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TBSの報道番組「Nスタ」では、「銀歯を作れば作るほど、1本あたり約6,300円の赤字になる」という、歯科医院の切実な実情が報じられました。
これは決して誇張ではなく、現在の保険診療制度における構造的な歪みを象徴する事例と言えます。
本稿では、現場で今何が起きているのか、その背景と制度上の課題について整理し、解説いたします。
【逆ざやの衝撃】貴金属高騰で銀歯1本で約6,300円の赤字
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「削るほど赤字」――診療報酬と材料費の深刻な乖離
現在、金パラを用いた保険診療では、材料価格や技工料の実勢価格と公定の診療報酬との間に大きな乖離が生じています。
実際に、各地の保険医協会などが公表している試算によれば、金パラの購入価格(市場実勢)、技工料、
その他のコスト これらを合算すると、国から支払われる診療報酬を大幅に上回り、1症例あたり6,000円を超える持ち出しになるケースが示されています。
これは一部の特殊な事例ではありません。
材料価格が高騰した局面では十分に起こり得る現象であり、「地域医療を守る責任感から診療を続けているが、やればやるほど経営が圧迫される」という、制度的なジレンマが現場に広がっています。
パラジウム高騰の背景――単一要因では説明できない現実
金パラ価格の上昇要因として、しばしばロシア情勢が挙げられます。
確かにロシアはパラジウムの主要産出国であり、地政学リスクが価格に多大な影響を与えてきたのは事実です。
しかし、現在の価格高止まりは、以下のような複合的な要因が重なっていると考えられます。
・世界的な貴金属価格の上昇(特に金価格の史上最高値更新)
・供給国の偏在による調達リスク
・産業用途や投機的取引を含む需給バランスの変動
こうした多角的な要因により、歯科材料としての安定供給や価格予測が極めて立てにくい不安定な状況が続いています。
代替材料は「解決策」になり得るのか
こうした状況を受け、厚生労働省はCAD/CAM冠の適応拡大など、金属使用量を抑える方向で制度整備を進めてきました。
しかし、現場からは以下のような声も根強く上がっています。
・咬合力や症例条件によっては、依然として金属材料を選択せざるを得ない
・CAD/CAM冠だけですべての症例を代替できるわけではない
つまり、代替材料の拡大は一定の緩和策にはなるものの、金パラ問題の根本的な解決には至っていないのが現状と言えるのではないでしょうか。
「随時改定」の限界――市場変動とのタイムラグ
金パラ価格については、診療報酬制度上に「随時改定」が導入されており、年に複数回(3月/6月/9月/12月)、材料価格の見直しが行われています。
しかし、この仕組みには構造的な課題が存在します。
・改定が四半期単位で行われること
・市場価格が急騰した場合、反映までに数ヶ月の時間差が生じること
このタイムラグがある以上、急激な価格変動に伴う負担は、一時的にすべて医療機関側が負うことになります。2025年末にも改定が行われましたが、市場実勢との乖離が完全に解消されたとは言い難く、「制度はあるが、スピードが追いついていない」という指摘は極めて妥当なものと言えます。
まとめ
「銀歯1本で約6,300円の赤字」という数字は、非常にセンセーショナルな表現ではありますが、実際の試算や現場の声と照らし合わせても、決して現実離れしたものではありません。
貴金属高騰の問題は、単なる材料費のコスト増という枠を超え、保険診療制度の価格決定プロセス、市場変動に対する柔軟な対応力、日本の歯科医療の持続可能性を見直すべき時期に来ていることを示唆しています。
Dentwaveでは今後も、診療報酬改定の動向や材料価格の変化、代替技術の進展、そして歯科医院経営を守るための視点から、現場に直結する情報を継続的に発信してまいります。




