第6回 実験的歯科医院奮闘記(6) 新聞記事の威力

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 閉院間近を思わせるほどの不入りだったクリニックを,一変させたのが新聞記事だった.医療ルネッサンスの題で人気を博している読売新聞の欄に,私が登場したことがきっかけだった.

 平成19年5月,九州は福岡で行われた補綴歯科学会において,接着ブリッジをテーマにしたシンポジウムでの私の講演を,読売新聞医療情報部のW記者が聞いていてくれていたのが,まさに起死回生の一打となった.ご承知のように接着ブリッジは両隣接歯をあまり削除せずに,ブリッジによる欠損修復ができることを大きな特徴としていた.接着性レジンの開発と共に,すでに,20年以上も前から行われていた術式だが,すぐに脱離する,形成や装着作業が面倒である,保険適応ではない,審美性に劣る,自費にしても他の技法に比べれば儲けが少ない,などなどの理由で,すでに多くの歯科医からは捨て去られていた.

 シンポジウムの企画は長崎大学の熱田充教授の発案で行われたが,幾人かのシンポジストの候補が辞退して,熱田教授とは旧知の私にお鉢が回ってきたらしい.私としても,大学時代はパーシャルデンチャーの教室に属していたので,接着ブリッジは,いわば隣のクラウン・ブリッジ学教室の専門で,私は趣味?で行っていたに過ぎない.もちろん,基礎の大学院にいた関係で接着材の研究は行っていたが,当時の大学における縦割り社会の常で,いうならばブリッジの研究は不可侵の領域であった.今考えるとおかしな話だが,私が大学にいた1970年〜1980年代では常識とされていた.

 まあ,それはともかくとして,W記者には,健全歯を削らずにできるブリッジはいたく興味を惹かれたらしい.新聞記者らしい一般人からの見方である.歯を抜かない,削らないことを強く望んでいる一般の人に,この術式を伝えれば必ずや感心を引くに違いないと考えたのであろう.

 狙いはずばり的中した.7月29日の医療ルネッサンス欄に私が前に勤務していたD生命保険会社での患者さんの写真と共に,東京クリニック丸の内オアゾmc歯科医長の安田 登が紹介されると,当日の朝から電話が殺到した.ともかく「接着ブリッジ」なるものを知りたい,自分の場合はどうかとの問い合わせと受診希望が止まることを知らなかった.

 閑古鳥に近い状態だったクリニックは,急に修羅場と化した.ともかく,ご相談におお応じましょうと,セカンドオピニオン30分5,250円と言うのを急遽設定して対応した.

 さすが3大新聞の一つの読売新聞である.数百万の読者が目を通しているのである.そこには,私が理事長をしているNPO法人あなたの健康21「歯と健康を守ろう会」のHPに「あなたの街の歯医者さん」と言うコーナーがあり,私の講習を受けてくださり,理解を頂いた全国の歯科医院のリストが載せてある.そちらにも多くの問い合わせが行ったらしいし,NPO法人の事務所にも多くの電話があった.

 一夜にして繁盛歯科医院に変身してしまったわけだが,来院した患者さんの多くが実は接着ブリッジとはなんら関係のない人が多いと言う奇妙な現実に遭遇した.この辺りの顛末は次回からにしよう.

図1  私が紹介された読売新聞医療ルネッサンスの記事

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