第5回 実験的歯科医院奮闘記(5) 保険治療が自費を生む

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 さてさて,これだけ患者が来ないと,さすがのんびり屋の私もあせってきた.歯科経営の本などを読めば開業して少なくとも半年,まあ1年は赤字経営であろう,そこまで持ちこたえられるような資金を用意すべきなんてことが書かれている.資金はともかく,3ヶ月もすると,さすがに経営者もなんのかんのと口出ししてくる.挙句は,スタッフを他に転出させようなんて話も出てくる.「冗談じゃない!この上スタッフを減少させられたら,軌道に乗っても,やっていけないじゃないか」と憤って抗議したが,何しろ実績がものを言う世界である.「患者さんが増えたら,考えましょう」の一言で終わってしまう.

 そんな時,開業の先輩諸氏がいろいろとアドバイスをしてくれた.その中で最も効果的だと考えられたのが,ともかく患者さんを増やす,そのためには保険診療を導入しなさいと言われた事であった.私は,ものすごいテナント料を請求してくる場所柄,到底保険治療では割に合わないであろうと考え,ほとんど全てを自費診療にしていた.何しろ,ホテルのロビーのような待合室を持つ診療所である.患者さんはエレベータを降りた瞬間,恐れをなして保険証をしまいこんでしまい,挙句は来たエレベータでそのまま帰ってしまう.やれやれ!

 何しろ患者さんがいないことには,保険も自費もないであろう.ともかく患者さんを集めなさい,その中から自費を承諾してくれる患者さんを選びなさい,という主旨らしい.確かにそうかもしれない.患者さんだって,初めての歯医者に最初から大金をはたいてもいいなんてことは滅多にない.やはり,信頼関係ができて,ここなら自費をやってもよいというようにならないといけない.つまり,患者さんは保険治療でその歯科医院と歯科医師を値踏みしているのである.ふ〜ん,なるほどね.

 それからは,いろいろな人に,保険診療をしていることを通知しまくった.そうすると,不思議なもので,というより当たり前のことかもしれないが,患者が徐々に増え始め,その中には修復処置には自費を選択する人が増えてきた.やはり,患者さんとの信頼関係が大切なんだと,今思えば当たり前のことを学んだ次第である.

 しかし,それでもそれほど収益は上がっていなかった.私達の人件費を払うことも出来なかったらしい(後で事務長が言っていた).女房に矯正治療を受けさせ,それを収益の一部としたぐらいである.ちなみに女房が受けた矯正治療,インビザラインとか言って,従来のような金属製の矯正器具が入らない.透明のマウスピースのようなもの(アライナー)を,日夜はめて歯を動かすらしい.矯正学会では邪道といわれているそうだが,なんのなんの,歯は十分動くし,装着しているのが他人からは分らないし,食事のときは外すこともできる.邪道といわれようとも,患者さんには極めて人気の高い矯正法であることは間違いない.

図1 アライナー一組

図2  金属の矯正装置よりずっとすっきり

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