第3回 米国卒後研修プログラム

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今回は米国における歯学部卒業後の進路と卒後研修プログラムについて書かせていただきます。

米国歯学部卒業後の進路

歯学部卒業後の進路に関しては、日本のように義務付けられた卒業直後必須の臨床研修医制度はなく、通常の多くの学生は大学や病院での一般歯科医研修もしくは専門医プログラムへ進むか、直接一般開業医院への勤務となります。その後は下記の選択肢がありますが、大半は日本のように個人開業医となります。

・個人開業医(勤務を含む)・大学にて教育や研究をしながら臨床をする ・公衆衛生といって特殊な地域医療(Indian Reservation, Coast Guard base, or Federal Prison)を中心に診療をする ・非常にまれですが、専任研究者になる・World Health Organization (WHO), the United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization (UNESCO), and the Food and Agricultural Organization of the United Nations (FAO)といった国際医療機関で働く ・病院歯科で全身疾患や特殊医療な患者さんを中心に診療する

http://www.ada.org/sections/educationAndCareers/pdfs/careers.pdf

一般歯科医研修(1〜2年)や専門医を始めとする卒後教育研修プログラムを希望している学生は、遅くても3年終了頃(6月)には進路を決めている必要があります。その理由はプログラムの出願締切日が4年生の始め頃の8月〜11月に設定されており、その時期までに全ての提出書類をそろえなくてはならないからです。私の卒業したペンシルベニア大学では、毎年約50〜60%の学生が卒業直後それらのプログラムに進んでいます。私のクラス(124人)を例に挙げると口腔外科10人、矯正14人、小児5人、一般歯科23人、歯内・歯周病・補綴が11人という割合になっています。また一般歯科医研修を終了もしくは卒後数年開業医に勤務してから、専門医プログラムへ進む場合も多々あります。卒後教育研修プログラムは歯学部入学と同じように学校や国家試験の成績など様々な要素(特に学生時代の成績が重要)を元に完全競争原理で学生を選択しているため、日本のように自分の卒業大学の卒後研修プログラムに行く学生は少数に限られています。

米国での卒後研修と専門医

米国では一般歯科医とは別に、アメリカ歯科協会(American Dental Association, ADA)が、歯内、歯周、補綴、矯正、小児、口腔外科、口腔病理、放射線、公衆衛生の9つの専門医を認定しています。これらの専門医になるには歯学部卒業後、専門医プログラムにてそれぞれの決められた期間(歯内2〜3年、歯周3年、補綴3年、矯正2〜3年、小児2年、口腔外科4〜6年)の臨床研修を終了しなくてはなりません。それらの専門医プログラムは大学や病院に設置されているので、個人開業医院での研修施設はありません。プログラム修了後、専門医(それぞれの認定医試験に受かると認定医)として標榜し、開業もしくは勤務することが出来、その専門領域に限った診療が可能になります。現在米国では約16万人の歯科医が働いていますが、そのうち20%が専門医で80%が一般歯科医という割合になっています。また多くではありませんが、ADAが認定している9つの専門医以外にも日本にはないOral Medicine(口腔粘膜疾患、各種症候群、感染症患者の歯科診療を主に担当)、高齢者歯科、口腔顔面疼痛・顎関節症などの特殊専門プログラムならびに診療医師も存在します。

米国卒後研修プログラム(専門医を含む)について

図1 【図1】※クリックで拡大

米国での専門医を含む卒後研修プログラム数は、大学での346と病院での377とを合わせて全部で723プログラム(2008-09年)が存在します(図1)。それらの主なプログラム別数は、歯内 53、歯周 54、補綴 45、矯正 63、小児 74、口腔外科 100、口腔病理 15、放射線 5、公衆衛生 10、一般歯科 280、歯科麻酔 4、Oral Medicine 2 となっています。

米国の卒後研修医数は、歯学部学生数と同様年々増加傾向をしています。入学者数は2,601人(1999年)から3,009人(2008年)へと16%(図2&3)、卒業者数は2,504人(1999年)から2,899人(2009年)へと16%(図2&3)増加しています。主な卒後研修プログラムの卒業者数(2009年)は歯内 204人、歯周 162人、補綴 128人、矯正 342人、小児 314人、口腔外科 196人、口腔病理 6人、放射線 9人、公衆衛生 13人、一般歯科 1,506人 となっています。

図2 【図2】※クリックで拡大

図3 【図3】※クリックで拡大

図4 【図4】※クリックで拡大

近年過去4年間の主な各専門医プログラムの応募者数と入学者数の傾向は、入学者数にはどのプログラムもほとんどもしくは僅かな増加しか見られないものの、応募者数に関しては米国の歯科事情を反映した急激な増加や減少が見られるプログラムがあります。歯内は応募4,935人(入学200人)(2004年)から3,776人(202人)(2008年)へと23%もの減少が見られます(図4)。

図5 【図5】※クリックで拡大

この背景には、インプラント治療の増加による将来の根管治療の需要減少を懸念したプログラム希望者の減少ではないかと考えられます。逆にインプラント治療の増加により、後述する歯周、補綴、口腔外科などはプログラム希望者の増加が見られます。歯周は1,346人(175人)(2004年)から1,654人(180人)(2008年)へと23%もの増加傾向が見られます(図5)。

図6 【図6】※クリックで拡大

補綴は938人(145人)(2004年)から1,290人(159人)(2008年)へと38%もの増加傾向が見られます(図6)。これには米国高齢者人口の増加による補綴治療の需要増加を反映した応募者の増加も考えられます。口腔外科は7,021人(210人)(2004年)から8,214人(228人)(2008年)(図7)は17%の増加傾向が見られます。矯正は9,341人(330人)(2004年)から10,028人(341人)(2008年)と若干7%の増加が見られます(図8)。

図7 【図7】※クリックで拡大

図8 【図8】※クリックで拡大

図9 【図9】※クリックで拡大

小児歯科は4,923人(292人)(2004年)から7,716人(349人)(2008年)と57%もの急激な増加が見られます(図9)。これは小児人口の増加による将来の小児歯科治療の需要増加を考慮した応募者の増加が考えられます。このように、各専門医プログラムの応募者数と歯科事情との背景には緊密な関連性が見られることから、自分が進む専門医プログラム応募の際に、現在と将来の歯科事情を十分に考慮したプログラム選択がなされていることが推察されます。

図10 【図10】※クリックで拡大

各プログラムごとの平均授業料は$2,694〜$29,343/年(2008-09年)、平均給付金は$12,150〜$51,356/年(2008-09年)とプログラムによってかなり様々です(図10)。当然のことながら、これらの経済的要素も卒後研修プログラム選択の際には重要な要因になってきます。

次回はハーバード大学での補綴歯科専門医教育について書かせていただく予定です。

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