第2回 千里の行も足下より始まる

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経営関連コラム 第2回「千里の行も足下より始まる」 田上めぐみ 歯科衛生士

「合抱の木も毫末より生じ、九層の台も累土より起こり、千里の行も足下より始まる」(老子)

これは「両手で抱える大木も毛の先ほどの小さな芽生えから始まり、九階建てのうてな(建物)も小さな土を累ねる所から発生し、千里の遠い道も一歩一歩の足もとから始まるのである」と、中国の周時代の哲学者である老子が、ものの始まりを表現した言葉です。

弊社にとっては珍しく、同じ月に2軒の開業医院をお手伝いすることになりました。どちらも開業という旅路の一歩を踏み出したのですが、それぞれに想いをこめた医院創りが始まりました。現場でお手伝いしていると、着実に踏み出す足音が聞こえ、パワーを感じます。もちろん開業なさる先生方は、医院経営への不安と期待が入り交り、時には進路を見失うこともあると思います。そのようにならないためにも、ものの始まり、第一歩の踏み出し方が重要です。行先をしっかり見据えていないと、進むべく方向に迷いが生じます。

お手伝いした先生方は、どちらもご自身が目指す方向にきちんと向いていらっしゃる方々でした。医院設計段階からパートナーとして関わりましたが、ご自分の望む患者層にターゲットを絞り、治療方針を具現化するための建物作りを意識されていました。限られた予算内で、ご自身の城をカタチにするために、どこにお金を使うのか?という方向性に、ブレが無かったのです。

2軒の医院を同時進行しながら開業準備のお手伝いをすることで、どちらの先生も「想いをカタチに」していく過程で、それぞれの方向性が決してブレない事に気付きました。一方の先生は、患者さんにゆったりとした空間でワンランク上質の医療を提供することを考え、逆にもう一方の先生は、地域住民の皆さんがいつでも来院できるような利用しやすい診療時間を提供することを考えられていました。それぞれの医院コンセプトを実現させようと、歩み始める先生方を拝見していると、揺るぎない信念を持った上で開業することは、成功へのカギとなるのだとあらためて確信しました。

とはいえ、先生方も第1ステップへのカタチを描いたものの、あくまでスタート時点に立ったに過ぎないということは理解されていました。私自身も、同時期に対象的な方向性を持つ医院創りを経験することで、多くの学びを頂きました。

では、いかにして経営の土台を固めていけばいいのでしょう。それは「医院理念」の確立だと思います。目標へ向かうためには、しっかりと基礎を組立て無ければいけません。また、基礎にズレが生じたならば、修正もしなければなりません。その上で技術を積み上げていくとカタチになってきます。間違いがあれば、修正はいつでも可能ですが、迷ったら進まず立ち止まり、はみ出していないか、まっすぐなのか、または誰かに遠くから見てもらう…など、今の決断に間違いはなかったのかを判断しながら進める事が、医院を経営するという事だと思います。しかし一人で何でも解決できるわけではありません。目標の設定をしたならば、適所に専門家を使い、先生は現場監督になって頂きたいと思います。

私は、開業コンサルティングを始める時に十分に気を付けている事があります。まずは、医院経営者となられる先生の「目指す医院」とは何かを慎慮することです。もちろん先生自身に「医院理念をお持ちですか?」とお尋ねします。中には即答なさる先生方もいらっしゃいますが、多くの先生方は「なんだろう?」とおっしゃいます。すぐにイメージをお話なさる先生は、その後も目標地点までまっしぐら!なのですが、はっきりしていない先生には、「どんな医院創りを行いますか」、「ご自身が目指す歯科医療とは」、「どういう歯医者さんになりたいですか」…と、色々ご質問をしていきます。除々にあいまいだった理念がはっきりと浮き出され、ここまで来れば外部者である私にも、おおよその医院イメージが見えてきます。そうするとその医院にとって必要なものが見えてくるのです。

つまり、あくまでも私は先生ご自身で答えを見つけて頂くためのサポート役です。先生の理念をはっきりとさせることで初めてコンサルテーションを始めることができ、理念に沿ったノウハウのご提供ができるようになります。

私自身、歯科衛生士という専門職でもありますので、開業パートナーに選んで頂いたからには、医院の質をより向上させるためのアドバイスも致します。例えば滅菌システムのマニュアル化なども、開業時点では不可能なことであっても、スタート時点にその基礎作りは行いたいと思っています。

コ・デンタルスタッフの方にも、各ポジションでのプロフェッショナルを目指して頂きたいと考えます。あくまでもサポート役に徹しながら、医院が繁栄するためのカギとなる良質な歯科医療提供の場作りを現実化していくお手伝いをしていきます。

ところで、約20年の人生をこの業界で過ごし、今後もさらに邁進したいと思う私自身の「理念」といえば、それは「患者様の幸せ」です。しかしそのシンプルな「理念」を具現化することの難しさ…。多くの先生方と、そんな想いを共有させていただけるこの仕事に、私はやりがいを感じます。

今回、非常に対象的な方向性を掲げた2軒の医院開業のお仕事では、自分自身の頭を切り替える作業にもひと苦労しました。師走の声を聞き、早いものでもう一年が過ぎようとしています。まさに光陰矢の如しといったところですが、新たな医院創りの依頼を前に、ようやく一息ついているところです。

寒さ厳しい折、体調管理とインフルエンザには、十分注意してくださいませ。

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