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2013/10/24

第4回 —太平洋の架け橋、医科・医学との架け橋、一般科学・学術との架け橋、そして次世代への架け橋をめざして—

2010年3月4日、米国ワシントンで行われた米国歯科研究学会(AADR)にて、歯科で最も権威のある学術研究賞の一つであるWilliam J. Gies Awardの本年度の受賞者が発表され、UCLA(カリフォルニア大学ロサンジェルス校)歯学部の小川隆広准教授が受賞した。本サイトのコラムでご活躍いただいている小川先生である。受賞式は7月スペインのバルセロナで行われる国際歯科研究学会(IADR)で行われるが、今回はいち早く受賞に際してのインタビューを掲載する。

Dentwave編集部 : William J. Gies Awardとはのような賞ですか?

【お話:小川先生】 Gies Awardとは、歯科医学で最も権威のある科学誌Journal of Dental Researchに掲載された論文の中から、その年の最優秀論文を選出し、その栄誉を国際ならびに米国歯科研究学会(IADRならびにAADR)が讃えるものです。つまり、その年の歯科での最高の研究に与えられる称号ということになります。今回は、我々が2008年に発表したチタンをはじめとする金属のナノ微細構造技術のオッセオインテグレーションやテッシュエンジニアリングへの応用に関する論文(J Dent Res 87:751-756, 2008)が対照となり、共同研究者である愛知学院大学解剖の猿渡れい先生、大野紀和先生、同補綴の竹内一夫先生、北海道医療大学補綴の會田英紀先生との共同受賞となりました。この場をお借りして、先生方のご尽力、そしてロサンジェルスの地で先生方の英知と情熱を結集できたことに心より感謝申し上げます。

Dentwave編集部 : 受賞研究の内容は?

【お話:小川先生】 我々は、ナノレベル(ナノとはミクロンのさらに1000分の1の単位であり、1ナノメートルとは1ミリメートルの100万分の1)の形状を様々な金属や非金属に付与する技術を開発しました。写真1はチタンにこの微細構造を付与したものです。技術的ブレイクスルーは、3つあります。一つ目は、大きさが制御可能なナノレベルの微細構造形成を、金属上で可能にしたこと。従来よりプラスティックなどの比較的軟化な表面には、リソグラフィなどの手法を用いて可能でしたが、金属面には技術的困難が伴っていました。また、写真で見るナノの突起状の構造を大きくしたり小さくしたりできるのです。2つ目は、ナノ微細構造形成技術を比較的低コストで広範囲に行うことを可能にしたことです。従来の方法では、数平方センチ以上の微細構造面を作製することは、技術的に困難であり、また相当な時間を要しました。今回の方法では、基本的に面の大きさに制約はなく、また面の大きさにかかわらず長くても、1時間ほどで完了します。3つ目に、細胞がより好むナノ形態を最適化したことです。我々は、ナノ微細構造のなかでも、300ナノメートル付近の構造がより骨を造る細胞の発育・機能に適していることを発見しました。写真2は、写真1のナノチタン上で培養された骨芽細胞です。通常のチタン上と比較して、細胞の接着、広がりが早く、いち早く骨形成を開始します。

■ 写真1

■ 写真2

実際、我々は、その技術の応用として、このナノ形態を付与したチタンをインプラントとして生体に埋入した場合、現存するミクロンレベルの形態をもつチタンと比較して、インプラントと骨の結合能が3倍以上増加することを明らかにしました。現在話題になっている同じく我々のチームから発信されたチタンの光機能化技術と併せて、世界が待ち望むインプラント技術革新の牽引役となっていくでしょう。この技術はもちろん、デンタルインプラントのみならず、整形外科インプラントにも応用できます。さらに我々は、そのナノ微細加工技術を、骨造成の際に用いる膜などの非金属材料にも応用できることも明らかにしました。再生医療への応用です。また半導体など様々な非生体材料にも、この独特の表面形態を付与することが可能なのです。このナノ微細構造技術によって、基材の表面積を飛躍的に増加させることができるからです。電池技術やクリーンテクノロジーなどの分野での応用が期待されます。このように、今回の研究は、技術革新ということに加えて、多目的でビジョンが大きいことも、受賞理由の一つになったと思います。

Dentwave編集部 : 世界的に見ても補綴・インプラントの分野から初の受賞と聞いていますが?

【お話:小川先生】 光栄なことです。このような学術研究賞では、科学や技術に実質的な前進をもたらす難易度の高い研究が選考対象となり、しかも信頼性を高めるための学際的なアプローチを伴った研究が求められます。私はチームを結成してからの7年間、「バイオロジードリブン補綴学」という新しい研究パラダイムを掲げ、これらの要件を満たす仕事を志してきました。補綴の分野にこの名誉をもたらしたことは世界的にも意義あることと思いますし、是非、次世代の若手研究者につなげたいです。また先に述べたように、補綴から全歯科への応用、そして歯科から医科、一般科学、さらには一般テクノロジーへの貢献を可能とする一例を示すことができたことは、補綴界の若手に大きな夢を与えることができたのではないかと思います。

また我々のチームはインプラントに関する学問を「研究」から「サイエンス」に引き上げるという旗も掲げました。チタンの周りに骨ができたとか、できないとかの話ばかりでなく、なぜそうなるのか、どの生物学的要素がどの材料学的要素によって制御されているのか、ということに取り組んできた成果だと思います。我々のチームはこの点において、世界をリードする立場にあると誇りに思っています。まさに今回の受賞によって、インプラントの学問が「研究」から「サイエンス」へと変わったことが示されたのはないでしょうか。

Dentwave編集部 : 先生がめざす歯科医療・歯科医学とは?

【お話:小川先生】 コラムに書かせていただく機会を頂いておりますように、私の手元には、毎日のようにメールが届き、日本の歯科の悲鳴を耳にします。日本の歯科の問題は2つあると考えます。1つは、問題の解決方法を把握していないこと。2つ目は、把握しているとしても、それを実践できる能力と情熱がある人材があまりにも少ないことです。経済破綻をはじめとして米国のシステムすべてがうまくいっているということを言うつもりはまったくありません。しかし、米国の歯科医療、歯科医学は世界で最も発展、成功している例と言えるでしょう。歴史を見ても、日本社会の多くのシステムは、数年遅れで米国を追いかけます。しかし、一部の優れた技術をもった臨床家がいることを除き、なぜ日本の歯科は、米国に近づけないのでしょうか。というより、差は開くばかりと表現したほうが的確でしょう。例えば、医歯学部研究科合併、ワーキングプアデンティストなど、米国では聞いたことがありません。答えはそこにあります。私は、歯科医師削減などの数合わせ的な策を言っているのではありません。キーワードは尊敬される歯科です。医科・医学界から、一般科学界から、学生から、そして国民から尊敬される歯科を創り上げるのです。これらのことも今後コラムに詳しく連載していくつもりです。

Dentwave編集部 : これからの活動と将来の展望は?

【お話:小川先生】 常に、Act locally, Think globallyです。米国UCLAを拠点とした教育活動、学術活動、研究活動を続けます。そして、成果は世界へと発信し、実際に世界のドクター、患者、研究者、教育者に実質的に貢献することをめざします。そのThink globallyの中には、私にとっての母国である日本も含まれ、日本の歯科改革、大学改革、学術文化の改革に取り組んでいくつもりです。当サイトのコラムに掲載させてもらっている歯科のパイを広げる成長戦略、そして日本の学術文化を歯科から変える活動などすでに開始しているものもあります(http://aprs.web.officelive.com/default.aspx)。

次世代の歯科従事者、さらに子供たちは、待ったなしで育ってきます。例えば、5年という月日は、我々にとってある意味たいした長さではありません。しかし、彼らにとっての5年は、もしそれを棒に振ったとしたら人生にとって致命的です。大学生であれば、学校を通りすぎてしまう長さです。改革は急がなければなりません。そして多くを創造しなければなりません。研究とは未来を切り拓くものです。その結果として、今回我々は名誉ある賞賛を頂いたと思っています。私は不満分子で終わるつもりはありません。歯科界の未来を切り拓くために、今、準備を急いでいます。太平洋の架け橋、歯科と医科との架け橋、医学や科学との架け橋、学術との架け橋、そして次世代への架け橋をめざします。歯科をよくするのは、歯科従事者しかいないのですから。

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