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なぜウエルテックのブースには歯科衛生士の行列ができるのか? “体験”を軸にした徹底した顧客主義の全貌に迫る
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常識を覆す展示ブース
デンタルショーといえば、どんな光景を思い浮かべるだろうか。巨大なロゴ、整然と並ぶパンフレット、高い壁に囲われた展示ブース——。
興味のある製品ならともかく、そうでなければ一歩を踏み出すのに少し迷う。そんな経験がある方も少なくないだろう。
だが、デンタルショーの会場で異彩を放つ一角がある。そこには常に人が溢れ、笑顔や歓声が絶えない。まるで人気アトラクションの前にできる行列のような熱気。中心にあるのは、ウエルテック株式会社のブースだ。
とりわけ目を引くのは、20〜30代の歯科衛生士たち。友人と談笑しながら製品を試し、写真を撮り合い、心から楽しんでいる。なぜ、彼女たちはこぞってこのブースに集まるのか。なぜ「人を惹きつけ続ける場」になっているのか。
その秘密は、従来の「説明して売る」という型を捨て去り、「体験で感じてもらう」という顧客中心の哲学にある。本稿では、ウエルテックの徹底したブース設計へのこだわりを紐解いていく。
歯科衛生士を主役に据える
ウエルテックが重視したのは、来場者の中でも“歯科衛生士”の方々だった。
同社の担当者は、こう振り返る。
「デンタルショー全体が、多くの歯科衛生士さんがいらっしゃるにも関わらず、歯科衛生士さん向けの設計をしているところが1つもないなと。歯科衛生士さんがたくさん来ているにもかかわらずあんまり楽しそうにされていなかったというのが背景にあって」
かつては同社も、他の多くのメーカーと同様、対面で製品を一つひとつ丁寧に説明するスタイルを取っていた。担当者も「それはある意味正しい姿でもある」と認めるように、決して間違ったアプローチではない。しかし、「デンタルショーというお祭りの場で、来場者に心から楽しんでもらいたい」という想いから、戦略の舵は大きく切られた。
製品を「説明し、売る」場から、ブランドの世界観を「体験し、好きになってもらう」場へ。このコンセプトの転換こそが、現在のブースの原型を創り上げたのである。
体験を最大化するブースデザインと設計
ウエルテックのブースは単なる展示スペースではない。そこは、来場者が主役となる“舞台”。その設計思想は大きく3つに集約できる。
・囲いをなくす「開放性」
一般的なブースは壁やパネルで区切られ、来場者が「入るかどうか」を一瞬ためらってしまうブースも少なくないのではない。
だが、ウエルテックのブースには囲いがない。どこからでも自由に入り、自然に通り抜けられる設計だ。
「我々は他のメーカーさんのところと違って大きく違うところは、囲いをしていません。全く」
この設計の意図は「どこからでも入りやすくする」こと。来場者が「ちょっと覗いてみようかな」と感じた瞬間に、何の躊躇もなく足を踏み入れられるよう、心理的な障壁を徹底的に取り除いている。
物理的な障壁をなくすことが、そのまま心理的な壁を取り払う。偶然の立ち寄りが増え、来場者の体験が始まる最初の一歩となる。
一切囲いがないウエルテック社の展示ブースの様子
・百貨店の「コスメフロア」のような世界観
若い女性が心惹かれる空間とは何か。その答えが「百貨店のコスメフロア」だった。
ブース内部に足を踏み入れると、そこはまるで「百貨店のコスメフロア」のような、洗練された上質な空間が広がる。これはターゲットである若い女性たちが「使いたいな」と直感的に感じる空間を創り上げるための、明確な意図を持った演出だ。その世界観を支えるのが、「照明」への徹底的なこだわりである。
天井照明に頼らず、展示台や製品ごとにスポットを当て、美しく浮き上がらせる。光は高級感と清潔感を演出し、「品質の高さ」を無言で伝える。
「1個1個綺麗に照らすことを重視している。見た瞬間に“いいな”と思ってもらえるように」
言葉で説明せずとも、環境そのものがブランドの価値を雄弁に語る。これがウエルテック流の連想ブランディングである。
まるで百貨店のコスメフロアのような空間
・主役は来場者自身
この洗練された空間の主役は、製品でもなければ、説明するスタッフでもない。あくまで「来場者」自身である。その哲学を象徴するのが、「自由に遊んでもらう」というユニークな運営方針だ。
ブース内には説明員が常駐しておらず、来場者は誰に気兼ねすることなく、自由に製品を手に取り、試すことができる。
「自由に遊んでもらう」ことで、来場者は受け身ではなく、自ら能動的に体験し、ポジティブな記憶としてブランドを刻み込む。
自身で”勝手に”体験する来場者の方々
「体験」を深化させる多彩な仕掛け
魅力的な空間デザインは、あくまで来場者を惹きつけるための入り口に過ぎない。ウエルテックのブースが持続的な賑わいを見せるのは、来場者を飽きさせず、滞在時間を延ばし、ブランドへのエンゲージメントを深めるための多彩な「体験コンテンツ」が豊富に用意されているからだ。
・触れて試す「体験ゾーン」
ブースの中核をなすのが、来場者が自由に製品を試せる洗口体験ゾーン。洗口台の高さは「女性が使いやすいように」という配慮から高さ115cmに設計されている。
さらに、今回のデンタルショーからは、家族連れの増加を受けて子供用の台も追加。親子が同じ目線で歯磨きを体験できるようにした。
「子供も意外にコンクールFがいけました!」と笑顔で話す親子の声は、来場者の心に残る特別な体験そのものだ。
家族で”体験”できる子供向けの洗口台
・学びを持ち帰る「資料」
パンフレットも一味違う。ドライマウスや唾液など、臨床現場で役立つ専門知識を網羅した監修レベルの資料が配布される。学生向けにはマンガ形式の解説資料も用意されており、歯科衛生士の臨床知識を高めるための「コミュニケーション資料」として作り込まれているのだ。
「大手出版社にも協力をいただいて作っているので、プロの監修レベルです」
来場者は、明日からの臨床に役立つ価値ある情報を持ち帰ることができる。
資料を手に取る来場者の方々
・参加する「メッセージ企画」
「歯科衛生士で良かった」と思う瞬間は?
ブースの一角では、来場者がメッセージを残し、学生にエールを送る参加型の企画が用意されていた。ここで来場者は“お客様”ではなく“当事者”になる。企画の意図に共感して参加する来場者が多く集まっていた。
参加型企画:「歯科衛生士で良かった」と思う瞬間は?
・記憶に残す「フォトジェニック」な演出
鏡や装飾は、SNS映えのためではない。目的は「ここでしか味わえない記憶」を残すことだ。
「我々はSNS拡散とか…そういうことは狙っていないです。あくまで展示会の場で楽しんでいただくというところでコンセプトを考えているので」
実際、撮られた写真の多くはインスタの公開フィードではなく、友人同士のグループチャットで共有されるという。信頼性の高い口コミは、SNS拡散以上に強い波及力を持つ。
鏡で写真を撮る来場者の方々
ウエルテックが描く未来:次世代への投資と業界への貢献
・「お祭りだから」壁を設けない
ウエルテックのサンプル配布は、競合他社や学生にも分け隔てなく行われる。
「シンプルにお祭りだからです」
この言葉に表れるのは、短期的な利益ではなく、業界全体の盛り上がりを重視する姿勢だ。デンタルショーという「お祭り」を業界全体で盛り上げ、知識を共有しようというスタンスは、競合他社をコミュニティの仲間へと変え、業界内での深い信頼とリスペクトを醸成している。
学生、企業問わずお配りされているサンプル品
・学生は「未来の種」
ウエルテックは、未来の歯科業界を担う学生たちとの関係構築に、並々ならぬ情熱を注いでいる。歯科学生を「将来の歯科衛生士さんの種」と捉え、プロと同様に丁寧に接し、体験の機会を提供する。レポート作成の協力依頼にも快く応じるなど、そのサポートは手厚い。
デンタルショー当日はボランティアとしてブース運営に参加している歯科衛生士学校の学生も見受けられた。
学びを深めるセミナー
今回の日本デンタルショーでは、ブースでの体験に加えて、より実践的な学びにつながるように、ウエルテック社主催のセミナーも開催された。
「効果的なセルフケアへの挑戦!バイオフィルムの質と量のコントロールの実践」と題し、セミナー会場Aにて医療法人ジニア ぱんだ歯科の須崎 明 先生が登壇。須崎先生は、メンテナンスの考え方が「予防」から「コントロール」へと移行している現状を示し、特にセルフケアにおけるリスクコントロールを個別に行う重要性を強調された。PCR検査(オルコア)を用いて患者の細菌リスク(P.g.菌など)を把握し、その結果に基づき、パウダークリーニングなどのプロフェッショナルケアと、コンクールFやジェルコートFといったセルフケア製品を組み合わせる具体的な症例が紹介された。
患者のモチベーション維持や、ヘルスリテラシー(健康情報を理解し活用する力)を支援することが、歯科衛生士の大切な役割であることが強調され、示唆に富む内容となっていた。
満席の中ご講演される須崎先生(医療法人ジニア ぱんだ歯科)
忘れられない時間が、明日の診療を支える
ウエルテックのブースで体験できることは、単なる製品紹介にとどまらない。
そこには「楽しさ」、「学び」、「仲間とのつながり」という、歯科衛生士にとって大切な要素がそろっている。
展示会という特別な空間で、普段の診療では得られない発見や刺激を持ち帰る。
それは、日常の仕事やこれからのキャリアを前向きに支えてくれる大きな力となる。
ブースを訪れる時間そのものが、歯科衛生士としての自分をもう一歩成長させる体験。
それこそが、ウエルテックが提供している“忘れられない価値”なのだ。
私たちDentwaveも、今後も皆さまの臨床や学びの場を少しでも支えられるよう、役立つ情報や現場の声を発信していきたい。

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