第12回 組織工学的手法による歯の再生 マウスの胎生期歯胚細胞を用いた歯の再生研究‐1‐

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 前回までの研究は、生後のブタの歯胚細胞を用いています。今回から最もよく用いられているマウスの歯胚細胞を用いた歯の再生実験を紹介します。われわれが世界で最初に細胞から歯ができることを報告した後に、他国の研究室から、歯の再生に関する実験的研究が報告されましたが、それらほとんどは、マウスの歯胚細胞が使われています。マウスが使われた理由として、これらの研究室は、主に歯の発生のメカニズムを解析しています。その解析にマウスの歯胚を用いていましたから、マウスが使いやすかったのではと考えます。マウスの歯胚といっても胎生期の歯胚です。胎生期とは、胎児の細胞、つまり、母親のお腹からマウスを取り出して、歯胚を顎から採取します。歯の再生研究において、胎児の細胞と生後の細胞では何が違うのかを知ることは面白いと思い、胎生期の歯胚を用いた研究の紹介に至りました。

 はじめは韓国のグループです。2003年に韓国の延性大学のJung教授らは、胎生期14日の歯胚を用いた歯の再生実験を行っています(文献1)。この胎生期14日の歯胚は帽状期 (cap stage)です。この帽状期の歯胚を上皮組織と間葉組織に分けます。

 歯はその発生段階において、上皮組織と間葉組織のどちらかが歯を発生させる主導権を持っています。このどちらが主導権を握っているかは、上皮組織と間葉組織の組み合わせ実験からすでにわかっています。マウス臼歯では、蕾状期初期までは上皮組織が歯の形成能を所有していますが、蕾状期後期には、歯の形成能の主導権は上皮組織から間葉組織に移ります。とても面白い現象です。つまり、蕾状期後期からの歯胚間葉組織は上皮組織から主導権を受けて、歯の形成能をもっています。

 Jung教授らは、胎生13.5日蕾状期後期の下顎第1臼歯歯胚を用いています。この時期の歯胚間葉組織は歯の発生の主導権を持っています。この摘出した歯胚をディスパーゼで処理して歯胚を上皮組織と間葉組織に分けます。上皮組織は、培地に入れて保存し、間葉組織のみをコラゲナーゼの酵素で、細胞をばらばらにして採取します。このばらばらになった細胞を遠心分離機にて、再集合させて、保存していた上皮組織と再結合させます。この再結合させた擬似の歯胚をマウス腎臓の被膜下に2週間移植して観察します(図1)。

図1. Jung教授らの再集合実験。歯胚上皮組織から間葉組織をはずして、再集合させた細胞と上皮組織を再結合させると、歯が形成される。(Journal of Electron Microscopy 52(6):559-566,2003から引用)

 移植3週後になると擬似歯胚から歯が形成されています。組織学的には、歯冠が観察できます(図2)。歯冠の形態はほぼ大臼歯と似ていますので、歯胚の上皮組織をばらばらにしないと、歯冠の形態は正常に発生することがわかります。また、歯胚間葉組織をばらばらにして再度、再結合させても、歯を誘導できることもわかります。さらに、歯胚上皮組織から正常な歯冠への誘導は間葉細胞が行っていると考えられ、ばらばらにしてもその情報を失っていないわけです。これは、われわれの結果と大きく異なります。

図2. 移植2週後に取り出した擬似歯胚。正常な形態を持つ歯冠が形成されている。エナメル質(E)や象牙質(D)などが観察される。(Journal of Electron Microscopy 52(6):559-566,2003から引用)

参考文献

 1) Yamamoto H, Kim EJ, Cho SW, Jung HS. Analysis of tooth formation by reaggregated dental mesenchyme from mouse embryo. Journal of Electron Microscopy 52(6):559-566, 2003

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