第1回 実験的歯科医院奮闘記(1) 還暦過ぎの華麗な転職!?

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 大学での教員生活に終止符を打ったのは42歳のときだった。それから20年、後輩の薦めもあって勤務した生命保険会社も嘱託の身となって、誰が見てもかなり自由時間の多い暇な生活を送っていた。診療は最大でも午前3人、午後4人と、開業していらっしゃる先生方からは怒られそうなペースで行っていた。

 長年行ってきた研究や学会活動にも、そろそろ別れを告げ、女房から濡れ落ち葉と揶揄されない前に、そば打ちでも覚えるか、はたまた昔かじったバンド活動でも再開するかと模索していた矢先だった。

 突然、唐突とも思える電話を東京医科歯科大学歯学部のT教授から頂いた。「丸の内オアゾで今度立ち上げるクリニックの歯科を担当してみないか?」とのお誘いである。再開発が進み、いまや花の丸の内ともいえる魅惑的な場所であるし、そろそろ現状に幾分飽きが来ていた時期でもあったので、私のやり方を容認して下さるのなら引き受けましょうなんて、今思えば何とも単純な、なんとも算段もない決断をしてしまった。

 以前より、歯科の将来に関しては同輩諸兄と同じように憂慮を抱いていた。う蝕をはじめとした主要歯科疾患の減少、歯科医師の増加に伴う歯科医院の経営悪化は、サラリーマンより給料の低い歯科医師ワーキングプアなる言葉を現実のものとしている。さてさて、何をどうしたら歯科医師としての尊厳と生活を保ちながら、国民の口腔保健を向上させることができるのであろうか? 歯科医師の代表である団体は相変わらず職域代表としての国会議員を誕生させ、昔の栄光を取り戻そうと計る。まあそれも一つの考えであろうが、私は、国会議員は国の損益を考えて行動するものであって、ただ単に推薦団体の利益を考えることがあってはならない、と思う。

 ともかく私たちは、私たちでできるところから始めるべきだと考えている。私の長年の持論で、講演では常に話をさせていただいていることだが、歯科医院に訪れることのない健康な人を歯科医院に呼びこまない限り、歯科に明日はないと考えている。ところが、このような持論を展開しても、残念ながら机上の空論にしか過ぎない部分が多かった。それは私が長年歩いてきた人生、つまり大学病院や大手生命保険会社の診療所が、あまり経営には縁のない場所であったからである。

 そこで自分の歯科クリニックで、自分の考えを確かめてみたいという野望もあった。完全に自分が経営するわけではないが、今度の丸の内オアゾの話は自分の考えを実証するにはまたとない機会でもあった。そんな訳で、果たして華麗なる転職となるかどうかは今後を見てみないと分からないが、私の実験的歯科医院奮闘記を、同時進行に近い形で報告させて頂こうと考えている。

図1 長年勤務させて頂いた大手生命保険会社.2階に診療室があった

図2 予防管理を中心に診療していた

図3 私の片腕となって支えてくださった歯科衛生士さん

 

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