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歯科医療に再生医療をどう取り入れる?~研究・臨床・法務から考える~

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歯科医療に再生医療をどう取り入れる?~研究・臨床・法務から考える~

再生医療は、歯科医療にどのような可能性をもたらすのでしょうか。

「幹細胞を使った治療」と聞くと、細胞を培養して患者に戻す治療をイメージする方も多いのではないでしょうか。しかし、いま注目されているのは「細胞そのもの」だけではありません。細胞が分泌する成分や細胞外小胞(EV)に着目した研究も進み、歯科領域への応用が期待されています。

一方で、こうした新しい技術を臨床で扱うには、その可能性だけでなく、安全性・品質管理・患者への説明・法制度など、さまざまな視点から考えることが欠かせません。

今回、Dentwave編集部は「歯髄幹細胞再生医療フォーラム2026」を取材しました。講演では、研究・臨床・法務、それぞれの視点から再生医療の可能性と課題が語られました。

そもそも、「歯髄幹細胞」とは?

歯髄幹細胞とは、歯の内部にある歯髄に含まれる幹細胞のことです。親知らずなどの抜去歯から採取できることに加え、発生学的には「神経堤由来」という特徴を持っています。

近年では、歯髄幹細胞そのものだけでなく、幹細胞が分泌する成分(培養上清)や細胞外小胞(EV/エクソソーム)に着目した研究も進められています。

今回のフォーラムでは、こうした歯髄幹細胞の研究から臨床応用、さらに安全に取り扱うための法制度まで、幅広いテーマが取り上げられました。

細胞そのものではなく、“分泌成分”を活かすという考え方 抜去歯(親知らず 等) 歯髄幹細胞を採取・培養 培養上清・エクソソーム(EV) 歯科臨床で活用(痛み・炎症 等) ※当日の講演内容をもとに編集部で作成した概念図です。
歯髄幹細胞を用いた再生医療の考え方(イメージ)

再生医療を「安全に扱う」ために――フォーラムに込められた思い

再生医療には大きな可能性が期待される一方、臨床で扱うには、安全性や品質管理、患者への適切な情報提供など、さまざまな課題があります。

研究会代表の吉見洋志先生は、講演冒頭で「よくわからない事業者も動いている分野。先生方が悪い方向に陥らないよう、みんなで安全に取り組みたい」と、研究会を立ち上げた背景を説明しました。

本フォーラムでは、研究・臨床・法務の3つの視点から、歯髄幹細胞を活用した再生医療の可能性と、安全に取り扱うための考え方が紹介されました。

【写真①:会場には歯科医師のほか医師(MD)も含め、多くの参加者が集まった】

【特別講演】幹細胞研究の基礎から臨床応用まで

特別講演には、鶴見大学 歯学部 口腔内科学講座 教授/副学長の里村一人先生が登壇しました。

講演では、幹細胞の基礎から歯髄幹細胞の研究背景まで幅広く解説。幹細胞にはさまざまな種類があり、それぞれ由来や性質が異なることから、「幹細胞」と一括りにせず、その特徴を理解することが重要だと説明しました。
さらに、歯髄に存在する幹細胞にも触れ、その研究の背景や歯科医療との接点について紹介しました。
【写真②:特別講演に登壇した里村一人先生(鶴見大学 歯学部 教授/副学長)】

「細胞」から「分泌成分」へ
再生医療では、幹細胞を培養して体内へ戻す「細胞移植」が知られています。一方、近年は幹細胞そのものだけでなく、幹細胞が分泌する成分にも注目が集まっています。

里村先生は、細胞が分泌する因子や細胞外小胞(EV)が周囲の細胞に与える影響について解説。こうした「細胞が分泌するもの」に着目した研究や、その応用の可能性についても紹介しました。

幹細胞 多能性幹細胞ES細胞・iPS細胞 体性幹細胞体の中に存在する幹細胞 組織幹細胞例:造血幹細胞 間葉系幹細胞MSC ★注目 骨髄 / 脂肪 / 臍帯 / 歯髄 歯髄は低侵襲な供給源として注目
幹細胞の分類(講演内容をもとに編集部作成)。歯髄幹細胞は間葉系幹細胞(MSC)の一つ。

【法務講演】再生医療を取り巻く法制度・安全な導入

安確法と薬機法、何が違う?
菊池不佐男先生は、再生医療等安全性確保法(安確法)と薬機法の関係を中心に解説しました。

安確法は、医療機関が再生医療等を提供する際の安全性や手続きなどを定める法律。一方、薬機法は、医薬品や医療機器などの製造・販売等を規制する法律です。

両者は規制する対象や場面が異なるため、再生医療を臨床で扱う際には、それぞれの適用関係を理解しておく必要があります。

また、承認された製品であっても、承認された効能・効果や用法・用量とは異なる形で使用する場合には、別途法的な整理が必要となるケースがあると説明しました。

【写真③:法務講演に登壇した菊池不佐男先生(菊池法律事務所 弁護士)】

安確法 再生医療等安全性確保法 医療機関が行う「医療行為」 院内調製・オーダーメイド/自由診療 → 事前に委員会審査などが必要 薬機法 医薬品医療機器等法 企業が製造・販売する「製品」 規格化・大量生産される製品 → 製品としての承認・広告規制 エクソソーム・培養上清 今後、法規制の対象化が検討されている(2027年頃を目途)
安確法と薬機法の住み分け(講演内容をもとに編集部作成)。

「効果」だけでなく、リスクや不確実性も伝える
未承認の医薬品等を用いる場合、期待できる効果だけでなく、患者が治療を判断するために必要な情報を十分に説明することが重要だと、菊池先生は強調しました。

説明すべき事項として挙げられたのは、以下のような内容です。

  • 未承認であること、考えられるリスク・副作用
  • 代替となる治療法の有無、国内での承認状況
  • 代替となる治療法の有無、国内での承認状況
  • 医薬品副作用被害救済制度の対象外となること

「良い結果が期待できる」という情報だけでなく、治療の不確実性やリスクも含めて伝えること。新しい治療を扱うからこそ、患者が十分な情報をもとに判断できるよう、インフォームド・コンセントを行うことが重要になります。

エクソソーム・培養上清をめぐる規制の動き
エクソソームや培養上清については、現在の取り扱いだけでなく、今後の制度動向にも注意が必要です。

厚生労働省は2024年7月31日、「エクソソーム試薬に係る監視指導について」を通知。医療機関向けに「エクソソーム試薬」として広告・販売される製品について、医薬品的な効果・効能を標ぼう・暗示するものなどは、薬機法に基づく指導の対象となり得ることを示しています。

さらに、2024年の法改正では、細胞の分泌物などを用いる先端的な医療技術について、再生医療等安全性確保法などの法律をどのように適用するか、施行後2年を目途に検討することが附則に盛り込まれました。

再生医療をめぐる制度は変化しているため、現行のルールだけでなく、今後の動向も確認しながら臨床での取り扱いを考える必要があります。

【臨床・経営講演】再生医療がもたらす新しい治療の取り組み

続いて登壇したのは、医療法人隆聖会 理事長、歯髄幹細胞再生医療研究会 代表の吉見洋志先生です。

講演では、歯髄幹細胞を活用した研究の考え方から、培養上清や細胞外小胞(EV)を用いた臨床経験まで、具体的な事例を交えながら紹介しました。

「細胞そのもの」から「細胞が分泌する成分」へ
従来の幹細胞治療では、幹細胞を培養して体内に戻す「細胞移植」が中心的な考え方でした。一方、近年は、幹細胞そのものだけでなく、幹細胞が分泌する成分が周囲の細胞に作用することにも注目が集まっています。

吉見先生は、こうした「細胞が分泌するもの」に着目し、培養上清やEVを活用する可能性について解説。エクソソームについても、厳密にはEVの一部を指す言葉であることを説明したうえで、講演では広い意味で「エクソソーム」という表現を用いるとしました。

【写真④:臨床・経営講演に登壇した吉見洋志先生(歯髄幹細胞再生医療研究会 代表)】

「移植して置き換える」から「分泌成分を活かす」へ 幹細胞培養して増やす 培養上清・EV(分泌される“情報”) 標的細胞炎症抑制・修復促進 分泌 作用 細胞を移植しなくても、分泌された成分が周囲の細胞に働きかける(パラクライン)
吉見先生が着目する「分泌成分(パラクライン)」の考え方(編集部作成)。

なぜ「歯髄」なのか? 研究で重視される品質管理
では、数ある幹細胞のなかで、なぜ「歯髄幹細胞」なのでしょうか。

吉見先生は、歯髄がエナメル質や象牙質に囲まれ、外部からの刺激を受けにくい環境にあることに加え、歯髄幹細胞が「神経堤由来」である点にも着目していると説明しました。

一方で、細胞の特徴だけで臨床応用の可能性が決まるわけではありません。実際に活用するうえで重要になるのが「品質管理」です。

同じ歯髄幹細胞由来のものでも、細胞の由来や培養方法、継代数などによって、得られる成分が変わる可能性があります。

吉見先生は、自院では継代を3代で止める方針を紹介。「どの細胞を、どのように培養したのか」という過程まで含めて評価することの重要性を語りました。

炎症から「痛み」へ――「歯が痛い=歯が原因」とは限らない
講演後半では、炎症や疼痛についても話題が及びました。

吉見先生は、慢性疼痛では末梢の炎症だけでなく、「中枢性感作」やミクログリアなどの神経炎症も関係すると説明。また、側頭筋や咬筋などの筋・筋膜性疼痛が、歯や耳などに「関連痛」として現れるケースも紹介しました。

「歯が痛い=歯に原因がある」とは限らないからこそ、痛みの場所だけで判断せず、筋・神経・中枢神経系まで含めて原因を考えることが重要だとしました。

【写真⑤:「どの筋を押すと、どの歯が痛むか」。咀嚼筋などによる関連痛のマップを示しながら解説】

43症例から見る臨床応用の課題
講演では、吉見先生が自院で経験した口腔・顔面領域の疼痛43症例についても紹介しました。治療前後の疼痛スコアの変化を示し、実際の臨床経験から、培養上清やEVを用いた治療の可能性について解説しました。

一方で、これらは単一施設の臨床経験に基づくデータです。治療の有効性を確立するためには、今後さらに症例を蓄積し、複数施設で検証していく必要があります。

吉見先生自身も、一つの医療機関だけでデータを集めるのではなく、複数の歯科医院で症例を蓄積していくことの重要性を語りました。

編集部まとめ|「可能性」と「責任」をどう考えるか

今回のフォーラムで印象的だったのは、再生医療を単に「新しい治療」として捉えるのではなく、安全性・品質管理・患者への説明・データの蓄積・法的な整理まで含めて考える必要があるという点でした。

1つの症例で良好な結果が得られたとしても、それだけで治療の有効性を判断することはできません。症例を積み重ね、複数施設で検証することで、再現性や適応について客観的に評価していくことが求められます。

だからこそ、「何ができるのか」だけでなく、「どこまで分かっているのか」「どのような根拠があるのか」「どうすれば安全に提供できるのか」という視点が欠かせません。

今回のフォーラムは、歯髄幹細胞を起点に、研究・臨床・法務というそれぞれの視点から、歯科医療における再生医療の「これから」を考える機会となりました。

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