第1回 長者番付けがなくなる!?

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はじめまして。税理士の若林理恵と申します。今後このコラムでは皆さんにちょっと気になる税のお話や情報をお伝えしていこうと思っています。普段はちょっと遠慮しがちな税金のお話を簡潔に易しくお話するというコラムです。大切な税法の改正や注意点なども盛り込んでいきますのでよろしくお願いいたします。第1回目はマスコミでも毎年騒がれている長者番付についてです。 長者番付けがなくなる!? 政府はこのほど平成18年国税関係税制改正案(所得税法等の一部を改正する等の法律案)を国会に上程しました。この法案は予定では3月末頃に成立し、4月1日に施行となる見込みです。その中で申告書の公示制度を廃止することが盛り込まれています。この申告書の公示制度とは世間一般に言われるところの長者番付の公表制度のことです。 この長者番付とは正しくは高額納税者公示制度といい、所得税法第233条と所得税法施行規則第106条で規定され、毎年5月16日から5月31日までの間、所得税額が1000万円超の方々を全国の税務署で公示しています。 わが国では1947年にこのシステムが導入され、その目的としては公表することにより第三者のチェック機能を働かせることにありました。つまりあの人はあんなに稼いでいるのに何でリストに載っていないんだろう・・・というような素朴?な疑問を寄せてもらうためのものでした。以前はこれに加えて第三者通報制度までも導入されていて、情報提供者に対して報奨金を支払う制度までもありました(1954年に廃止)。 しかしながら問題点も多く指摘されていたのも事実です。この高額納税者のリストは各税務署ごとに公示されますが、このリストをマスコミの方々やデータ会社などが集計して長者番付として発表し、さらにはデータベース化され市販までされています。このため高額納税者の名簿に載ったことによって、各種団体や企業等からの寄付の要請、営業、勧誘活動さらには犯罪に巻き込まれるケースまで出て来ています。つまり氏名、住所及び納税額がバッチリと載ってしまうわけですから、「花咲かじいさんのここ掘れワンワン」ではないですが、お金持ちの住所録ということになります。 2005年度のランキングでは初めてサラリーマンの方が全国1位になったと話題になりましたが、その所得税額は369,238万円で投資顧問会社の運用部長さんだったようです。歌手では宇多田ヒカルさんが36,595万で1位、俳優・タレントではみのもんたさんが20,101万で1位でした。 しかしながら世の中にはこういった公示リストに載りたくない又は前述のリスクを避けるためにわざと公示逃れをする方も多くないとの噂もあります。この高額納税者の公示対象は毎年3月31日までに提出された申告書に限られることから、所得税を1,000万円を超えない額で申告しておいて、4月1日以降に修正申告を行えばリストには載らないことになります。ただし場合によっては本来の正しい申告を行わず、後から間違えてましたと申告し直すわけですから、過少申告加算税や延滞税等の加算税を支払わなければならなくなる可能性もあります。これは避けたいという方の中には住所を変えて申告される方もいるようです、つまり転居して転居先の税務署に申告書を提出するという方法です。この場合は公示はされますが、前述のリスクはかなりヘッジされるという考え方です。 しかしながら世の中は面白いものでこのリストに載ってみたいという方もいるようです。その場合でも同じように税額が多い申告書を提出すれば公示されるわけですから所得番付1位も可能性としてあるでしよう。ただし納税しないと延滞税がかかりますので要注意ですし、更正の請求といって申告を訂正することも可能ですがリスクはあります。 こういった背景があることから平成17年6月2日公表の政府税制調査会「個人所得課税に関する論点整理」の中で次のように提言されています。「公示制度は、第三者の監視による牽制的効果の発揮という目的で設けられたものである。しかしながら、近年においては、所期の目的外での利用や、犯罪や嫌がらせの誘発の原因となっていることについて種々の指摘がなされている。また、本年4月の個人情報保護法の施行を受け、国の行政機関が保有する個人情報については、その適正な取扱い確保に向けた要請が今後高まっていくものと想定される。一部に存続すべきとの意見もあるが、前述の事情を勘案すれば、本制度については、廃止を検討すべきである。」 この意見をふまえて前述のように所得税の改正が行われ、この制度は廃止の方向で決まったようです。昨今の風潮では、自分は自分、他人は他人という傾向が強くなっていますので、他人がいくら稼いでいるかなんてあまり興味がないという方も少なくはないのではないですかねえ。みなさんはどのようにお考えになりますか?

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