第1回 歯科技工14年、つれづれに思うこと。

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はじめに

 私が歯科技工所「J JAW CRAFT」を開業してから、この10月で14年目を迎えた。歯科技工士にとって「良い時代」だった頃の話を先輩方より聞いていたこともあり、開業当初は予想以上の厳しさに戸惑ったこともあった。そんな頃を経て、個人だからこその経営スタイルや技術を模索しながら経営を続けている。

ウォルセラムについて

 「技術者として開業している以上、新しいことで成功したい」という思いがあった頃に、今取り組んでいるマシーンツール中央のWOL-CERAM(ウォルセラム)と出合った。これは、単冠レベルでは一番適合の良いオールセラミックスであると考えている。インプラント需要の増加により“単冠レベル”という考え方が出てきたが、これは「ものを噛む」という視点からは正しいと思う。もちろん全ての患者にインプラント治療ができるわけではなくブリッジや義歯の需要もなくならないが、技工物が大きくなるとどうしても不具合が出やすくなり、まずは単冠が上手くできることが重要である。   ブリッジでは、支台歯の問題もあるが材質自体に不具合が出ることもままある。それならば強度の高いジルコニアでもいいのではないかと考え、臨床応用を進めている。この点で考えが一致するメーカーもあり、いい協力関係が築けている。 私が注目しているのは、パナソニックデンタルの「ナノジルコニア」という製品で、これは他のジルコニアとは質が違う硬さを誇る(他のジルコニアには30%の収縮率を見込む必要があるが、この製品の収縮率は5〜7%程である)。日本製で信頼度も高いので、今後は使用してみたいと思っている。 こうした良い製品を多くの人に知ってもらえればと思い、WOL-CERAMの技術・機械の普及に向けた活動にも取り組んでいる。企業というのはどうしても、「良い物」かどうかという観点ではなく「うちのメーカーが扱っているから」という観点で、使う商品や薦める商品を決めざるを得ない面がある。私の場合、大手メーカーに属さず活動しているからこそ自分が本当に良いと思った物を使える、というのは大きなメリットであると思う。

経営について思うこと・今後の構想

 様々な大手メーカーを見ると、もちろん真面目に取り組んでいるメーカーも多いが、中には利益追求に走りすぎ、社員の使い方が雑になっているところもあるように見受けられる。無論、個人で開業していても利益追求は必要だが、技術者を育てるという観点も重視しなければならない。また、歯科技工士ばかりの組織を作っても、営業面に無理が出てきてしまう。 「良い物を幅広い人々に提供する」というサービスの意味では、今後は“スターバックス”のような組織を作っていけないかと考えている。具体的には、あちらこちらで見かけるもののブランド力を維持しており、少々値が張ってもしっかり顧客が付いているというイメージである。ひとつの拠点に大人数を配置する必要はないが、各地に仲間を増やしていければと思っている。 その仲間を増やす活動として、まずは福岡での拠点作りを進めている。ドライブ中に街並みや人口、他からの地域の人間の受け入れ方、裏通りの活気などを見学した結果、大阪でも名古屋でもなく福岡がベストと考えた。また、九州地区ではまだWOL-CERAMの機械が導入されていないこともあり、WOL-CERAMの良さを広げていくいい機会にもなるだろう。地元の歯科技工士組織の仲間に加えてもらい、新しい物を知ってもらう一助となれれば幸いである。

若い世代に向けて・これからの歯科技工士界について

 今後はますます、人材確保が難しい時代になっていくだろうと危機感を感じている。大手ラボでは近年CAD/CAMを導入するところが増えているが、この背景には資金力があること・話題づくりとして、という理由の他に、スタッフ確保が難しいという理由があるのだろうと思う。とはいえこの問題は、採用する企業側にも改善すべき点があり、養成する学校側の夢の持たせ方も大げさすぎたり、歯科技工士側の“大変さ”の訴え方が良くなかったりと、一筋縄ではいかない。   そんな中、せっかく専門学校を卒業して働き始めてもすぐに歯科技工士の道を諦めてしまう若者も多い。我々からすれば、学費も時間もかけたのにもったいないと思わざるを得ない。今の若者を育てるには、じっくり一緒に仕事をして、マンツーマンできめ細かく指導していかなければ続かないのではないか。若者の指導法や大人のあり方・接し方などを、他業種の人から聞いた話も参考に今後も考えていきたいと思う。  ちなみに私の好きな映画で『ポストマン』という作品(1997年・米)がある。この映画は、「たまたま就いた職業ではあるが、でもその仕事を一生懸命やることが大切だ」ということを訴えている。私も「歯科技工士になるために産まれてきた」と思っているわけでもなく生活の糧としてこの職業を選んだ側面もある。だからこそ、この映画を見て「投げ出さずに続けることの大切さ」を実感したし、その思いを若者にも伝えている。 また、最近は歯科技工士としての成功者よりも、歯科医師の話を聞くことに興味がある。歯科医師の内情や本音から、歯科技工士が今後目指すべき方向も見えてくるのではないかと考えるからである。私はこれまで、歯科技工士にも歯科医師に対するホスピタリティーが必要だと思って仕事に取り組んできた。服装ひとつをとっても、汚い恰好で医院に納品するのでは患者から見た医院のイメージを下げかねないと思ったためである。 しかし、こうした努力はどうしても「歯科医師にとってはこれがきっと便利だろう」「喜ばれるだろう」という想像に頼らざるを得ない。その意味では、父が歯科技工士・息子が歯科医師という親子などから話を聞ければと思う。「歯科技工士と歯科医師の壁を越えるために息子を歯科医師に育てた」というほど熱意がある人もいて、こういう人が業界を引っ張る存在になるのではないかと感じているからである。

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