第18回 歯の再生 下顎骨内に歯胚才簿を移植すると?‐2‐

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 前回は細胞と担体の複合体を移植するところまで紹介した。今回は、その後の結果を紹介します(1)。大きな興味は移植した細胞は歯を作り、その歯は萌出するのでしょうか?

図1 画像クリックで拡大表示 移植19週後に撮影した歯科用レントゲン写真。小さな石灰化物が観察される。

PGAと歯胚細胞の複合体からの再生組織の評価は移植後、経時的に歯科用レントゲン写真にて観察している。移植後19週において石灰化物が観察された(図1)。そこで、この石灰化物をさらに評価するために、下顎骨を区域切除し、日立メディコ社の協力によりマイクロCTにて観察した。残念ながら移植24週後にサンプルを取り出したときの複合体移植部位の骨は治癒しており、移植体は皮質骨で覆われていた(図2)。つまり、歯は萌出しなかった。

図2 画像クリックで拡大表示 移植24週後のマイクロCT像。母骨皮質骨直下に再生した組織が観察できる (文献1から抜粋)。

マイクロCTの写真から下顎骨内部に、不透過性の強い硬組織が認められ、この組織は周囲の皮質骨とは連続していなかった(図2)。このことから、この硬組織は新しく再生された組織であることが示唆された。一方で、再生した組織の形態は円形で一つの塊を呈し、残念ではあるが歯牙様の形態は示していない(1)。

図3 画像クリックで拡大表示 マイクロCTで再生組織が確認されたサンプルのH-E染色像。再生した象牙質内に象牙細管が観察できる (文献1から抜粋)。

では、どんな組織ができているのでしょうか。サンプルを脱灰し、ヘマトキシリンーエオシン染色にて観察した。再生した組織は骨組織、結合組織そして象牙質が混在したものであった (図3)。骨と象牙質は容易に識別できる。象牙質は硬組織内に細胞を含まず、象牙細管構造がある。一方で骨細胞を含む骨は層板構造を示す。

しかし、エナメル質、歯髄および歯根は観察されなかった。これらの結果をまとめると、腹部大網と比較して、血行が良くない顎骨内においても、移植した細胞は生着し、象牙質は再生するが、エナメル質や歯髄は再生できないことがわかった。この実験結果は大網に移植した実験結果とは大いに異なる。大網中では、エナメル質や歯根は再生したからである。さらに悪い点は再生した組織の形態である。大網に移植した時は歯牙様の形態を示すこともあったが、下顎骨内では単に歯を構成する組織のみが再生された。この理由として、取り出した歯胚の時期が今回の実験の方が遅いこと、大網と顎骨中の環境の違いなどが考えられる。

完全な歯の再生の成功とは顎骨内で歯が再生し咀嚼機能を回復することと考えている。それを考えると今回の実験の結果は残念なものとなってしまった。しかし、移植した細胞が顎骨内にて分化し、象牙質を形成したという結果は今後の発展に繋がるものと考えている。今後、現在の手法を改善し、大網と同じ実験結果を生み出したい。しかし、移植した細胞からできた歯が萌出できるかどうかは、大きな課題と思われる。

参考文献

(1) Honda MJ, Ohara T, Sumita Y, Ogaeri T, Kagami H, Ueda M. Preliminary study of tissue-engineered odontogenesis in the canine jaw. J Oral Maxillofac Surg 2006;64(2):283-289.

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