第13回 マウス歯胚組織と細胞を組み合わせた歯の再生‐その1‐

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 ほとんどの器官や臓器は上皮系と間葉系という2つの異なる細胞群において信号のやり取りがあります。歯も発生の初期では、口腔上皮細胞から、将来、歯牙と顎骨になる間葉系細胞に向けて最初の誘導信号が送られ、上皮細胞から信号を受けた間葉系細胞は、上皮細胞に向けて信号を送り返します。この信号はタンパク質などの分子で、このような一連の相互作用は歯が完成するまで続けられます。

 英国のキングスカレッジ大学のポール・シャープ教授は歯の形と部位との関係を分子生物学的に研究し、歯の再生についても興味深い研究論文を発表していますので、紹介します。

図1. 初期の歯胚組織から誘導因子が間葉組織に送られて歯が発生する。一方で、その誘導因子の違いによって、切歯、犬歯および臼歯の形の違いができる。臼歯ではBarx1とDlx2遺伝子が発現している(Eur J Oral Sci 106 [suppl 1]:48, 1998)。

 われわれ哺乳類は前歯と奥歯で形が違うことはご存知と思いますが、この違いは、発生が始まる前の生えてくる場所によって、すでに決められています。歯の発生を誘導する最初の信号と同様に、上皮組織から別の信号によって、この歯の形が決められ、この信号によって、顎骨内の間葉系細胞の重要な遺伝子群の発現が制御されています(図1)。

 この遺伝子群は「ホメオボックス」と呼ばれ、身体全体から手足のような付属器、組織および臓器の形と位置の決定に関与しています。顎骨の発生においても、部位ごとに異なる組み合わせのホメオボックス遺伝子が発現し、顎骨内にできる歯堤を臼歯、犬歯および切歯にそれぞれ誘導します。例えば臼歯ができる部位の間葉系細胞ではBarx1と呼ばれるホメオボックス遺伝子が発現しています(文献1、図1)。動物を使った実験で、通常、切歯が生えてくる場所の間葉組織にBarx1を人工的に発現させると臼歯ができることから、将来、歯の再生医療が進化したときに、適切な歯の形になる再生歯が作れるようになるかもしれないとシャープ教授は話しています(文献2)。

 シャープ教授らは胎生期の歯の発生の自然な過程を再現させる歯の再生方法を発見しました。その方法の基となる研究結果は1980年頃に発表されています。これらの研究テーマは上皮細胞と間葉細胞ではどちらの細胞が歯の発生を誘導しているかということです。初期の歯の発生では、胎生期の口腔上皮組織が歯の発生を誘導し、帽状期歯胚ではその誘導能が間葉組織に移っていることが報告されました。シャープ教授はこの歯の初期発生時の歯胚上皮組織に着目し、歯の再生方法を考えました。初期の歯胚上皮組織があれば、間葉系細胞は歯牙形成細胞でなくても歯が再生するかもしれないということです。次回、この研究の詳細を紹介します。

参考文献

(1) McCollum MA, Sharpe PT, Developmental genetics and early hominid craniodental evolution. Bioessays 2001 Jun;23(6):481-93. (2) 日経サイエンス2005年11月号「現実味を帯びる歯の再生」

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