第16回 歯の再生 胎生期歯胚細胞と担体を組み合わせた歯の再生研究2

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 胎生期のマウス単離歯胚細胞を担体に播種して移植すると、その担体の中で、天然歯と類似した形態を持つ歯が再生した(コラム第15回)。歯の形態は歯胚上皮組織の形態の変化によって名称を変える。発生初期はらい状期と呼び、その後、帽状期、鐘状期そして歯冠形成期と呼び名を変える(コラム第4回)。このことから、歯冠が形成するまでは、歯胚上皮組織が歯の形態の鍵を握っていることが示唆できる。組織は細胞の増殖によって形態が変化する。この細胞の増殖パターンの研究方法として現在、5-bromo-2’-deoxy-uridine (BrdU)をチミジンのアナログとして使用されている。BrdUを取込んだDNAは容易に抗BrdUモノクローナル抗体を使用した免疫染色で検出できるからである。つまり、増殖している細胞がBrdU抗体で染まる。そこで、再生歯の形態が天然歯と類似したことから、細胞の増殖パターンが天然歯と類似すると推測し、再生歯の増殖細胞の局在をBrdU標識によって天然歯と比較した [1]。

(図1)

画像をクリックすると拡大表示します 図の説明 1. A. 移植後3日の再生歯胚。BrdU標識によって増殖細胞は黒く染色され、BrdU陽性細胞が全体的に散在している。矢印:BrdU陽性細胞、DE:歯胚上皮細胞、DM:歯胚間葉細胞 B. 移植後5日の再生歯では、BrdU陽性細胞はサービカルループ部位に多く散在している(矢印)。一方で、BrdU陰性細胞群は内エナメル上皮中央部(IEE)に観察される。DP:歯乳頭細胞。 C. 胎生期14日帽状期の天然歯胚のBrdU陽性細胞(矢印)の局在。 D. 移植後7日の再生歯におけるBrdU陽性細胞の局在。BrdU陽性細胞はサービカルループ部に多く認められ(矢印)、その局在は鐘状期の天然歯と類似している。OEE:外エナメル上皮細胞、IEE:内エナメル上皮細胞、DP:歯乳頭細胞。 E. 鐘状期歯胚のBrdU陽性細胞の局在(矢印)。OEE:外エナメル上皮細胞、IEE:内エナメル上皮細胞、DP:歯乳頭細胞。 参考文献1より抜粋

 BrdU標識は、移植後3、5、7日に移植体を取り出す2時間前にマウスの腹腔にBrdU液を注入することで容易にできる。一方で、正常歯胚にも同様にBrdU標識を行った。移植後3日では、再生歯胚上皮におけるBrdU陽性細胞は全体的に散在していた。(図1A)。移植後5日では、BrdU陽性細胞はサービカルループ部位に多く、BrdU陰性細胞群は内エナメル上皮中央部に観察された(図1B)。この増殖細胞の局在は胎生期14日の天然歯胚の増殖細胞の局在と類似していた(図1C)。移植後7日の再生歯では、どちらの再生歯においてもBrdU陽性細胞はサービカルループ部に多く認められ、その局在は鐘状期の天然歯と類似していた(図1DとE)。

 BrdU標識にて再生歯胚における増殖細胞の局在を観察すると、天然歯の局在と似ており、歯胚細胞は一度、単離されてもその増殖パターンを記憶していると考えられる。われわれが用いた歯胚の発生時期は胎生期14日であり、シャープ教授らが用いた歯の発生時期とは異なるが、同じような結果を得た。一方で、生後の細胞を用いたブタの実験の結果とは大きく異なることがわかった。言い換えると、胎生期14日目の歯胚細胞を用いると、天然歯と同じ形態を持つ歯が再生できることがわかった。しかし、今回の実験では、完全な歯根や歯周組織の再生は確認できていない。

参考文献

(1) Iwatsuki S, Honda MJ, Harada H, Ueda M. Cell proliferation in teeth reconstructed from dispersed cells of embryonic tooth germs in a three-dimensional scaffold. Eur J Oral Sci l2006;114: 310-7.

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