第8回 次世代のための輝かしい日本の歯科界6:光機能化、それはインプラント医療、45年ぶりの革命的な技術

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これまでのコラムにおいて、チタンは経時的にその骨結合能力が低下していくことを説明した。そのことはチタンの生物学的老化、バイオロジカルエイジングと呼ぶ。そして、前回コラムの最終項は、以下の文によって締めくくられた。「医学における問題の対処法はほぼすべての場合2通りしかない。問題が生じた場合、それを予防するか、元に戻すかである。いずれにしても、必要は発明の母であり、それに背いたり、無視していては、医療の発展は望めないということを申し上げて、次回に続けたい。」

我々は、研究に研究を重ね、そして検証に検証を重ねて、チタンの生物学的老化は、予防することはできないが、それを克服する、つまり修復することはできるということを明らかにした。しかも、修復されたチタンは、もとの新しいチタンよりも優れた骨結合能をもつことも明らかにした。つまり、ピンチをチャンスに変えたのだ。そして、いよいよ今年にはいって、その修復法が臨床応用可能となった。それがインプラントの光機能化技術である。簡単にいうと、光機能化は、インプラント体を埋入直前に、複数の、特定波長をもつ光で処理することにより、チタン表面の特性を最適化し、骨結合能力を最大に高める技術である。今年にはいって、臨床応用と同時にさまざまな情報公開と報道が行われ、歯科医師のみならず、学生や国民にまでその知識が普及しつつある(是非、光機能化バイオマテリアル研究会公式サイトhttp://hikarikinou.officialwebsite.jp/を参照していただきたい)。

デスクトップ型の光処理デバイス 図1デスクトップ型の光処理デバイス

図2 図2光処理デバイス内で、インプラントが処理されている様子

光機能化の最大の特徴は、チタン製のインプラントであれば、その有効性が、おおくのインプラントで証明され、科学原理的にもその疑いがないことが示されている点である。つまり、世の中には、300種類を超えるインプラントが存在すると言われているが、HAコーティングなどを除く、多くのチタン製のインプラントに応用できるのである。光機能化されたインプラントは、光機能化をしない、いわゆる従来法のインプラントと比較して、明確な能力の違いを見せることが証明されている。光機能化インプラントには、従来法と比較して、3-5倍の骨芽細胞が付着することがわかっている。まるで、エイジングしたチタンを逆にもどし、再生させたかのうようである。しかし、前述のように、骨結合能力が、新しいチタンよりも高くなるのである。つまり、光機能化されたインプラントは、単にエイジングを克服したばかりでなく、新しいインプラントよりも優れた特性を付与することも併せて明らかとなっている。光機能化されたインプラント周囲の様々に強化された生物学的過程によって、最終的に達成される骨インプラント接触率は、動物実験レベルで、ほぼ100%となる。従来法のインプラントがおよそ50−55%であることを考えると劇的な進歩である。この時、新しいインプラントの骨インプラント接触率は90%であり、以下に光機能化インプラントが、群を抜いた生物学的能力をもっているかがわかる。

この100%の骨インプラント接触率は、人類がこれまで経験したことのなかった成果である。これまでのインプラント研究に関する論文をひも解いてみても、従来法の骨インプラント接触率は45−65%にとどまる。最近、報告されたナノ形状をもったインプラントでも、有意な改善は得られないという見解が目立つ。この事実上100%の骨インプラント接触率は、多くの利点をもたらす。まず、骨中におけるインプラントの骨稙強度が、治癒の早期の段階において、従来法と比較して3倍となる。時間軸でみると、動物実験レベルでは、光機能化インプラントの骨稙強度の達成スピードは、従来法よりも4倍速い計算となる。さらに特筆すべきは、光機能化インプラント界面に、軟組織の介在はほぼないとことである。このことは、光機能化インプラント周囲の骨が、より骨吸収に強いという特性をもたらす可能性を含んでおり、現在研究が行われている。

光機能化処理は、専用のデイバスを用いることにより行われる(図1)。自動化されたプログラムによる15分の光照射と5分のクールダウンである。術者は光機能化されたインプラントであるということを、すぐに確認することができる。なぜなら光機能化されたインプラントは、超親水性に変化しているからだ。光機能化されたインプラントは、埋入中、骨由来の血液に接触した瞬間、血液を吸い上げ始める。血液がインプラント体をせり上がっていく様子が観察できる。一方、従来法では、インプラント面に血液は自ら侵透してこない。これまで、歴史上開発されてきたインプラントサーフェス技術のなかで、このように術者がただちにその効果を確認できる点をとってみても、光機能化技術が他と差別化される技術であることが理解できよう。マイクロトポグラフィ、ナノトポグラフィとっても、これらは、肉眼で確認することはできず、また細胞がよくつくとか、骨がよくつくなどの効果も術者が即時に想像することは難しい。

光機能化インプラントのこれまでにない骨結合能力の背景には、光処理による表面のクリーニングが挙げられる。単に表面の濡れ性が高い、つまり親水性であるというばかりでは、生物学的効果は得られないのである。前回までに述べた、やむをえず発生し、時間とともに厚くなるチタンインプラントへの炭化水素の付着、つまり化学的コンタミを、光処理は効率的に除去してくれるのである。チタンがチタンにもどるのである。細胞にとって、炭化水素面よりチタン面を好むことは明白であり、初期の細胞親和性を向上させるのみならず、その後の、細胞による効率的な骨産生の過程にも大きく影響するのである。また、光機能化は、超親水性の発生とクリーニング以外に、他のいくつかの表面特性を最適化することもわかっている。このように、光機能化デバイスは、複数の要素に対し、効果が同時に働くように設計されている。現代インプラント医療に、歴史上初めて現れた最先端科学の結晶といえるだろう。そして、この結晶は、患者のため、またドクターのために、活躍を開始した(この詳細についても光機能化バイオマテリアル研究会のサイトをご覧いただきたい)。次回は、光機能化について、特に、科学的意義、臨床的意義をさらに掘り下げ、さらには、これらが及ぼす学術や教育へのインパクトなどについて述べたい。

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