第7回 組織工学的手法による歯の再生-その3-

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 今回は、歯胚細胞から再生した組織を観察しましょう。移植20週後に取り出した移植体をヘマトキシリンエオジンで染めると、色の違いによって組織が区別できます。図1の中にアルファベットを挿入しました。Dは象牙質、Eはエナメル質、PDは前象牙質、ODは象牙芽細胞、AMはエナメル芽細胞を示しています。歯の細胞や組織はとても特徴を持っていますから、安易に識別できます。

 多くの移植実験を行うことで、移植してから15-20週経過すると象牙質やエナメル質が再生することがわかってきました。この結果の一番興味のあることは、発生過程がある程度進んだ歯冠形成期の歯胚から採取した細胞から歯が再生したということです。これは、歯を発生させる能力を持つ未分化な上皮細胞と間葉細胞が歯冠形成期の歯胚に含まれていることを示唆しています。

 次に、象牙質だけが再生されることもありますが、エナメル質だけでは再生しないこともわかってきました。エナメル質は、必ず象牙質に接しながら、象牙質が再生した後に再生されます。この結果からエナメル質は上皮—間葉相互作用が必須であるものの、象牙質は間葉系細胞のみでも再生できることを示唆しています。

 では、このエナメル質と象牙質はどのようにできたのでしょうか?これは、もっと早い時期に移植体を取り出してヘマトキシリンエオジン染色で観察すれことで、ある程度わかってきます。移植してから4週、8週、12週、そして15週の間隔にて移植体を取り出しました。一度、移植したものを取り出すと、元には戻せませんから、何回も同じ実験を行い、取り出す時期を変えるわけです。

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歯胚細胞から歯が再生する過程を観察した結果を写真2でお見せします。写真には示していませんが、移植後4週までは明らかな変化は観察されませんでした。移植後6週になると長円形細胞の凝集が観察されます(図2−A)。 この凝集している細胞は上皮細胞に特異的に染める抗体で強く染まりましたので、これらは上皮細胞であることが確認できます。この上皮細胞の周囲にいる細胞は間葉系細胞に特異的に染まる抗体に強く染まりました。この上皮系細胞の凝集とその周囲に凝集する間葉系細胞による組織形成が、担体中で観察できる最初の現象です。移植後10週になると、上皮組織は徐々に大きくなり、上皮組織内には星状網細胞や中間層細胞が観察されます。 この時期になると、エナメル上皮組織を構成するすべての上皮細胞が観察できます(図2−B)。さらに経過すると内エナメル上皮細胞はエナメル芽細胞に、歯乳頭細胞は象牙芽細胞に分化し、象牙芽細胞側に象牙質が、エナメル芽細胞側にエナメル質が再生します(図2-CとD)。この再生組織の発生過程は、形態は天然歯と異なるものの類似しています。つまり、形態を整える機構が解明できれば、歯を再生させる技術の確立に近づくことになりますが、まだ他の問題点も残されています。次回は、それらの問題点について考えます。

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