第11回 次世代のための輝かしい日本の歯科界8:歯と口のQOL

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日本の歯科界が、ある意味停滞気味で、メディアから様々な指摘を受けていることは、海外に住む私が言うまでもなく、皆さんの方が詳しいでしょう。「日本の歯科界を元気にする得策はないか」と私の方へも日本の歯科関係者に尋ねられることが多くなってきましたので、今回はQOLについて考えてみたいと思います。QOLは世界共通の尺度であるため、効果的に使うことによって、歯科の国民への貢献の可視化や共通善の創造を模索してみてはどうだろうか?

QOLとはおそらく我々が考える以上に国民にはインパクトのある指標であると思われる。歯と口の健康がいかにQOLに関わるか、歯科治療の有無がどうQOLに影響するか、各種治療のオプションがその後の患者のQOLに違いをもたらすか否か、歯と口の健康そのものの評価をQOLの評価項目を用いることで可能となるかどうか、などの検証は国民と歯科界双方にとって非常に有益な情報となるであろうと思われる。また、米国では、歯科医師のQOLも話題になることが多い。アメリカ歯科医師会(ADA)は、歯科医師の職としてのQOLは非常に高いと評価している。歯科医師の仕事は、プライベートと仕事の時間の割合のバランスがよいこと、日常の業務と創造的仕事のバランスが良いこと、仕事に見合うだけの収入の高さ、尊敬度の高さなどが理由となっている。

社会には、さまざまなQOLに関連した評価があり、何かの問題が社会的・経済的損失事項との相関を算出することにより、その問題の重要性を認識させることに使われる。米国では、歯科治療とそれら損失との関連性が具体的な数字で示されていることがしばしばある。例えば、米国では1年に400万件の歯の問題が発生するが、歯による仕事の欠勤は脳梗塞による欠勤より多いこと、予防のための通院よりも治療のための通院の方が多くの欠勤日を要すること、などが報告されている。また、「頭痛と歯痛、どちらの損出が多い?」などと、質問を投げかけ、国民に歯と口の健康について意識させる活動もよく目にする。

QOLに影響しそうな歯や口腔に関する題材、あるいは、その関連性を臨床的に明らかにしたい題材を探すことはそう難しくはないだろう。例えば、欠損部位に義歯のある場合とない場合、インプラント対可撤性義歯、歯科治療の前と後、保険義歯対私費義歯、歯周病の保存療法対外科療法などが対象となりうる。大事なことは、歯科医師の感覚とか教科書的な知識ではなく、どちらがどのくらいいいのか、あるいは同じなのかということを、「データ」で国民に提示することである。また、解析方法も工夫することができる。上記の題材を、さらに、地域別、年齢別、職業別、性別などに分けて、解析すると様々な特徴化が可能で、さらに有意義で、応用範囲の広いデータとなる。歯科の重要性の啓蒙はもちろん、治療法の選択、社会問題提起など、さまざまな面で役に立つかもしれない。

口腔に関するQOLの評価法だけでも、いろいろなアプローチがある。たとえばOral health impact profile (OHIP)という評価法は、50項目ぐらい(簡易バージョンもある)の質問に答えてもらって簡単に数値化することができる。機能、痛み、不快感、身体的不自由、心理、社会障害、ハンディキャップなどの項目に分けて評価していくことができる。諸外国ではこのような口腔のQOLに関して、多くの研究報告、論文、発信があるが、日本ではまだまだ数は少ないと感じる。保険制度、文化、医療の認識度や感受性などは国によって異なるため、QOLのデータは国ごとに構築することが必要となる場合が多いため、日本においても、もっとデータの蓄積と発信が実行されていくと良いのではないかと思われる。

最後に、治療のゴールとしてQOLを使用するという手法もある。歯科医師共通のゴールを設定する事も可能かもしれない。患者のQOLを向上させることを歯科治療の一つのゴールとした場合、その観点から、個人クリニック、大学病院あるいは国全体の歯科治療の評価を行うことも可能となるのではないかと思う。それをもとに、さらに向上をめざすための指標、さらなる問題点の抽出となるのではないだろうか。多種多様な歯科治療でも、一つの目標の下にまとまる可能性があり、国民への貢献を客観的に示すことが出来るのであれば、日本の歯科界は尊敬され、活気づいた職になるのではないかと考えている。

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