あすなろ歯科の院内コミュニケーション 第5回コラム

カテゴリー
タグ
記事提供

© Dentwave.com

平成18年5月、あすなろ歯科の新人衛生士と先輩衛生士が、私の前でこんな会話をしていました。

先輩「先生は昔(2年前)はひどかったんだよ。怒りまくって、TEKとか捨てられたんだから!」 新人「昔の怒りまくってた先生を見てみたい!」 先輩「それは無理。先生は自分の感情をコントロールする方法を手に入れたから・・・」

人間が持つ怒りや悲しみ、喜びや楽しみといった感情は、周りの人の言動や、周囲の出来事に原因がある。以前の私は、そんな風に思っていました。

例えば、歯科医院で先生方がイライラする場面を想像してみてください。 1) 「○○さんの浸麻の用意しておいて」と助手さんに指示を出した。しばらくしてユニットサイドに行ってみたら・・・何の用意もしていない! 2) 「この業者さんに電話して、○○を頼んでおいて・・・」と受付のスタッフにお願いしたら、「は〜い!」と返事。その3日後に、○○を使おうと思い、「○○は?」と受付に尋ねると、「えっ! あ、そうか! 頼むんでしたっけ。」 3) 「SCしておいて」と衛生士に指示したら、30分経っても、終わらない。次の患者様が待っているので行ってみると、奥の方から、その衛生士と患者様との話し声。「だから、次の患者さん待ってるんだって!!」と言いたくなる場面。 4) 予約時間を過ぎているのに、ニコニコしながら患者様がやってくる。 5) 同じ説明を同じ患者様に何度もしなければならない。

 このような場面に出くわすと、私はイライラしてしまいます。すべての歯科医師がそうだとは言いませんが、少なからず、似たよう場面、似たような状況に遭遇して、イライラすることもあるのではないでしょうか? 私だけかもしれませんが・・・。

 そんなイライラしていた私が、スタッフから「先生は感情のコントロールができる」と言われるまでになりました。

 もし、自分の感情をコントロールして、イライラした気持ちを抑えることができたなら・・・。怒りをコントロールしながら、自分の気持ちを相手に伝えて、その相手が期待に応えてくれるとしたら・・・。イライラして怒りをあらわにするより、人間関係が良好になると思いませんか? そうすれば周囲の人たち(私で言えばスタッフ)も、のびのびして、生活や仕事を楽しむようになるのではないでしょうか。実際あすなろ歯科では、私が感情をコントロールすることで、スタッフが活き活きと明るくなり、患者様との会話などコミュニケーションを楽しむようになりました。

 コーチングを受講しようと思ったのは、簡単に言えば、雇ったスタッフがすぐに辞めてしまうからでした。それに、個々のスタッフの能力を十分に引き出せていないことや、能力のあるスタッフが自分の思い通りに動いてくれないことなども不満でした。要するに、スタッフを私の思ったとおりに動かしたい、医院を良い方向に向かわせたいと考えていたわけです。

 しかし、コーチングを受講してみて分かったのは 「コーチングとは誰でも簡単にできるというものではなく、コーチングを受ける側が本当のやりたい事とか、やってみたい事、あるいはその潜在能力を引き出す必要があり、そのためにはコーチ自身の意図や価値観、あるいは優先事項などを押付けてはならず、相手が望む自分本位の行動へとサポートし続けなければならない」ということでした。

私にとっては、コーチングにおける次の二つの点が重要でした。 1) コーチ自身の意図や価値観、あるいは優先事項などを押付けてはならない。 2) 人間の感情(感覚・反応)は、すべて自分の中にあり、相手や周囲の状況は「きっかけ」に過ぎない。

1)についてお話します。    私が考える良いスタッフ像とは、あくまで院長である私にとって都合の良いスタッフなわけです。一方、それを押し付けられたスタッフにしてみれば、それは自分のやりたいこと、自分の理想の未来像ではないわけですから、そこで「やらせられ感」とか、「違和感」などを感じることになります。 上司である私がさらなる要求をした場合、スタッフにしてみれば、自分のやりたいこと、やってみたいことではないわけですから、気持ちが萎え、モチベーションが続かず、その結果、彼らは逃げ出すことになるでしょう。

2)に関して。    人間の喜怒哀楽などすべての感情は、周囲の状況や周りの人間に起因しているのではありません。まず本人が、自分の考えや気持ち、過去の経験などに従って、ある期待を抱いていて、または優先事項を決めていて、それらが満足されない場合には、怒りや悲しみにつながり、逆に満足されれば、喜びや楽しいといった気持ちになるのです。 すべての感情は、あくまでも自分自身の感覚に基づき、そこから生まれた期待や優先順位、時には不安などに起因しているのであり、周りの状況や他の人間はきっかけでしかないのです。つまり、私がイライラしていたのは、私自身が周囲に何かを期待し、その結果が自分の価値観や優先順位に合わなかったからであり、周りのスタッフや患者様の言動は、きっかけでしかなかったのです。

 すべての怒りやイライラがなくなったわけではありませんが、イライラしていたり、期待が充足されなかったりする場合に、そうした自分自身の気持ちを、以前よりも早く把握できるようになりました。そして、それにできるだけ早く気づき、対処するよう心掛けることができるようになりました。

 それとともに、スタッフに対しては、むしろ多くの期待をし、自分の理想を話すようにしています。上司から何も期待されないような状況は、スタッフにとっても居心地がいいわけはありませんので、むしろ大きな期待を抱くようになりました。 そして、期待していることを伝えるようにもしています。もちろん、それがあくまで私の考えであること、私の期待である事を十分に認識しながら。だから、「僕の期待なんだけど・・・」、もしくは「・・・になって欲しい」と言い添えます。

 昨年(平成17年)10月から半年間受講したコーチングセミナーは、コーチングの手法や手技を学習するのではなく、自分自身の感覚や反応、そして相手の気持ちに向き合う必要性を学ぶセミナーでした。 私自身、コーチングというものを誤解していました。そして、今回のセミナーを受講したことで、コーチ技能を使ってスタッフとのコミュニケーションを取るというより、自分自身に向き合い、自分を良く知るきっかけになったように感じています。自分を知ることで、周囲とのコミュニケーションを良好にするきっかけ作りになっていると感じます。

ご興味のある方のために、私が受講したセミナーのホームページアドレスを載せておきます。

日本コーチ連盟コーチアカデミー ホームページ 

記事提供

© Dentwave.com

この記事を見ている人がよく見ている記事

新着ピックアップ