第1回 米国歯学部とその教育システム

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はじめに

私は日米両国の歯学部ならびに大学院を卒業し、歯科医師免許と専門医を取得後、現在米国にて大学教員として、教育・臨床・研究に従事しています。これらの経緯より、今回“米国の歯科事情からみた日本の歯科界活性化のための提言”というタイトルで、コラムを書かせていただくことになりました。米国の歯学部教育、卒後教育・専門医育成、歯科医療の実情、生命科学研究についてそれぞれ大まかに紹介後、私自身が考える今後の日本歯科界への提案などを書く予定としています。この私のコラムが米国歯科事情について興味のある方や今後の日本歯科界活性化のために少しでもお役に立てれば幸いです。第1回の今回は米国歯学部とその教育システムについて書かせていただきます。

米国歯学部の位置づけ

米国での医学部、歯学部、法学部などの職業と直結する学部はプロフェッショナル・スクールと呼ばれ大学院に位置づけられていて、通常4年制のカレッジで必須科目・単位を習得し卒業してから歯学部に入学します。歯学部のほとんどは4年制で(パシフィック大学のみ3年制)、大まかには1・2年生で基礎一般、臨床課目の約半分ならびに模型・マネキン実習を終了後、3・4年生で残りの臨床課目の後半とクリニックで実際に患者さんの臨床治療というカリキュラムになっています。そして必須単位を取得すると卒業でき、DDS (Doctor of Dental Surgery) もしくはDMD (Doctor of Dental Medicine)という学位と歯科医師免許試験の受験資格が得られます。大学によって発行する学位が違うだけで、DDSもDMDも同等です。

米国歯学部について

現在、アメリカ歯科協会(American Dental Association)が認定している歯学部は58校(私立17校、州立37校、州から援助を受けている私立4校)ありますが(図1)、これらは全て総合大学に属した歯学部で、日本のような単科大学としての歯科大学は存在しません。 米国の歯科学生数は、現在の日本とは対照的に年々増加傾向をしています。入学生数は4,314人(1999年)から4,918人(2008年)へと14%、卒業生数は4,095人(1999年)から4,796人(2008年)へと17%(図2)も増加しています。主な大学の卒業生数はペンシルベニア大学 141人、ハーバード大学 40人、ニューヨーク大学 348人、コロンビア大学 76人、タフツ大学 168人、ボストン大学 183人、UCLA 95人、ワシントン大学 52人、ミシガン大学 110人と学校によって様々です。

図1 【図1】米国歯学部分類(2008〜09年)2008-09 ADA Survey of Dental Education -Volume 1より引用(クリックで拡大表示)

図2 【図2】米国歯学部卒業者数(1999〜2008年)2008-09 ADA Survey of Dental Education -Volume 1より引用(クリックで拡大表示)

授業料は、$6,430〜$72,896/年(2008-09年)と大学によってかなりの違いがあり、私立大学平均 $46,384(1$=90円換算420万円)、州立大学平均 $20,957(190万円)となっています。主な私立大学ではペンシルベニア大学 $55,990(500万円)、ハーバード大学 $40,393 (360万円)、ニューヨーク大学 $51,430(460万円)、南カリフォルニア大学 $66,991 (600万円)、パシフィック大学 $72,896(660万円)、州立大学ではジョージア医科大学 $6,430 (60万円)、ワシントン大学 $19,122(170万円)、UCLA $26,911 (240万円)、ミシガン大学$27,883(250万円)となっています。最も驚くのは、毎年の授業料増加です。1999-2000年度の私立大学平均$28,172(250万円)、州立大学平均$9,377(80万円)と比べると、たった9年間で私立大学 65%(年平均6%)、州立大学 123%(年平均9%)もの増加を示しています(図3)。歯学生はこのような高額な授業料を負担しなくてはならないため、約91%以上の卒業生は平均 $141,521(1,270万円)の借金をしていると言われています。

http://www.ada.org/267.aspx http://www.ada.org/1621.aspx#eduseries

図3 【図3】米国歯学部平均年間授業料(1999〜2008年)2008-09 ADA Survey of Dental Education - Volume 2より引用(クリックで拡大表示)

外国歯学部卒業者のための特別編入プログラム

約2/3の米国歯学部では、外国歯学部卒業者のために3年生(ニューヨーク大学では2年生)に編入し、通常の学生と一緒に2年間(もしくは3年間)で卒業できるという特別プログラム(ペンシルべニア大学ではProgram for Advanced Standing Students, PASSと呼んでいます)を設けています。それらのほとんどは基礎教科のみの国家試験(National Board Dental Examinations Part I)という試験の点数、留学生必須の英語の試験であるTOEFLの点数、自国の大学歯学部の成績、エッセイ、推薦状、面接等を総合して学生を選択しています。私のクラスはPASSが27人(19カ国)、通常の1年生から入学している97人の計124人のクラスでした。PASSには8月より通常の3年生のクラスに編入する前の4月からの3ヶ月間、サマープログラムという臨床科目を中心としたクリニックに入る前の準備クラス(講義・実習)があります。マネキン実習ではアマルガム(形成・充填)、コンポジットレジン(形成・充填)、インレー・クラウン・ブリッジ(形成・テンポラリー作製・印象・ワックスアップ)、部分床義歯の設計、総義歯人工歯配列、根管形成・充填、矯正用模型の解析・診断、ワイヤー曲げなど、これらのステップで毎週のように実習試験がありました。上記の全てが終了すると、8月からのクリニックでの臨床実習に入ります。

このプログラムの背景には、まず現在では米国全州で北米(カナダを含む)の歯学部卒業資格を免許取得試験の受験資格にしているため大学側もそれに対応するために外国人のためのプログラムを用意するようになった。次に、外国人でアメリカに来て免許を取得しようとする人たちはある程度のお金を持っている。また、編入プログラムに合格してくる学生は優秀で通常の4年制プログラムの学生に良い刺激と競争を与えるといった利点も関係していると思われます。

臨床実習

ペンシルベニア大学 【図4】ペンシルベニア大学歯学部(The Thomas W. Evans Museum and Dental Institute)

ペンシルべニア大学では、3年生の学期が始まると毎朝8〜10時が臨床講義で、その後クリニックで10〜13時、14〜17時の2セッションの臨床実習が始まります(図4)。4年生になると朝の講義がなくなるので、朝7時30分〜10時のセッション加えた3セッションとなります。日本の歯科教育との最も大きな違いは、教官の術前・中・後の過程でチェックは受けるものの、基本的に学生自身で診断・治療計画を含む最初から最後まで独立して進めていくことです。これらは保存、補綴、歯周、歯内、小児、口外(抜歯のみ)など全ての科において(矯正のみ見学)行われます。もちろん皆が常に順調に治療が進めていけるわけはありませんので、途中、最後には教官の補助、修正が入ることは多々あります。つまり学生は卒業までに自立して診療できるようにならなければ、卒業も免許の取得も出来ないということが前提で臨床教育が行われています。日本で私が卒業した大学では、主に見学、助手、技工中心的な臨床実習(本来歯科医が担当する仕事以外)でしたので、この点には非常に驚きでした。

次回は、さらに詳しくペンシルべニア大学を中心に日本とは異なる歯学部教育内容と歯科医師免許について書かせていただく予定です。

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