第4回 実験的歯科医院奮闘記(4) 惨めなスタート

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 クリニック自体は1月からスタートしたが,私自身は4月から赴任したので,そこからの顛末記を話していこうと思う.

 毎日は朝礼から始まる.各科からその日の患者の予定,伝達事項などが報告される.まあ,10分ほどで終わるのだが,その後で病院グループの院訓を皆で唱和させられる.院訓とは,医療人として何をすべきか,どういう姿勢でいるべきかなどが盛り込まれた教えである.これを全員で唱和するのだが,正直ってこの手のものはあまり得意ではない.何故か,「指圧の心は母心,押せば命の泉沸く」なんてのが頭に浮かんできて,どうも具合が悪いのである.

 幸い,この朝礼は,院長の考えで毎日が週1回(月曜日)になり,3ヶ月もしないうちに廃止となった.ただ,朝礼自体はスタッフ間の意思の疎通を図るためにも重要である.そのため,歯科のスタッフだけで細々と続けていた.

 「キレイ」がキーワードを提唱している歯科としては,ホスピタリティを重んじなければということで,皆で「リッツ・カールトンが大切にする サービスを越える瞬間」(高野 登著)(図1)というのを1章ずつ輪読して,スタッフ間で共通の認識を得るようにした.ちょうど2〜3ページで各章がまとめられているので,それほど時間も取らず,教材としては実に適切である.こういった輪読は,共通認識を高めるのと同時に,各人の性格,態度などが分かり,スタッフを把握するのにも有効であった.

 さて,とくに広告することもなく,クリニックのチラシも,さらにはホームページも作らずにスタートした.前月のギリギリまで前の勤務先にいたので,私も全く準備が出来ていない.料金表もなければ,技工をどこに出すかも正式には決定していない.さらに言うならば,私の白衣もない.もちろん病院には希望は伝えてあるのだが,全くのなしのつぶてである.仕方なく前の勤務先で着ていた,廃棄になるものを洗濯して着ていた.大体が,私の夢を乗せたピカピカのケアルームすら全く出来上がっていない.

 まあ,何から何まで,揃っていない状態でスタートしたわけである.これでは当然のことながら患者が来るわけがない.安田先生が移ったらしいよという風の頼りに聞いたなじみの患者さんが,チラホラと来ただけであった.従って,4月の患者数は限りなくゼロに近い数字であった(図2).

 こう言ってはなんだが,お陰でいろいろと準備をすることができ,私には都合がよかった.居抜きの状態で引き継いだから,前の器材をそのまま使わなければならないが,それも全てが順調とはいかず,整備にも時間が必要だったからである.

 ただ,経営者にとってはたまったものではなかったろう.患者が来ようが,来なかろうが,家賃は容赦もなくかかってくる.東京のど真ん中であるから,半端じゃないことはいうまでもない.5月になっても患者は殆ど来ない.まさに惨憺たるスタートとなった.

図1リッツカールトン

図2 がらんとした待合室

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