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“歯科界のノーベル賞”を、日本から。NSK Blue Prize創設に込めた想い ── 公益財団法人NSKナカニシ財団 代表理事 中西英一 氏

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財団の原点は、「大学に行けなかった」という一つの想い

NSKナカニシ財団の設立は2016年。まず伺ったのは、なぜこの財団が生まれたのかという原点でした。
「ナカニシは1930年の創業以来、歯科用のハンドピースを製造・販売して今に至ります。そのベースがあったうえで、私の父であり先代社長でもある会長には、強い想いがありました。会長自身は高卒で、大学に行けなかった。だからこそ歯学の発展に貢献したい、と」

当時も今も、奨学金を借り、返済を抱えながら学ぶ苦学生は少なくありません。
「会社として、会長として何かできないか。そう考えて、志の高い苦学生を支援する奨学金制度を作った。それがこの財団の出発点です」


「歯学の未来をつくるのは、結局のところ“人”」と語る中西氏

以来、財団の支援は着実に広がってきました。2026年4月現在、給付型奨学金は延べ362名、研究開発助成は58件・総額149,900千円、海外留学助成は4名。中西氏は、その手応えをこう振り返ります。
「奨学生は、すでに国家試験に合格して臨床の現場で活躍している人もいれば、大学に残って研究を続けている人もいます。奨学金があれば、アルバイトの時間を減らして勉学に集中できる。奨学生からは本当に感謝されていて、歯学の教育に貢献できていると感じています」

研究開発助成についても、国の研究予算への状況を鑑みて、歯科医学の発展のためには研究への助成を通じて研究を加速させる必要があると考えます。
「NSK ナカニシ財団としてこれまで、研究開発助成についてはそれなりの規模の助成を行っており、研究者の方々にとても喜ばれています。留学助成も、今の超円安で生活費の工面が難しいなか、アメリカやヨーロッパで最先端の研究をしたいという人を支えている。将来、彼らが日本に戻ってグローバルレベルの研究や臨床をしてくれることに、大きな期待を持っています」

\ 第1回 推薦募集中|2026年12月20日まで /

▶ NSK Blue Prize 特設サイト

  • ※推薦は学会の代表者、または候補者が所属する機関の長からご提出いただけます
  • ※受賞者3名/賞金1,000万円・賞牌・賞状/選考結果は2027年3月に通知予定

「削る機械」ではなく、「予防する機械」を

中西氏が歯科医学の価値にこだわる背景には、自社の事業そのものを転換させた経験があります。
「ナカニシは創業以来、タービンやコントラといった“歯を削る”回転機器がメインでした。虫歯になった歯を治療する製品です。しかし私が社長になる直前から、これからは予防歯科の時代だろうと考え、“削る機械”ではなく“予防する機械”を作ろうと、自分のイニシアティブで超音波スケーラーの開発を始めました」

歯石を除去する超音波スケーラー「バリオス」の第一号機が世に出たのは2001年。その開発を支えたのが、予防歯科の第一人者・熊谷崇氏(医療法人社団日吉歯科診療所理事長/山形県酒田市)との出会いでした。


「“削る機械”ではなく、“予防する機械”を」──予防歯科への確信

「開発段階でご指導くださったのが熊谷先生でした。実際に山形の先生のところへ足を運び、教えを乞いました。先生も非常に温かく支援してくださり、いろいろなことを教えてくださった。以来20年以上のお付き合いになります」

熊谷氏は、患者一人ひとりのリスクを評価して予防管理を行う「メディカルトリートメントモデル(MTM)」を世界で初めて臨床モデルとして体系化した人物として知られます。中西氏は、その姿勢にこう触れました。
「“死ぬまで自分の歯でいられる歯科医療をしなければダメだ”という、信念の塊のような先生です。一番は国民のために、という熱い想いと熱意を、いつも感じてきました。だからこそ自分も、歯科業界にいる者として、それを実現する一助になりたいと思ってきたのです」

アワード事業は、財団設立時から描いていた夢だった

奨学金、研究助成、留学支援。その積み重ねの先に生まれたNSK Blue Prizeですが、「単に思いついた事業」ではないと中西氏は言います。
「このアワード事業は、実は財団を作るときから、いつか必ずやりたいと思っていました。最初からできることではないので、まず奨学金制度を作り、地道に準備を重ねてきた。将来的にアワード事業をやりたい、とずっと考えていたのです」

その理由は、歯科医学が置かれている状況への強い問題意識にありました。
「歯の健康は全身の健康にとって一番大切なものなのに、歯科医学の大切さは、まだ世界の人々に十分理解されていないと感じます。世界で最も有名な賞といえばノーベル賞ですが、ノーベル医学賞で歯科医学の研究者が受賞したことは、おそらくない。だからこそ、そこに世界の目を向けられるような賞を作って、歯の健康と歯学の大切さを世界に広めたいと考えました」


「20年、30年かけて、権威ある賞に育てていきたい」

「作る以上は、誰もが認める権威ある賞にしたい。1年や5年では無理でも、20年、30年かけて“歯学のノーベル賞”と呼ばれる存在に育てていきたいのです。それが、歯科医療に携わる研究者のモチベーションにも、プライドにもなるはずです」

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  • ※受賞者3名/賞金1,000万円・賞牌・賞状/選考結果は2027年3月に通知予定

会社の意向は、一切入れない ── 独立した国際選考委員会という設計

NSK Blue Prizeの選考には、株式会社ナカニシの役員・社員が一切関与しません。この設計思想について尋ねました。
「権威ある賞にするためには、私的な会社の意向が入ってはいけません。それではフェアになりませんし、コマーシャルになってしまう。だからこそ、第三者で権威のある方々に委員になっていただき、その方々に選考して賞を授与する。これが今回の賞の基本だと考えています」

選考委員には、分野を網羅できるよう、権威と経験、そして高い見識を備えた人物が選ばれているといいます。
「分野は非常に幅広いので、各分野を網羅できるよう、その中でも権威と経験があり、知見が高く、人格的にも優れた方々を選んでいます」


公平性の担保こそが、賞の権威をつくる

研究で終わらせない ── 4つの対象分野に込めた思想

NSK Blue Prizeの対象は、基礎研究にとどまりません。基礎科学、臨床・トランスレーショナル研究、技術革新、社会的・グローバルな健康への影響。この4分野の設定にこそ、中西氏の歯科医学観が表れています。


「歯の健康は、研究だけでは解決できない」

「ノーベル医学賞のように、賞の対象は研究=サイエンスに絞られるのが一般的です。しかし歯学は、研究だけでなく、臨床や、実際に人々の歯の健康に携わることまで、多面的にイノベーションが生まれる領域です。研究だけで止まってしまっては、実際の人々の健康には直結しません」

さらに中西氏は、歯科疾患の本質に踏み込みます。
「歯は、いわば生活習慣病です。生活習慣を変えなければ良くならないし、一人ひとりの意識も、社会全体で一緒に変えていくことも大切です。良い薬ができたら終わり、ではない。研究+臨床+実生活という広い範囲を対象にした。それがこの4分野です」

それぞれの分野について、中西氏は次のように説明します。
① 基礎科学:口腔衛生における生理学的・生物学的メカニズムの解明。虫歯を防ぐ薬品などのメカニズムも対象。
② 臨床研究・トランスレーショナル研究:研究の知見をもとに、治療機器・薬品・材料など、実際の歯科医学で使われる段階でのエポックメイキングな技術・薬品。
③ 歯科医療における技術革新:実用化に向けたイノベーション。
④ 社会的・グローバルな健康への影響:啓蒙的なリーダーシップを持ち、歯科医学を大きく変えた業績。

この賞が生む変化について、中西氏はこう期待を語ります。

「歯科医学の中にノーベル賞のような権威ある賞ができ、その頂点を目指して研究者が頑張る。歯科医学の発展に貢献したいと思える人が増えていく。そういう変化を望んでいます」

なぜ「Blue」なのか ── 名称に込めた三つの意味

賞の名称にある「Blue」。そこには、重ねられた意味がありました。


「ブルーは、生命の起源の色だと思うのです」

「地球もブルー、海もブルー。生命の起源は海から生まれ、生命は常にこのブルーを見てきました。海の中から空を見上げると、太陽の光で美しいブルーに見える。ブルーは、生命の起源の色だと思うのです。同時に、私たちは日本にいますから“ジャパンブルー”という意味もある。そして、ナカニシのコーポレートカラーもブルーです。そうした意味を重ねて、『ブルー』という言葉を選びました」

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  • ※受賞者3名/賞金1,000万円・賞牌・賞状/選考結果は2027年3月に通知予定

日本は、歯科医療が人々の健康に最も貢献できる国

最後に、日々診療にあたる国内の歯科医療従事者へのメッセージを伺いました。中西氏がまず挙げたのは、日本が世界最速で迎えている高齢社会でした。


「一緒に歯科医療を盛り上げていきたい」

「先日発表された人口統計では、65歳以上の高齢者の割合がほぼ30%近くになりました。日本は世界でも最速で高齢化が進む国です。だからこそ、日本は歯科医療が人々の健康に最も貢献できる国だと思っています」

「国民の健康を維持するために、やるべきことはたくさんあります。歯科医療従事者の皆さんにはぜひ頑張っていただきたいですし、我々NSKナカニシ財団も、さまざまな場面で支援していきます。一緒に歯科医療を盛り上げ、最終的には国民の健康、そして全身の健康を実現できるよう、力を尽くしていきたい」

そして、学会・大学・研究機関に関わる読者へ。推薦は、学会の代表者または候補者が所属する機関の長から行われます。
「今回は記念すべき第1回です。将来的には“歯科界のノーベル賞”と呼ばれる権威ある賞にしたいと思っていますが、第1回にはまだその権威はありません。だからこそ、その第1回の受賞者になっていただきたい。世界に誇れる研究をされている方がいらっしゃれば、ぜひこの賞のことをお伝えください。たくさんのご応募をお待ちしています」

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  • ※受賞者3名/賞金1,000万円・賞牌・賞状/選考結果は2027年3月に通知予定

編集後記

今回の取材で最も印象に残ったのは、“歯科界のノーベル賞”という壮大な構想が、「大学に行けなかった」という先代会長の個人的な原体験から地続きにつながっていたことでした。
苦学生に奨学金を出す。研究者を助成する。留学を支える。そして、世界の研究を顕彰する。支援の対象は年々広がってきましたが、その根にあるのは一貫して「歯科医学に携わる人を支えたい」という一つの想いです。「削る機械」から「予防する機械」へと事業の軸を移した20年前の決断もまた、同じ地層の上にありました。
「20年、30年かけて育てたい」。中西氏は賞の未来を、そう静かに語りました。第1回にはまだ権威がない——そう率直に認めたうえで応募を呼びかける姿勢に、この挑戦の本気度が表れているように感じます。日本から始まる“歯科界のノーベル賞”は、いま、その一歩目を踏み出したところです。

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