正直、歯科医師が経営を学ぶ必要ってあるの? 理想の歯科医院に近づくためにやるべき3つのこと
私が経営学を学ぼうと思ったきっかけ
開業して5年目、経営について何もわかっていなかった私は「流れが来ている!」と、勢いで過剰な投資を行いました。
しかし、医院の規模を倍にしても、すぐに患者数が倍になるわけもなく、借金だけが増え、経営は一気に悪化しました。
更に4人いた歯科医師が一人、また一人と退職し、最終的には私一人になってしまいました。
その結果、予約が取れず、クレームが増え、院内の雰囲気も悪化。そして、ついに医院は赤字に転落、私の給料もゼロになりました。
友人達から「リストラ」の提案を受けましたが、それを実行する勇気もなく「自分はダメな院長だな…」と思い悩む毎日。
ついには銀行からのプレッシャーも強まってきます。
いよいよ追い詰められた私は、経営本を読み漁り、自己流で何とか底を抜けだしました。その過程で経営を体系的に学ぶ必要性を感じるようになりました。
ちょうどそんな頃、知人がMBAを卒業したというFacebook投稿を目にし、それがきっかけとなって一念発起。自分もMBAで学ぶことを決意しました。
経営学とはなにか
経営とは、ざっくりと言えば、医院がうまくいくように必要なことをあれこれ行っていくことです。では、上手くいくために必要なあれこれとは一体何でしょうか。
ここで、医院がうまくいっていないときを想像してください。そうすると、人の問題、物や仕組みの問題、お金の問題だと気付きませんか?歯科医院の運営をわかりやすく説明するために、経営では基本となる「ヒト・モノ・カネ」の3つに分けて考えます。
これらを上手く管理したり、バランスをとったりすることで、スタッフさん、患者さん、歯科医師にとっていい歯科医院が実現していきます。
ではこの「ヒト・モノ・カネ」について詳しく見ていきましょう。
1. ヒト(スタッフ)
「ヒト」は、歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士や歯科助手、受付スタッフなど、歯科医院で働いている人たちに関わることです。
歯科医院がうまくいくには、優れたスタッフが必要です。そのため、スタッフの「採用・育成・評価・退職」を管理することが重要です。また、スタッフ同士の関係やチームワークをうまく作り出せるかどうかも大事です。スタッフがやる気を持ち、楽しく働ける環境をつくることで、患者さんに良い治療を提供できるようになります。
2. モノ(道具や治療・仕組み)
「モノ」は、歯科医院で使う治療器具や機械、そして提供する治療そのものを指します。例えば、虫歯を治すための道具や、最新の技術を使った治療方法です。これらが新しく、正しく使えることで、患者さんは安心して治療を受けることができます。
また「モノ」には、医院を運営していくための仕組みを含む場合もあります。患者さんをスムーズに、効率的に診察できる仕組みやなども歯科医院、患者さん双方にとって大事です。
3. カネ(お金)
「カネ」は、歯科医院を運営するために必要なお金のことです。歯科医院では、新しい機械を買ったり、スタッフに給料を支払ったり、いろいろな費用がかかります。そのため、お金の管理をしっかり行う必要があります。無駄遣いをせずに、お金を上手に使いながら医院をいかに育てていけるか、院長の腕のみせどころです。
理想の歯科医院に近づくためにやるべき3つのこと
歯科医院をうまく運営するためには、「ヒト・モノ・カネ」の3つの要素がバランスよく管理されていることが大切です。ですが、何から取り組んだらいいかわからないという方もたくさんいらっしゃると思います。私もかつてはそうでした。
そこで、これから経営に取り組んでいこうという先生が、理想の医院に近づくためにまずやるべき3つのことを3つ挙げてみます。
1. 理想や目標をシンプルに考える
まずは、「自分の歯科医院をどうしたいか」を考えるところから始めましょう。例えば、「もっと患者さんがリラックスできる医院にしたい」とか、「スタッフが笑顔で働ける環境にしたい」など、漠然とした理想でOKです。それに向けて、小さな目標を立てると、次の一歩が見えやすくなります。
2. スタッフとの軽い会話を増やす
理想の医院に近づくために、スタッフさんに力を貸してもらうことは必要不可欠です。その第一歩として、スタッフとのコミュニケーションを少しずつ増やしていきましょう。特別なミーティングを設ける必要はありません。ちょっとした会話の中から、スタッフが抱える問題やアイデアが見つかるかもしれません。
3. 身近な改善からスタートする
最初は、手軽にできる改善から始めましょう。例えば、待合室の雑誌を新しいものに変える、スタッフルームにちょっとしたお菓子を置くなど、すぐに実行できて効果が感じられる小さなことです。これにより、医院全体の雰囲気が少しずつ良くなり、患者やスタッフがより居心地よく感じるようになるでしょう。大きな変化は必要ありません。何かが変わり始めることが何より重要です。
この3つは、気負わずに始められる小さなステップです。まずは無理なく、できる範囲で進めていくことが、理想の医院への第一歩になります。
私が経営を実際に学んでみた結果
一言で言うと日々の迷いが減りました。臨床もそうですが、知っていれば迷わなくて済むことはたくさんあります。経営も同じです。ちなみに私が経営を学んで大きく変化したと感じるのは以下のことです。
1. お金の使い方
私は経営がうまくいかなかったトラウマで、金額の大小にかかわらず、お金を使うことに躊躇がありました。しかし、経営を学んで、使ったお金がどれだけ利益を生むかを考えるようになり、金額が大きかったとしても利益を生むものには迷いなく投資できるようになりました。
2. 取り組みの計画性や管理が上手くなった
以前は、恥ずかしいぐらい計画も何もありませんでした。今では長期と短期でやるべきことを決めて、結果や途中経過は数字で管理するようになりました。また、結果が出るまで時間がかかることを理解して、変化を待てるようにもりました。
3. 医院全体を幅広く見られるようになった
以前なら、自費率を上げるためにひたすら患者さんへの説明を強化するだけといった感じでした。今ではそういうシンプルな因果関係だけでなく、従業員の意識や給与体系、医院文化など、さまざまな要素が影響していることを理解して、全体を見渡しながら多角的に目的を達成しようとするように考え方が変わりました。
おわりに
昔は、歯科医療の技術を磨けばそれだけで成功できる時代もあったようです。しかし今の時代、歯科医師・歯科衛生士の技術は当たり前で、歯科医院にはさらに多くのことが求められています。そのため、医院がうまくいくために経営を学ぶことの重要性が増しています。
経営を学ぶと聞くと、なんだか難しそうに感じるかもしれません。しかしこれからの時代、歯科医師が経営を学ぶ必要性はますます高まります。
あなたも経営を学んで変化に対応する力を身につけながら、未来に向けて一歩一歩前に進んでいきましょう。
次回はこちらのDentResearchの結果を元に、記事を執筆しますので是非ご覧ください。
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プロフィールこちら
新見 隆行(しんみ たかゆき)
医療法人幸成会 明治歯科診療所 所長 / MBA
<ご略歴>
1978年生まれ・埼玉県出身。 2003年に日本大学松戸歯学部卒業。
同年に群馬大学医学部付属病院に入職。 病棟管理・外来診療、学生・研修医教育に従事。口腔癌の治療に関わるなかでプライマリーケアの重要性を痛感。
2008年に明治歯科診療所を開設(群馬県北群馬郡吉岡町)、翌年、医療法人幸成会を設立。 「みんながしあわせになる診療所」の理念のもと、患者満足・従業員満足を追求し、地域医療のあるべき姿について模索を開始。そのなかで理想の実現を阻む多くの経営課題に直面し、2019年グロービス経営大学院に進学、2020年修了(MBA)。在学中の研究成果が書籍(共著)として出版される。
産休・育休の取得や子育て支援の充実で離職率の低い職場を実現するものの、少子高齢化・過疎化に直面。地域医療の未来を懸念し、2022年に筑波大学大学院社会工学類(地域創生教育コース)に進学、2024年修了。 現在、診療の傍ら、地域医療の在り方や医療の持続可能性創出についての研究、教育・講演活動を行う。
<ご執筆>
著書「ベストスタイル」ひまわり出版
「人的ネットワークの教科書」グロービス経営大学院著・田久保善彦監修・東洋経済出版(共著)
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