第3回 メタボリックシンドロームの合併症

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 これまで、メタボリックシンドロームは、それぞれのリスクファクターが複数で相互に関連して動脈硬化性疾患を生じることを述べてきた。それらの根本にある生理活性物質としては、動脈硬化の促進作用のあるTNF-α、血栓を作り易くするPAI-1、血管平滑筋の遊走・増殖をひき起すHB-EGFといった悪玉アディポサイトカインの増加である。一方、動脈硬化の抑制作用を示すレプチンやインシュリン作用を高めるアディポネクチンなどの善玉アディポサイトカインの相対的・絶対的な低下がみらることがメタボリックシンドロームの病態の特徴である。

 今回は、診断基準にある各因子がもたらす病態とそれらの合併症について解説する。年間推計にれば、日本人の3大死因と死亡数から見ると1位が「がん」、2位が心疾患、3位は脳血管疾患であり、メタボリの最終的なステージである動脈硬化性の合併症である血管障害の後者2つを合わせると死因の第1位となる。このことが、メタボッリクシンドロームが国民の健康維持にとり重要視されているゆえんであるといえる。

1;糖代謝異常がもたらすもの

 糖代謝異常は、メタボリの因子の中で最も病的意義が大きいと考えられている。厚生労働省統計(2002年)によれば、糖尿病が強く疑われるもの740万人、糖尿病予備軍と考えられるもの880万人、合計1620万人以上に達すると推計されている。内臓脂肪の増加と、インシュリン抵抗性の増加とは正比例相関関係にある。メタボリ患者は、放置すれば高血糖を生じ、インシュリン抵抗性の増大により、高い確率で「糖尿病」に移行し、その合併症に至る危険性がある。高血糖の持続により血管内皮細胞は損傷を受け、冠動脈や脳動脈の動脈硬化症を招き、狭心症。心筋梗塞、脳梗塞などの予後不良の疾患に至る。冠状動脈硬化症である狭心症や心筋梗塞では、糖尿病患者の症状が典型的でないことがあるので注意が必要である。「無痛性狭心症」「無症候性心筋虚血」などと呼ばれて、重症化するまで見逃される危険性も存在する。   その他、網膜症、腎症、神経症などの合併症が血糖管理不良の場合に相次いで発生する。最近の腎臓維持透析の新規導入や中途失明では、糖尿病の悪化が最大の原因である。また、糖代謝異常では免疫力が低下し、歯周病の原因菌を含む感染症を招きやすくなる。歯科疾患と糖尿病が密接な関連にあるのは御承知のとおりである。

2;脂質異常がもたらすもの

 内臓脂肪の殆どを構成する中性脂肪の増加は、約二十年前ごろは、動脈硬化症の発症因子としては重要視されなかった傾向にあった。しかしその後の研究の結果、高中性脂肪血症は、リポ蛋白の質的な異常、HDLコレステロールの低下作用、血液凝固能の異常などを招き、動脈硬化を促進することが明らかとなっている。特に、small dense LDLの増加や高レムナント血症は、強い動脈硬化促進作用を持つ。HDLコレステロールには血管から余分なコレステロールを取り除き、肝臓に戻し、動脈硬化を防ぐ役割があり、善玉コレステロールとも呼ばれる。HDLコレステロールの低下は、冠状動脈硬化症のもっとも明確な危険因子に位置づけられる。欧米の大規模臨床研究では、高脂血症治療により虚血性心疾患(冠動脈疾患)の初発予防(一次予防)や再発予防(二次予防)が可能なことが明らかにされてきいる。   今年4月から本格的に実施される「特定健診・特定保健指導」では、総コレステロールは検査必須項目にはない。また、従来の「高脂血症」という病名から「脂質異常」と名称が一般的になりつつある。従来の、総コレステロール値を動脈硬化指標として絶対的に捉える時代は終わったともいえよう。

3;血圧上昇がもたらすもの

 高血圧は動脈硬化の危険因子の一つで、サイレントキラーとも呼ばれるように症状がないまま脳、心臓、腎臓などの致命的な臓器の障害が進行する。わが国では、高血圧を基礎疾患とした脳血管障害が、依然として死亡原因疾患として上位にある。 高血圧の成因には、「モザイクセオリー」とよばれるように、遺伝子調節から生活環境にいたるまで多彩の因子が複雑に影響している。メタボリックシンドロームでは、サイトカイン分泌異常が、血圧調節のレニン・アンジジオテンシン系に影響して血圧上昇をもたらす。また、糖代謝異常、脂質異常、肥満も血圧を上昇させる因子である。   脳出血では、高い圧力(血圧)と脆弱な血管(動脈硬化)により、血管が破綻して脳内に出血する。高血圧や高脂血症、高血糖では血栓が形成されやすく、脳血管が閉塞する脳梗塞を発症する。さらに、高血圧では一般に強く血液を送り出すために心肥大となり(高血圧性心疾患)心臓ポンプ機能が衰える心不全や、動脈硬化から狭心症や心筋梗塞が発症しやすくなる。高血圧により細小動脈の硬化が進むと腎臓萎縮が起こり(腎硬化症)、腎臓機能が低下する。腎不全や尿毒症になる場合もあり、最終的には血液透析が必要になることもある。

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