第9回 組織工学的手法による歯の再生 -機械的刺激が歯胚細胞の分化を促進する-

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 今月は、細胞から歯の組織を早く再生させる実験の取り組みを紹介します。  私がフォーサイス研究所でYelick先生とYoung先生とともに2000年から歯の再生研究に携さわり、2002年に組織工学的手法によって歯が再生する可能性を示したわけですが、この実験方法では、細胞を移植してから象牙質ができるまでに15−20週、エナメル質が再生するまでに20−25週必要でした。この期間は少し長いので、組織が再生するまでの期間を短くできれば,将来,医療として用いたときに有利となると思います。

 私は帰国後に東大医科研の研究室の仲間と共に、機械的刺激を移植する前の歯胚細胞に与えることで、この移植期間を短くすることに成功しました (参考文献1)。機械的刺激を骨を作る骨芽細胞や軟骨を作る軟骨芽細胞に与えると細胞の分化を促進することはすでにわかっていましたので、歯胚細胞に応用しようと考えました。この研究においても、ブタの歯胚細胞を用いました。機械的刺激を与える方法は、立派な設備がありませんので、簡易的に機械的刺激を与えられる方法を考えました。つまり、歯胚組織から採取した歯胚細胞をポリエステルのメッシュに播種した後に、容器に入れた細胞培養液に浸します。次に、その培養液に流れが起きるように、容器を左右に振って播種した細胞に培養液の流れによる機械的刺激が加わるように設定しました。

図1. 機械的刺激を与えると歯胚細胞は、エナメル芽細胞に特異的に発現するamelogeninと象牙芽細胞に特異的に発現するDSPPの発現量が増える(バンドが太くなる)。 ※写真をクリックすると拡大表示されます

 機械的刺激を数時間与えた後に、細胞を取り出して、その遺伝子やタンパクの発現量と機械的刺激を与えずに、培養液に浸した細胞群とを比較すると、エナメル質(amelogenin)と象牙質(DSPP)に特異的に発現する遺伝子の量が増加し(写真1)、タンパク量も増加しました。この結果から、機械的刺激が歯胚細胞の分化を促進し、細胞が作り出すマトリックスの量が増えることを確認しました。

 細胞の分化が促進されて、マトリックスを多く作るということは、歯の組織ができる期間が早くなると推測できます。そこで、次に、機械的刺激を与えた細胞を移植する計画をたてました。移植部位は以前の研究と同じヌードラットの大網を選びました。この部位に移植した細胞は歯の組織を再生することを確認しているからです。

図2. 機械的刺激を与えると、移植15週後にすでにエナメル質、象牙質およびセメント質が再生していることが確認できる。 ※写真をクリックすると拡大表示されます

 歯胚細胞に機械的刺激を与えて移植すると、移植15週後に、エナメル質、象牙質およびセメント質の形成が確認できました(写真2)。以前の結果より約5週も早くエナメル質が再生しました。過去の結果から、エナメル質とセメント質の形成は、象牙質が形成された後に、その表層に再生することがわかっていますから(参考文献2)、象牙質はすでに、10-12週の頃に再生していることが予測できます。これらの結果から、機械的刺激を移植前の細胞に与えると歯の組織が再生する期間が短縮できることが分かりました。組織の再生に長期間が必要であることは、臨床に応用したときに一つのデメリットとなるでしょう。今回の結果は一つの改善方法であり、更なる研究が必要であることも事実です。一方で、今までに、歯の細胞が機械的刺激による影響を解析した報告はなく、今後、機械的刺激による細胞分化のメカニズムについても研究していきたいと考えています。

参考文献

1. Honda MJ, Shinohara Y, et al. Shear stress facilitates tissue-engineered odontogenesis. Bone, 39:125-33, 2006 2. Honda MJ. Sumita Y, et al.. Histological and immunohistochemical studies of tissue engineered odontogenesis. Archives of Histology and Cytology, 68; 89-101,2005

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