第7回 自分の常識×他人の非常識

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 じっとしていても汗ばむ季節がやってきた。真夏の夜はシャワーを浴びた後、バスタオルを巻いたままクールダウンをする人も多いだろう。そこに冷えたビールでもあれば格別だ。ところが、入浴後フェイスタオルで身体を拭いている私は「巻いたまま」というわけにもいかず、お風呂上がりの一杯は、ルームウエアーに着替えてからにしている。

 フェイスタオルを数枚で済ませるようになったのは大人になってからで、かつては「普通」にバスタオルを使っていた。海外ドラマにハマっていた頃は洒落たバスローブを羽織っていたこともある。ところが、物心がついてから自分で洗濯をするようになると、バスタオルは嵩が増える上、厚手のものは乾燥にも時間がかかり非合理的であることに気付いた。かと言って毎日洗濯しないのも気持ちが悪い。いつの頃か合理主義の私の脱衣所からは、バスタオルは消えフェイスタオルだけが残ったのだ。

 ある日、職場でそんな話しをしてみると、たかが「お風呂上がりに身体を拭く」という何でもない行動に、驚くほどの違いがあることに気付かされた。斯くして昼休みの医局は、バスタオルをきっかけに論争が巻き起こったのだ。

 まず話題になったのが、そもそもバスタオルは毎日洗濯するか?ということだ。ある人は「きれいな身体を拭くのだから、そのまま乾かして数回使ってから洗濯すればいい」と言い、またある人は「風呂上がりに汗をかくのだから毎回洗濯する」という。人によっては「うちの家族はバスタオルの所有者が決まっていないし、使いまわししている」というのだ。

 次に話題になったのが、タオルは何枚使うのかということ。「髪の毛のタオルドライは別のタオルで・・」「顔は専用のふわふわのタオルで・・」「身体も髪も一枚のバスタオルで・・」と実にさまざまな意見があった。

 皆、自分は普通だと思っているから、お互いの意見を聞いてはカルチャーショックを受けているようだった。

 もっとも、私自身フェイスタオルで身体を拭くことが世の中の「普通」のことと思っているわけではないが、特別おかしなことだとも思ってはいない。だから同僚に「やだぁ信じられな〜い銭湯にいるオヤジみたい」と言われた時は、少しばかりショックだった。

 バスタオルに限らず、髪を洗うときは上向きか下向きか?目玉焼きにかけるのはケチャップかソースか塩コショウか?はたまた醤油か?など・・多くの場合、自分を基準として考えるから、自分は「普通」だと思っているようだ。歯科に関する生活習慣も同じである。

 私が、口腔衛生指導をするとき「○○さんはどのような磨き方をしていますか?」と患者さんに尋ねる。すると大半の人は「こんな風に普通に磨いています」といつもの磨き方を披露してくれる。しかし、その「普通」だと思っている磨き方の多くは、理想的でないのが現状だ。

 ブラッシングの回数や歯ブラシの交換時期にしてもそうだ。「普通に・・歯磨きは、起きた時だけです」とか「歯ブラシは普通に・・年に一度交換しています」など、私たちからしてみれば「ウェ〜〜」と思うようなことを、まことしやかに言ってのけるのだ。

 「自分の常識は他人の非常識」というが、自分では当たり前のようにおこなっている「普通」のことが、他人には「ハテナ?」ということもある。

 それが、健康に左右しなければ問題はないが、健康を脅かすのであれば、放っておくわけにはいかない。だからこそ患者指導が必要なのだ。

 患者さんの中には生まれてこのかた、自己流で磨いているという人や、大昔に習ったという磨き方を、数十年も続けてきたという人もいる。

 今まで、何の疑問も感じずに、これが「普通」だと思って生きてきた人に対して、「あなたの磨き方は間違っています」と言ったら患者さんはどう受け取るだろうか?患者指導のアプローチの仕方は患者さんによって異なるが、自分のことを否定されたり、笑い飛ばされていい思いをする人はいないだろう。

 今の行動を否定するということよりも、理想的なブラッシングを提案するという方に重点をおいてお話しした方が良いと思うのだ。さらにそれぞれに合ったモチベーションをうまく結びつけていけば、患者さんは「普通」だと思っていた、今までの生活習慣や歯磨き習慣に問題があることに気付き、改善へと向かう第一歩を踏み出してくださるに違いない。

歯科衛生士 田樽 ハイジ

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