「歯科衛生士ライター」として活動し、ライターの指導や教育、ディレクションも行う。自身で制作・運営を行なっていた歯科メディアは販売を達成。大学の卒業研究では日本歯科衛生学会の学生研究賞(ライオン歯科衛生研究所賞)を受賞。現在はDentalMonitoringJapanに勤務し、2児の母でもある。
Instagram:@toothteethtokyo