第4回 ドイツ歯科技工士マイスターとして想う事 第4章

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『チェックリスト』の実際:

第3章ではEU統合後のドイツにおけるマイスター制度の行方と歯科医療保険構造とその流れに焦点を当てました。その中で『チェックリスト』の実際は、平成17年3月18日付に厚生労働省医政局長から各都道府県知事、各保健所を設置する市の市長、各特別区長宛に通知された「歯科技工所の構造設備基準及び歯科技工所における歯科補綴物等の作成等及び品質管理指針について」との整合性を考慮し、本章ではこの「歯科技工所における歯科補綴物等の作成等及び品質管理指針」をドイツの『チェックリスト』との相関性を比較しながら論点を整理していこうと思います。

図01:チェックリスト原本

図02:チェックリスト和訳

 上図(図01&02「和訳」)はドイツのセラモメタル・レストレーションにおけるチェックリストのオリジナルであり、歯科医師名、患者名、ラボの名称等、また歯科技工指示書内容の把握からセラミック材料の種類、そしてセラモメタル・レストレーション製作の際に重要となる技工作業工程を綴ったリストです。これらは本コラム第1章に既述した第3次医療保険構造改革法に規定されている「5、医療製品規格規定法(1998年6月14日施行):歯科補綴物を始め、人体に投与する医療製品全般の品質管理と補償期間を定める(チェックリスト記載の義務化)。また、同法に違反した者は最高DM50、000(350万円)の罰金とする。」の項目に相当しています。

 そこで、筆者のラボでは既に約3年前から「自身のラボに適応するチェックリスト(図03)」を製作し、責任者の検印による作業工程のチェック、品質管理、または重要な作業工程把握による後進の指導を目指しているのです。 図3

 ここでまず重要となる事項は「印象材の種類とモデルの精度」であり、シリコン、ラバーベース、アルジネート寒天印象では、その調度によっては口蓋圧迫からの残存歯の歯根膜レベル(歯牙の骨殖にも起因する)での僅かな動揺はさけられず、Bコンタクトの位置に早期接触が生じ易くなります。ヒット、全顎寒天印象は無圧に近く、高精度の印象採得法として有名ですが(図04&05)、ヒット印象では外側にハードシリコンを使用することから、歯列全体の収縮が考えられます。したがって、歯科医師との適合に関する綿密なディスカッションにより支台歯の石膏硬化材を応用した確実な皮膜調整とロングケースではカバー印象による連結法を吟味する必要があります。日本では馴染みが薄いのですが、全顎寒天印象精度の高さはヨーロッパでは有名です。しかし、これも寒天の保管や取り扱い方法の重要性は言うまでもないでしょう。

2. 印象とモデル:限りなく精確に口腔内の状態をモデルにトランスファーするのか?

図04&05*:

 また、下図(図06〜09)は親水性シリコン印象よりマスターモデルを製作しているが、歯肉溝まで確実に口腔内を再現していることは必要最低限の事項である。

図10:パルテノン神殿

  つまり、右図の古代ギリシャの「パルテノン神殿」のように基礎がしっかり築かれていなければ、2500年という気の遠くなる時代を超えて生き残ることは不可能であることと同様に、補綴物に言い換えれば、長期的な予後と高い予知性は期待できなくなることに繋がるのです。

3. 合理的なワックスアップとその埋没、鋳造の実際:

 つぎに、ワックスアップを行い、埋没、鋳造の工程へと移行するが、その際、埋没材、鋳造合金の種類を記載し、その互換性の因果関係と結果をチェックします。これはどのテクニシャンが、どの部位をどの鋳造合金を使用し、どう言った混液比で行ったか?という記録とその補綴物のクオリティ、精度をデータ化し、分析することによって、埋没、鋳造課程における理想的、かつ合理的なシステムを構築することに他なりません。

4. 印象材と咬合状態のチェックの相関性:

 続いて、咬合状態のチェックに移るが、その際に、重要となるのは「+(咬合部位)」、および「-(無咬合部位)」のマスターモデルへの印記である。 図11〜21まではセラミックスの築盛から完成を示し、ここでは焼成収縮を考慮し、極力、削合を避けた築盛法を応用し、咬合形態を付与する。

 ところで、咬合器に装着されたモデルを見てみましょう。10本の残存歯が存在するにも拘らず、「+(咬合部位)」は3カ所のみである。また、10本の残存歯はすべてファセットを有している。そのダイモデル用印象材の種類は「アルジネート寒天連合印象」であり、既述の「印象材調度による口蓋圧迫からの残存歯の歯根膜レベルでの僅かな動揺とBコンタクト部の早期接触」が生じている可能性が強いと考えられる。したがって、印象材種類、および調度に応じて早期接触部を適量、削合する必要がある。そこで、実際に当該部の僅かな削合により、8カ所の「+(咬合部位)」が生じて来た。

 このように各種印象材による早期接触部の削合量はその使用する印象材に起因するが、切端部、または咬合面のどの部位を削合すべきかという点について瀟々解説を行いたい。咬合状態が正常な場合、コンタクトされる面、つまり咀嚼面を削合し、決して咬頭頂(または切端部)を削合してはならない。これは咬頭形態による機能的側面を残存させ、咬合の「in or out?」を確認可能にして置く意味で重要である。

 次に、セントリックコンタクトを付与し、艶焼きを行うが、グレーズ時の焼成収縮は1回焼成では100μと大きく、この点を考慮して咬合的に僅かに高目に形成しておき最終仕上げを行い、完成させる。

本章ではチェックリストとして「セラミックス」を扱ったが、その他、FCK、セラミックス・インレー、ラミネート、インプラント・アバットメント、およびその上部構造等の実践的リストを作成し、実際の臨床を行っています。

5. 感謝の辞:

 最期に臨床を提供して頂いた筒井塾主宰、北九州市開業の「筒井昌秀、照子両先生」*、東京都港区開業の「宇毛玲先生」**、東京都練馬区開業の「相原英信先生」***に心より感謝の意を表します。 * 次章においては、喫緊のもう1つの課題である厚生労働省医政局長から通知された「歯科技工所の構造設備基準」に角度を変えて考察してみましょう。

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