第5回 メタボリックシンドロームの予防と対策

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これまでメタボリックシンドローム(MetS)の病態生理と、その合併症について述べてきた。MetSの多くは食生活をはじめとした生活習慣の乱れが、その原因となることが多い。予防と対策では、この面でのアンバランスをいかに改善し、かつ継続できるかが要となる。今回は食と運動の両面からの予防と対策につき概説いたします。

栄養面からの予防と対策

MetSは、過剰なカロリー摂取量が最も重要な原因となる。適正な摂取熱量を求めるためには、まず理想的な体重を算出する。いくつかの算出方法があるが、理想的体重=22×(身長)×(身長)がしばしば用いられる。ついで、 適正摂取熱量=理想的体重×30(女性や運動量が少ない人では;25)とする。たとえば、170cmの身長の中年男性では、理想体重は63.6Kg、 一日あたり1910K calが 求める熱量となる。この数値には、性別、仕事等に於ける運動量等により差異が見られる。

体重管理や、適切な熱量を摂取していてもMetSの危険性は存在する。その原因の多くは、食事の内容構成の不適切さによることが多い。内臓脂肪は、ほとんどが中性脂肪から成り、この中性脂肪は過剰な炭水化物が材料となる。米や小麦粉などの”白い”炭水化物が、”黄色”の脂肪として蓄積されることに留意すべきである。

本来農耕民族である日本人は、摂取熱量の65%程度を米・穀物などの炭水化物から得ており、これは 欧米人に比較すると約10%以上も多いとされている。食材としての炭水化物を、少なくも10%は少なくし、良質のたんぱく質に置き換えることが勧められる。この際、極端な低炭水化物食は、脳の低血糖症状を招き、ふらつき、いらいら、めまい、重症では意識障害を引き起こす危険性があるので、一日最低200g(800Kcal)相当は摂取する。

MetSが現代人に多い理由として、食習慣の乱れがあげられている。”早食い”に代表される少ない咀嚼回数や弱い咀嚼力は、消化酵素の分泌の低下を招き、かつ血糖値等からの満腹情報のシグナルも遅くなるので、”大食い”や肥満になりやすい。消化・栄養代謝は口腔・咀嚼から始まるとの認識を、歯科・医科ともに全ての患者に教育をすることが重要である。朝食ぬきや遅い夕食摂取もMetSの発症に大きく影響する。特に、遅い時間の高カロリーの夕食は、脂肪蓄積の原因となる。われわれは、その対策として、”ミニ夕食”を提案し、かなりの効果をあげている。夜8:00以降の食事が予定される場合には、pm6:00前後に、200Kcal程度の軽食を取る。これにより、血糖値を上昇させて空腹感を抑えることにより、本来の夕食の量を減らすことができ、肥満対策と対策なりえる。同様に、朝食も時間がないときでも、軽いものを必ず口にするように勧めている。

食は長年の習慣であり、かつ職業などの環境により大きく支配される。個人の意識が高まらなければ、いくら外部からの指導・提案も実効をあげることは困難である。

運動面からの予防と対策

MetSの対策として、食と運動は、”車の両輪”にたとえられることが多い。食事療法のみでは、継続した成果が上がりにくいことが多数報告されている。消費熱量を高め、蓄積脂肪を燃焼させることが運動療法の基本的な理論であるが、効果的な運動を行うには必須の要素がいくつかあげられる。

(1)運動の種類; かなりの時間にわたって体を加速度的に移動させ、酸素を大量に消費する有酸素運動が第一選択とされる。ウオーキング、シ゛ョッギング、水泳(水中歩行)が一般的である。同時に、筋肉の束を増加させることにより、基礎代謝量を増加させることもMetSには有効であるので、レジスタンス運動も適宜組み合わせることにより筋肉・筋力の増加を図る。(2)運動の強さ;運動は一定の強さを保持しなければ、生理学的効果は出にくいとされる。最も簡単な強さの指標は、脈拍(心拍)数である。 運動時に最大脈拍数が、(220−年齢)×(0.5〜0.6)を目安とする。たとえば、40歳では、90〜108/分程度とする。(3)運動の持続時間;運動により、脂肪が熱源と主役となるのは約25分以降とされている。したがって、少なくとも30分間程度の持続が効果的である。(4)運動の頻度;運動の生理的効果は、約3日間しか持続しないとされている。つまり、運動は週2回以上行わなければ、継続した運動効果は期待できないのである。週一回スポーツクラブ等に通うという方も多く見られるが、運動生理学的に見れば、MetSへの効果は困難であるということになる。(5)安全性の維持;運動は安全に行われなければならないことは大前提である。MetSでは、すでに治療が必要な循環器などの合併症を有することも少なくなく、また中高年では整形外科的疾患も多い。運動療法の開始に当たっては、医師によるメデイカルチェックを受け、それぞれの運動プログラム実施の可否を判定する必要がある。

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