第10回 スティーブ・ジョブズ氏と光機能化

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今回は、「次世代のための輝かしい日本の歯科界」をしばし離れて、惜しまれながら、最近この世をさったスティーブ・ジョブズ氏にまつわる話しと光機能化の関わり?を書いてみたい。

光機能化インプラント技術を導入されている先生方から、「科学の認識・確立を意識できるのみならず、やっていてとても楽しい」「科学を体感できる、実感できる。」「効果が見える」「テクノロジーを感じる。」などの声を多く聞く。実際、私はアメリカで、光機能化技術のことを"Photofunctionalization is the only implant surface technology you can feel and see."と紹介しているが、このことがまさに現場のドクターたちの声から再確認することができるのである。

これまでに市場に紹介されてきた数々のインプラントサーフェス、マイクロ構造、ナノ構造、化学的修飾を施してあるものなどなど、より高い骨結合能があるとされ市場にでてきたものの数は、まったく誇張でなく無数に存在する。しかし、これらのサーフェスは、従来のサーフェス、あるいは想定された対照群のサーフェスに対して、実験上、あるいはデータ上で、後に違いを認める場合はあるであろうが、臨床の現場で、ドクターがそのちがい、優位性を実感することはまずない。サーフェス形状の違いは小さすぎて肉眼では見えず、骨結合に関わる生物現象にも、現場では何の変化も起きない。

ところが、光機能化を応用してみての感覚はまったくちがうというのだ。一つは、実際に術者が現場で処理するということ、そして、もう一つは、埋入のときの血液の動態によって、それが光機能化された否かが一目瞭然でわかることである。光機能化を施したインプラントは、ドクターが、患者のために自らの判断で、現場で、しかも、直前に光処理を行うことによって生まれるサーフェスで、ドクター自らがリアルタイムに最先端の科学と技術を取り入れているという意識、そして、何より、患者によりよいものを届けようとする医療従事者本来の本能を賦活する機会となるのかもしれない。光機能化が従来のインプラント医療とちがって、何か不思議な感覚をもたらす理由を実際のユーザーの声から推測すると以下のように分析できるかもしれない。

図1 図1

 

光機能化の過程は、自らがインプラントを、光機能化を可能にする装置(図1:現在のところ光機能化の複雑な条件を再現する装置は、ウシオ電機社製セラビームRアフィニーのみである)に入れることから開始される。タッチパネルで操作することにより、自動化された光処理プログラムが開始し、ディスプレイにはその経過が表示される (図2)。さらに、インプラントが光処理されている様子は、付属の窓より確認することができる(図3)。窓から目にすることのできる青紫の光は、まさに科学とテクノロジーと確認させてくれると同時に、臨場感と期待に満ちた興奮をもたらしてくれるのかもしれない。そして、インプラントの埋入初期、インプラントが窩に触れたとたん、瞬く間にインプラント体を登り上がる血液、言い換えると、全体がまんべんなく、隙間なく、血液で覆われたインプラント体を見ていると、起こるべき、あるいは起こってほしいオッセオインテグレーションが最高の形で期待できるのだというのだ。自信や安心感が生まれるのかもしれない。実際、あるユーザーからは、「光機能化を応用することによって、インプラント外科時のストレスが一つなくなりました」との声を聴いた。

図2 図2

図3 図3

 

我々は、科学的に考えて、現在のところ光機能化技術以上の、インプラントサーフェス活性化技術は存在しないと結論づけている。ドクターは、おそらくできるだけのことは尽くしたとの達成感で満たされるのではないかだろうか。骨結合が達成されるか否かは、もちろん症例のコンプレックスさの度合いにもよるだろうが、ベストの確率を生む手だては尽くしたのだと。インプラント代理店が説明し、そこから受け取ったインプラントをただただ使い、見えないものに、何か確証のない期待をよせていた、いわゆる受け身の医療でなく、自らの裁量と力でもって、使おうとするインプラントの能力をできうる限り向上させようとする能動的な医療に変化した瞬間とでも表現できるかもしれない。もちろん、医療機器には、楽しみ、体感、興奮のみならず、科学的裏付けと治療コンセプトがもっとも重要なことであるということは言うまでもない。光機能化は、歴史上ないレベルでの質と量の科学的裏付けに基づいており、従来法のインプラント治療と比較してまさに明らかに違いをみせる臨床成績も報告されていることを付け加えておく。

人類は、たいへんな財産をなくしたと報じられた。アップル社のスティーブ・ジョブズ氏である。ユーザーが使っていて楽しめる、体感できる製品を次々と排出したことで世界的な評価を得た。パソコンのマック、iPhone、iPadに至るまで、ユーザーが、現場で、何か作業をすることによって楽しいものの開発を一貫して行った。並外れた信念と創造力の持ち主である。そして、卓越した努力と情熱がそれを可能にした。本人は「自分がやっている仕事が好きだ」と謙遜する。光機能化がドクターにもたらしている感覚、体感は、もしかしたら、スティーブ・ジョブズ氏が目指した技術像に通じるものがあるのかもしれないとするならば、それは思ってもみなかった極めて正の誤算であり、この上なく光栄なことである。

スティーブ・ジョブズ氏は、「夜眠るとき、我々は素晴らしいことをしたと言えること、それが重要だ」と言っている。金銭の計算や、やるべきでないという負の障害などを乗り越え、ただただ良いことを全うしようということであろうか。光機能化は、生物学的老化によって能力のおちたインプラントをもとの状態にもどし、いやそれ以上に最高の状態に引き上げ、それを、いつでも、どこでも使用することを可能にした技術である。インプラントの生物学的老化は現在、予防することのできない現象であり、このことに関するドクターの懸念を一掃することができる画期的技術なのである。またインプラントが、生物学的エイジングの進行度の違いに応じて、一つ一つ違う生物学的能力をもっていることによってもたらされる患者間の不平等を消し去ることもできるのである。これらのことを追い求めるのは、医療人として、そして医学・医科学に従事するものとして、自然な姿であり、このことが実行されるために、光機能化が一役担っているのである。「夜眠るとき、我々は素晴らしいことをしたと言えること、それが重要だ」。

光機能化は、単なる卓越した骨結合の実現を可能にする物理化学環境を定義した科学用語でなく、まさに「光が見える。機能が見える。」というインプラント技術なのかもしれない。そして、もしスティーブ・ジョブズ氏のいうところの、楽しみ、充実性、機能性のすべてが満たされ、インプラント手術をしたドクターがその晩、ぐっすりと眠れることに少しでも寄与できているならば、なおさら言うことはない。最後に日本の学術人、歯科医師たちの多くが、彼のような創造力、行動力の潜在性に気づき、発揮してくれることを切に願っている。

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