第29回 春の学会シーズン1―日本小児歯科学会-

カテゴリー
記事提供

© Dentwave.com

皆さんは5月21日の金環日食は見られたのでしょうか。筆者は人生最後の機会と言われても、あまり気にしていませんでしたが、3歳の娘も、これが最後かと思うと、「見せたい」と思い、近所の公園に出かけました。眼鏡は当日買えるだろうとの甘い考えをもっていましたが。実際にはドンキホーテ・幾つものコンビニにもありませんでした。筆者の予想以上にこの現象は注目されていたのですね。自分の気持ちが盛り上がらなかったのはどうして? 理由は明瞭です。すでに予想される映像を何度も見せられているので、想像できるからです。娘はというと、隣に居られた方に日食眼鏡を貸して頂き、太陽が欠けてゆく現象を「見えたー」と喜んでいましたが、すぐに公園の滑り台に向かいました。金環日食も雲のおかげで、肉眼で見えましたが、娘もそれほど強い興味はないようでした。娘の興味が強く湧かない理由を考えると、この現象の意義とその機構がわからないからでしょう。私と娘の気持ちは研究に通じます。予測した結果が出ることは良いことなのですが、私は、予測した結果と異なる結果に、より興奮します。研究の目的の意義や意味が理解できる大学院生は、研究がどんどん進みます。

今春は、小児歯科学会,補綴歯科学会,再生医療学会、国際歯科研究会そして炎症再生医学会に参加します。このコラムは小児歯科学会にて発表する過剰歯のお話しです。

過剰歯は,歯胚が正常よりも数多く形成された場合に生じます。好発部位として、上顎正中部付近に多いことが知られています。すでに口腔内に萌出している過剰歯、永久歯の萌出を妨げる過剰歯、正中離開や永久歯の転移の原因となる過剰歯などは抜歯の適応となるようです。今までは、過剰歯があるとネガティブなイメージとして捉えられてきましたが、過剰歯内の歯髄組織に間葉系幹細胞が存在しているとなると少し話は変わるのではないでしょうか。過剰歯から再生医療に役立つ可能性の高い間葉系幹細胞が採取できることになれば、不要な過剰歯が有用な過剰歯に変わるからです。

我々は、その点に着目し、臨床教室との共同研究にて、倫理委員会の承認後、過剰歯の歯髄に間葉系幹細胞が存在することを明らかにする実験に取り組みました。

本学部の付属歯科病院にて、患者の同意を得た後に、抜歯された過剰歯から無菌的に歯髄組織を採取し、酵素処理にて単離した細胞を培養増殖させました。間葉系幹細胞の存在を確認する手法としては、幾つかあります。たとえば、細胞の表面抗原の観察、コロニー形成能の確認、多分化能の観察などとなりますが、まずはこれらの語句を説明しましょう。

表面抗原とは、表面マーカーとも呼ばれ、細胞の表面(細胞膜表面)に、発現するタンパク(抗原)のことで、その細胞独自のタンパク(抗原)が細胞表面に存在しているので、その表面抗原によって細胞を識別することができます。一般的に表面抗原の分類として、CD分類(CD番号)が用いられ、モノクローナル抗体が結合する抗原として識別しています。たとえば、歯髄や歯根膜に存在する間葉系幹細胞が発現している表面抗原タンパクとしてCD146があります。これ以外にも多数が報告されています。

コロニー形成能とは、組織から細胞を単離して、一つの細胞だけを培養皿に播種すると、そのひとつの細胞が、何度も分裂増殖して、一つの集団を作ります。これをコロニーと呼んでいます。以前、幹細胞の定義として、「幹細胞は自己複製能を持つ」ということをお話ししましたが、これが、自己複製能を持つことの一つの証拠となります。しかし、実際には、本当に同じ細胞が分裂しているかどうかは分かりませんので、複数の方法で幹細胞を同定することに成ります。

多分化能とは、一つの細胞から分裂して増えた細胞が、骨芽細胞、脂肪細胞や軟骨細胞など複数の異なる種類の細胞になることです。最近では、歯髄の間葉系幹細胞は神経の細胞にもなることが動物実験にて示されています。これは、違う機会にこのコラムで紹介したいと思います。

我々はこれらの一連の実験を通じて、過剰歯の歯髄組織から得られた細胞集団には、永久歯や乳歯歯髄から獲得した間葉系幹細胞と類似した特性を示す細胞が存在することを明らかにしました。しかし、この過剰歯から得られる間葉系幹細胞を生体に移植した時に、象牙質や骨を再生できる能力を持っているのか。どれぐらいまで、増やすことが可能なのか。移植した後に、がん化することはないのかなど、まだまだ再生医療の実現に向けての課題は多く残されています。

一方で、近年歯髄の間葉系細胞はiPSを作成する良い条件を持った細胞であることが明らかになりつつあります。歯髄の細胞からiPS細胞が容易にできるとなれば、歯科領域にとどまらず、他の組織や臓器再生に有用となる可能性が大いにあり、歯科医師としての仕事の領域が少し広がるのではないでしょうか。

来週は、横浜で再生医療学会が開かれます。年々、歯科の再生に関する演題も増えてきています。今年はどのようなトピックが出てくるのか楽しみにしています。

記事提供

© Dentwave.com

新着ピックアップ


閉じる