第4回 メタボリックシンドロームの予防と対策-栄養学的見地から-

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 これまで、メタボリックシンドローム(Metabolic Syndrome:以下略してMetS)の病態と合併症につき述べてきたが、MetSでは積極的な予防と対策により多くの場合に”解消“に至るまでの効果が期待できる。その根幹となるのは、食習慣を含む栄養学的な問題の解決と、有効で適切な運動習慣の確立である。今回は、栄養と食習慣の面からの予防と対策について述べてみたい。言うまでもなく食習慣の中でも咀嚼等関連は歯科領域と密接な関連をもっており、歯科臨床現場における食育、指導の重要性が再認識されています。

食事の内容について:

 三大栄養素のバランスとしては、炭水化物:たんぱく質:脂肪=60%:25%:15%が基準とされているが、日本人は高炭水化物食物の摂取が多くなりがちなため、MetS患者では炭水化物:たんぱく質:脂肪=55%:30%:15%と、炭水化物を減じて、たんぱく質を意識的に多めにとることが必要である。脂肪はカロリー が高い(1gあたり9kcal)ので過剰な摂取は避ける。目標となるカロリー量は、1日の総摂取カロリーとして標準体重1kgあたり事務系で25〜30kcal、力仕事の方で 35kcalとされる。たとえば、事務系で運動量の少ない仕事の人で、標準体重が60kgであれば、1日の必要総カ ロリーは1500〜1800kcalで十分ということになる。現在日本人成人の男性の摂取量は、2200Kcal前後とされるので、一般的には20〜30%程度のカロリーダウンが必要である。

 炭水化物の過剰な摂取は高中性脂肪血症を招きやすく、日本人における内臓脂肪の蓄積の主な原因であるとされている。特に血糖値が食後速やかに上昇することはMetSの発生に大きく関連する。したがって、血糖値上昇が緩やかな食材、たとえば、白米よりも、玄米・雑穀米を選択するほうが効果的である。脂肪摂取においては、魚油や植物性脂質の割合を多くすることが効果的である。植物性油はリノール酸を含むので血中コレステロールを下げる事が期待出来る。イカ、タコ、エビ、貝類の摂取については、これらにコレステロールを下げるタウリンやエイコサペンタエン酸も含まれるので、過剰に神経質にならず適量は摂取しても差し支えない。食物繊維には、コレステロールの胆汁酸への異化や,コレステロールプールの減少、血清LDLの低下等によりコレステロール低下作用が促進する働きがある。一日当たり30g以上の食物繊維摂取が望ましい。食塩の過剰摂取は、血液の浸透圧の上昇、血管壁の水分吸収の増加、あるいは血管壁周辺組織からの水分の移行、循環血液量の増加、心拍数の増加、また血管壁の浮腫、副腎皮質ホルモンや昇圧物質の分泌増加による血管の収縮等が複合的に作用して、結果的に血圧が上昇する。生理学的には血圧上昇の予防に有効な食塩摂取量は、1日3〜5gとされている。日本人は食塩摂取量が比較的多量であるので、境界域高血圧患者で1日10g以下、高血圧患者の場合は1日7g以下にすることが望ましい。アルコールはエタノール換算で一日当たり約25グラム、日本酒なら180ml(1合)、ビールなら500ml(中びん 1本)、ウイスキーなら60ml(ダブル1杯)、ワインなら240ml(グラス2杯)までが望ましいとされる。いわゆる休肝日を設けるととともに、 “つまみ” には、海藻、野菜、適量の豆腐やチーズなど低カロリー、低脂肪、低炭水化物食品を選ぶ。

食習慣の見直し;

 摂取カロリーへの配慮とともに、食習慣の改善がMetS予防に効果的であることが示されている。一日三回の食事にはそれぞれの役割があると考えられる。朝食は1日の開始にあたってのエンジン始動としての意義、昼食は仕事量のピークへのエネルギー補給、そして夕食1一日の消耗した栄養(特に,たんぱく質ミネラル等)を補給する。肥満予防の観点からは,「朝・昼はしっかり,夜は軽く」を目標とする。朝食抜きの児童・学童は全体の約20%とされている。朝食をとらない理由として「時間がない」「食欲がない」などがあげられるとともに,夜更かし朝寝坊型のライフスタイル,塾通いなどで夜食のとりすぎなどが欠食の原因として考えられる。また,「脂肪は夜作られる」といわれるように、夜8時をすぎてからの食事は熱量が蓄積されることが多く、MetSの発生と増悪を招く。

 若年肥満者の多くが嗜好のみを重視した食事内容を好む傾向にあり,とくにインスタント食品,スナック食品の取り過ぎ傾向があるので,この習慣につき見直しが必要である。夕食や夜食の量が過剰で,その内容には炭水化物や脂質を多く含んでいることが多く,問食の回数と内容および夕食時間を午後8時前にするなどの見直しが必要である。間食としては,カルシウムとタンパク質を多くふくむ牛乳乳製品や,ビタミン・食物繊維が多い果物などを市販の菓子類と組み合わせるなどの工夫が考えられる。最近の“柔らかいもの”を好み、歯ごたえのある固い食品を避ける嗜好の変化も肥満者の増加と関連があるとされている。咀嚼回数が増加すれば、血糖値の急激な上昇が抑えられ、肥満の予防効果が認められるという。若年者では中高年者に比較して、咀曙の回数が少なく、咀曙力が低下傾向にあり、固い食材が苦手の原因となっている。野菜料理や小魚類など噛みごたえのあるものを多く取ることが望ましい。  ストレス社会や時間に追われる社会のもたらしたドカ食い、早食い、ストレス食いなどもMetSの背景として無視できない。

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