▶新規会員登録

記事

2013/10/24

第29回 春の学会シーズン1―日本小児歯科学会-

皆さんは5月21日の金環日食は見られたのでしょうか。筆者は人生最後の機会と言われても、あまり気にしていませんでしたが、3歳の娘も、これが最後かと思うと、「見せたい」と思い、近所の公園に出かけました。眼鏡は当日買えるだろうとの甘い考えをもっていましたが。実際にはドンキホーテ・幾つものコンビニにもありませんでした。筆者の予想以上にこの現象は注目されていたのですね。自分の気持ちが盛り上がらなかったのはどうして? 理由は明瞭です。すでに予想される映像を何度も見せられているので、想像できるからです。娘はというと、隣に居られた方に日食眼鏡を貸して頂き、太陽が欠けてゆく現象を「見えたー」と喜んでいましたが、すぐに公園の滑り台に向かいました。金環日食も雲のおかげで、肉眼で見えましたが、娘もそれほど強い興味はないようでした。娘の興味が強く湧かない理由を考えると、この現象の意義とその機構がわからないからでしょう。私と娘の気持ちは研究に通じます。予測した結果が出ることは良いことなのですが、私は、予測した結果と異なる結果に、より興奮します。研究の目的の意義や意味が理解できる大学院生は、研究がどんどん進みます。

今春は、小児歯科学会,補綴歯科学会,再生医療学会、国際歯科研究会そして炎症再生医学会に参加します。このコラムは小児歯科学会にて発表する過剰歯のお話しです。

過剰歯は,歯胚が正常よりも数多く形成された場合に生じます。好発部位として、上顎正中部付近に多いことが知られています。すでに口腔内に萌出している過剰歯、永久歯の萌出を妨げる過剰歯、正中離開や永久歯の転移の原因となる過剰歯などは抜歯の適応となるようです。今までは、過剰歯があるとネガティブなイメージとして捉えられてきましたが、過剰歯内の歯髄組織に間葉系幹細胞が存在しているとなると少し話は変わるのではないでしょうか。過剰歯から再生医療に役立つ可能性の高い間葉系幹細胞が採取できることになれば、不要な過剰歯が有用な過剰歯に変わるからです。

我々は、その点に着目し、臨床教室との共同研究にて、倫理委員会の承認後、過剰歯の歯髄に間葉系幹細胞が存在することを明らかにする実験に取り組みました。

本学部の付属歯科病院にて、患者の同意を得た後に、抜歯された過剰歯から無菌的に歯髄組織を採取し、酵素処理にて単離した細胞を培養増殖させました。間葉系幹細胞の存在を確認する手法としては、幾つかあります。たとえば、細胞の表面抗原の観察、コロニー形成能の確認、多分化能の観察などとなりますが、まずはこれらの語句を説明しましょう。

表面抗原とは、表面マーカーとも呼ばれ、細胞の表面(細胞膜表面)に、発現するタンパク(抗原)のことで、その細胞独自のタンパク(抗原)が細胞表面に存在しているので、その表面抗原によって細胞を識別することができます。一般的に表面抗原の分類として、CD分類(CD番号)が用いられ、モノクローナル抗体が結合する抗原として識別しています。たとえば、歯髄や歯根膜に存在する間葉系幹細胞が発現している表面抗原タンパクとしてCD146があります。これ以外にも多数が報告されています。

コロニー形成能とは、組織から細胞を単離して、一つの細胞だけを培養皿に播種すると、そのひとつの細胞が、何度も分裂増殖して、一つの集団を作ります。これをコロニーと呼んでいます。以前、幹細胞の定義として、「幹細胞は自己複製能を持つ」ということをお話ししましたが、これが、自己複製能を持つことの一つの証拠となります。しかし、実際には、本当に同じ細胞が分裂しているかどうかは分かりませんので、複数の方法で幹細胞を同定することに成ります。

多分化能とは、一つの細胞から分裂して増えた細胞が、骨芽細胞、脂肪細胞や軟骨細胞など複数の異なる種類の細胞になることです。最近では、歯髄の間葉系幹細胞は神経の細胞にもなることが動物実験にて示されています。これは、違う機会にこのコラムで紹介したいと思います。

我々はこれらの一連の実験を通じて、過剰歯の歯髄組織から得られた細胞集団には、永久歯や乳歯歯髄から獲得した間葉系幹細胞と類似した特性を示す細胞が存在することを明らかにしました。しかし、この過剰歯から得られる間葉系幹細胞を生体に移植した時に、象牙質や骨を再生できる能力を持っているのか。どれぐらいまで、増やすことが可能なのか。移植した後に、がん化することはないのかなど、まだまだ再生医療の実現に向けての課題は多く残されています。

一方で、近年歯髄の間葉系細胞はiPSを作成する良い条件を持った細胞であることが明らかになりつつあります。歯髄の細胞からiPS細胞が容易にできるとなれば、歯科領域にとどまらず、他の組織や臓器再生に有用となる可能性が大いにあり、歯科医師としての仕事の領域が少し広がるのではないでしょうか。

来週は、横浜で再生医療学会が開かれます。年々、歯科の再生に関する演題も増えてきています。今年はどのようなトピックが出てくるのか楽しみにしています。

記事一覧
プロフィール 第48回 【第1回】再生医療産学官連携シンポジウムに参加して(2016/11/14)第47回 「すべての疲労は脳が原因 著者:梶本修身」を読んで(2016/11/02)第46回 リバスキュラリゼーションを再考する(2016/10/13)第45回 象牙質が痛みを感じるメカニズムについて(2016/08/03)第44回 イモリの再生 ―第二話 イモリの網膜再生―(2016/07/07)第43回 イモリの再生 ―第一話 肢の再生メカニズムについて―(2016/06/02)第42回 【後編】ヒトの頬脂肪体から脱分化脂肪細胞(DFAT)が入手可能に(2016/05/13)第42回 【前編】ヒトの頬脂肪体から脱分化脂肪細胞(DFAT)が入手可能に(2016/04/28)第41回 細胞再生医療研究会に参加して ― 糖尿病幹細胞 ―(2014/07/31)第40回 成都にてThe Second International Conference on Dental and Craniofacial Stem Cellsが開催(2014/04/25)第39回 平成24年度「国語に関する世論調査」(2014/04/01)第38回 第一回 再生医療資格認定セミナーに参加(2014/03/10)第37回 イギリス・ウェンブリーで開かれた国際学会に参加(2013/10/29)第36回:シアトルにてInternational Association for Dental Research (IADR)が開かれる(2013/10/24)第35回 コーヒーの効果と夏太りー日本経済新聞からー(2013/10/24)第34回 11th International Conference on Tooth Morphogenesis and Differentiation(TMD)に参加‐海外旅行の落とし穴‐(2013/10/24)第33回 3rd TERMIS World CongressがViennaにて開催(2013/10/24)第32回 イリノイ州立大学歯学部にて大学院講義―マラッセの上皮遺残の幹細胞―(2013/10/24)第31回 International Association for Dental Researchイグアスにて開催(2013/10/24)第30回 日本再生医療学会 横浜にて開催(2013/10/24)第29回 春の学会シーズン1―日本小児歯科学会-(2013/10/24)第28回 フォーサイス研究所にてセミナー「マラッセの上皮遺残細胞について」(2013/10/24)第27回 歯根膜組織由来および歯肉組織由来の間葉系幹細胞‐その2‐(2013/10/24)第26回 歯根膜組織由来および歯肉組織由来の間葉系幹細胞(2013/10/24)第25回 記事から引用:見捨てられる「歯科医」 特集:歯科医の「自然淘汰」を待つ厚労省"(2013/10/24)第24回 日本歯科基礎医学会 岐阜にて開催 (2013/10/24)第23回 歯科領域にもiPS研究が拡大。(2013/10/24)第22回 コラムを再び開始します。(2013/10/24)第21回 歯の上皮細胞の話 (2013/10/24)第20回 「培養皮膚」の完成(2013/10/24)第19回 「細胞培養」の話(2013/10/24)第18回 歯の再生 下顎骨内に歯胚才簿を移植すると?‐2‐(2013/10/24)第17回 歯の再生 下顎骨内に歯胚才簿を移植すると?(2013/10/24)第16回 歯の再生 胎生期歯胚細胞と担体を組み合わせた歯の再生研究2(2013/10/24)第15回 歯の再生‐胎生期歯胚細胞を担体を組み合わせた歯の再生研究‐(2013/10/24)第14回 歯の再生‐マウス歯胚組織と細胞を組み合わせた歯の再生‐その2‐(2013/10/24)第13回 マウス歯胚組織と細胞を組み合わせた歯の再生‐その1‐(2013/10/24)第12回 組織工学的手法による歯の再生 マウスの胎生期歯胚細胞を用いた歯の再生研究‐1‐(2013/10/24)第11回 組織工学的手法による歯の再生 -細胞の足場となる担体の話 第2話-(2013/10/24)第10回 組織工学的手法による歯の再生 -細胞の足場となる担体の話-(2013/10/24)第9回 組織工学的手法による歯の再生 -機械的刺激が歯胚細胞の分化を促進する-(2013/10/24)第8回 組織工学的手法による歯の再生-その4-(2013/10/24)第7回 組織工学的手法による歯の再生-その3-(2013/10/24)第6回 組織工学的手法による歯の再生-その2-(2013/10/24)第5回 組織工学的手法による歯の再生-その1-(2013/10/24)第4回 再生医学:歯の再生-1(2013/10/24)第3回 細胞の種といわれる幹細胞(2013/10/24)第2回 ティッシュエンジニアリングとは(2013/10/24)第1回 再生医学とは(2013/10/24)

新着ピックアップ


サンデンタル テクニカルセミナー 2019

「3X-Power System」を新開発!26Wへパワーアップを実現!

第112回歯科医師国家試験の総評と今後の展望

難易度高過ぎ!?現役歯科医師らが歯科医師国家試験に物申す

医療広告ガイドライン対策