歯科医療の現場では、障害のある小児患者への対応が非常に重要です。身体障害、知的障害、発達障害など、その障害の種類は多岐にわたり、歯科治療においても個々の患者に対するサポート体制が必要です。
そして歯科医療従事者は単なる技術提供に留まらず、心理的・社会的側面にも配慮した対応が求められます。
本記事では、障害のある小児患者への基本的な対応姿勢と、歯科的特徴・治療上の留意点について概説します。
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障害のある小児患者への対応と口腔内特徴の理解
- 著:nishiyama /
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1.小児障害の種類と歯科的配慮の方向性
発達障害(自閉スペクトラム症・ADHD・学習障害など)
発達障害の子どもたちは、感覚過敏、強いこだわり、言語理解やコミュニケーションの困難さを伴う場合があり、診療室内での対応に工夫が必要です。
たとえば、自閉スペクトラム症(ASD)では、診療器具の音や光、匂いへの過敏反応が見られ、不安や混乱を誘発する場合があります。
診療の流れを事前に予告する視覚的なスケジュールの導入や、同じスタッフが一貫して対応する「固定化」が、患者にとって安心感をもたらします。
特にADHDの場合、集中力の持続が難しく、身体の多動や衝動性から処置中の動きに注意が必要です。処置時間を短く設定し、患者のペースに合わせて対応していきましょう。
1-1.知的障害
知的障害のある小児患者では、認知や言語能力の遅れにより、歯科処置の必要性や内容の理解が困難な場合があります。簡潔で具体的な言葉を選び、ジェスチャーや実物の提示を用いた説明が有効です。また、知的障害児ではブラッシングの習得が難しいことから、家庭での保護者指導と定期的なプロフェッショナルケアが重要となります。
1-2.身体障害・医療的ケア児
脳性麻痺や筋ジストロフィーなどの神経筋疾患を有する子どもでは、頭頸部の姿勢保持が困難なことや、誤嚥リスクへの配慮が求められます。座位保持装置や体幹サポートを用いた診療体制を構築することが安全確保に直結します。医療的ケア児では、経管栄養や気管切開の管理者との連携が必要であり、特別な配慮が不可欠です。
2.小児障害患者に多い口腔内の特徴
障害のある小児には、特有の口腔内環境が観察されます。
2-1. 口腔衛生状態の悪化傾向
不十分なセルフケア、味覚や食感に対する過敏性、歯ブラシへの拒否反応などにより、プラークコントロールが困難になることがあります。これにより、う蝕や歯肉炎の発生率が健常児に比べて高い傾向があります。定期的なクリーニングと保護者指導が不可欠です。
2-2. 歯列・咬合異常
開咬、反対咬合、交叉咬合、歯列不正、顎骨の成長異常がよくみられます。これらは、舌の突出、口唇閉鎖不全、哺乳・嚥下の異常パターンなどと関連し、構音障害や咀嚼障害の要因にもなります。小児期からの観察と、矯正歯科との早期連携が推奨されます。
2-3. 口腔習癖と嚥下障害
手指しゃぶり、咬爪、異食、口唇咬傷などの口腔習癖が見られる場合があり、歯牙の咬耗や歯列変形の原因となります。また、神経筋機能の低下により嚥下機能に問題を抱えることがあり、誤嚥性肺炎のリスクも考慮する必要があります。
3.歯科医療従事者に求められる対応姿勢
3-1.共感と柔軟性のある診療
障害のある小児患者は、一人ひとりが異なる特性を持っており、「障害別の対応マニュアル」だけでは十分ではありません。柔軟で臨機応変な診療、そして何より「この子にとって最善は何か」を常に考える姿勢が求められます。
3-2.チーム医療と家族支援
特別支援教育、リハビリテーション、福祉、医療の多職種連携は、障害児への包括的ケアを実現する上で不可欠です。歯科はその一翼を担う存在として、保護者と連携を深め、治療に対する信頼と協力体制を築くことが重要です。
4.障害のある子どもと親へのコミュニケーション
歯科医療従事者にとって、障害を有する小児患者との診療には、子ども本人のみならず保護者との信頼関係の構築が不可欠です。
特に発達障害や知的障害のある小児では、保護者が子どもの行動特性や反応パターンを最も理解しています。
したがって、診療前の面接においては、疾患歴や処置時の留意点に加えて、生活背景や子どもの得意・不得意について丁寧に聞き取ることが求められます。
また保護者が安心して治療を委ねられるよう、わかりやすく具体的な説明を行い、不安や疑問に真摯に対応する姿勢が信頼の土台となります。
共感と尊重を基本としたコミュニケーションは、診療への協力性を高めるだけでなく、長期的な口腔健康の維持にも寄与します。
まとめ
障害のある小児患者にとって、歯科医院は恐怖や不安の対象になりやすい場ですが、信頼できる歯科医療従事者の存在は安心感をもたらし、将来的な口腔健康行動の基礎になります。
全ての子どもに開かれた、安全で安心な歯科医療の提供を目指し、現場での実践を積み重ねていくことが、我々の責務です。
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