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歯科医療従事者の皆様へ、口腔の健康が全身のウェルビーイングに及ぼす影響について、これまで以上に重大なニュースが海外から届きました。

米国サウスカロライナ大学のセン教授ら海外の研究者が主導した2つの最新研究により、歯周病およびう蝕が、脳の微小血管病変や虚血性脳卒中の発症リスクと強い関連が認められたという報告が出ました(因果関係を直接証明するものではありません)。
これらのエビデンスは、日々の臨床における予防的ケアが、患者様の長期的な脳の健康と生命予後を左右する重要な役割を担っていることを示しています。

衝撃の海外研究 歯周病とう蝕が脳卒中リスク約2倍に直結するメカニズムを解明

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海外発の警鐘 歯周病と脳微小血管病変の独立した関連

第1の研究では平均年齢77歳の高齢者1,143人を対象とし、脳の健康状態を詳細に把握するためにMRI脳スキャンを解析しました。
ここで焦点を当てられたのは、脳卒中や認知機能障害のリスクと関連する脳微小血管病変の指標である白質高信号域(WMH)の容積です。
WMHは脳の小血管の損傷を示します。

海外の研究者らは、歯周病を持つ参加者が高血圧や糖尿病といった既知の主要な血管リスク因子で統計的に調整した後でも、このWMHの容積が有意に大きいことを発見しました。
この知見は、口腔内の慢性炎症が他の全身リスクとは独立した経路で脳の微小血管損傷を引き起こす可能性を強く示唆しています。
セン教授は「口腔内の炎症を標的とすることで脳微小血管病を軽減する新たな道が開かれるかもしれない」と述べています。

※本研究は脳画像と歯科検査を単回測定で評価した横断的解析を含むため、時間的因果を直接示すものではありません(微小出血やラクナ梗塞との関連は認められませんでした)。

歯周病とう蝕の複合リスクが虚血性脳卒中リスクを約2倍に押し上げ

第2の研究は、平均年齢63歳の約6,000人の成人をベースラインで検査し、その後約20年間追跡調査した大規模な疫学データが活用されました。
研究の目的は歯周病単独、あるいはう蝕との複合的な病態が虚血性脳卒中の発症リスクにどのように影響するかを調べることでした。

解析の結果、口腔の健康状態が最も良好なグループと比較して歯周病とう蝕の両方を持つ参加者は、主要な血管リスク因子を調整した後でも、虚血性脳卒中のリスクが約2倍(ハザード比1.86)になるという事実が判明しました。
この結果は、脳卒中の発症率が口腔の健康状態の悪化に伴って上昇する「口腔健康勾配」が全身疾患リスクに明確に反映されていることを裏付けています。

※このリスク上昇は観察データに基づく関連の結果であり、口腔状態はベースライン時の1回の評価に基づいています。

予防的ケアの重要性の再認識 全身の血管リスク軽減への貢献

この海外の研究結果は、従来の「口腔ケア=咀嚼機能維持」という機能を主とした枠組みを超え、全身の血管リスク軽減に寄与する可能性としての歯科医療の価値を決定づけるものです。
多数の先行研究で、口腔内の慢性炎症が全身性の炎症マーカーを上昇させ、細菌の血行性移行や炎症が血管内皮に影響を与え、動脈硬化や血栓形成に関係する可能性が示唆されてきました。

セン教授は、この結果が「包括的な予防的ケアの全身的な関連性を強調するものだ」と重ねて強調しています。
我々歯科医療従事者は、歯周炎やう蝕を徹底的に管理し炎症負荷を軽減することで、脳血管イベントのリスク低減が期待される可能性があり、臨床的にも予防的ケアの重要性が再確認されます。
ただし、今回の結果は主に観察データに基づく示唆であり、介入試験による因果証明が待たれます。

臨床現場への応用 リスクアセスメントと医科連携の強化

これらの最新の知見を臨床に活かすためには、従来の歯科診療の枠を超えたアプローチが求められます。

口腔内炎症の徹底管理と複合病態への対応:歯周病とう蝕の複合的な病態を持つ患者様は、特に脳卒中ハイリスク群として認識し、より積極的で包括的な治療(歯周基本治療、う蝕の早期修復、徹底した口腔衛生指導)の計画と実施が不可欠です。

脳血管リスクの意識と患者教育:歯周病や多発性う蝕の患者様に対し、単なる局所的な問題としてではなく、脳卒中といった長期的な全身リスクとの関連性を明確に伝え、治療・メインテナンスへの動機づけを強化する必要があります。

医科との情報共有と連携強化:重度の口腔内炎症を持つ患者様で、高血圧や糖尿病などの血管リスク因子を持つ場合、口腔内の状態を全身管理の一環として認識してもらうため、かかりつけ医科への情報提供や連携体制の構築が喫緊の課題となります。

まとめ

海外の研究者によって示されたこの最新データは、我々歯科医療従事者が果たすべき役割の重大さを改めて浮き彫りにしています。
歯周病とう蝕の複合リスクが脳卒中リスクを約2倍にするという事実は、日々のプラークコントロール指導やメインテナンスが、患者様の「命を守る」行為に直結していることを示します。

もはや、口腔ケアはローカルな問題ではありません。
全身の炎症と血管病変を制御する「全身医療の最前線」として、Dentwaveでは今後も口腔と全身疾患の関連性に関する新たなエビデンスや、それに基づく臨床ガイドラインの動向を継続的に注視していきます。

出展

・Meyer J. et al. (2025). Periodontal disease independently associated with white matter hyperintensity volume: A measure of cerebral small vessel disease. Neurology® Open Access.

・Wood S., Sen S. et al. (2025). Combined Influence of Dental Caries and Periodontal Disease on Ischemic Stroke Risk. Neurology® Open Access (AANプレスリリースにて要約掲載).

・American Academy of Neurology (AAN) Press Release (October 22, 2025)

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